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「……さて、いきなり明日が婚約者との顔合せね」




そう呟いた莉乃はアンティークに囲まれた豪華な広い子供の部屋とは思えない部屋を見回しソファーに腰掛けた。



あの後当然だが大皿を割ったことが使用人に見つかってしまい、叱責を覚悟した莉乃だが使用人は怪我の有無と莉乃の両親に報告致しますと言うことを義務的に淡々と告げるだけで怒られることは一切なかった。そして明日婚約者との顔合わせがある為家中の使用人たちが忙しく動き回っているのに習い、その使用人も割れ物を片付けたら忙しそうに戻って行った。




『お怪我は…御座いませんね。このことは報告致しますので、どうかお部屋へお戻り下さい』




なんの感情も篭ってない使用人の言葉を思い出す。……割れ物は危ないの一言ぐらいはあってもよかったんじゃないか、と莉乃はため息を付くが直ぐに無駄だな、と考えを打ち消した。




それもその筈。莉乃は生まれた頃から令嬢として扱われていたからだ。その存在は家の主である莉乃の両親に次ぐ力を持つと両親は使用人に告げ、如何なる場合でも莉乃に主観的感情を向ける使用人はいなかった。




今日まで何で令嬢だったら怒られないのかと疑問に思っていなかったけれど、今の莉乃ならその異常さがよく分かる。7年よくグレずに来れたものだ、と莉乃は感心するほどだ。倫理観や危険な物については家庭教師がこれまた淡々と教えていたので将来人の上に立つ人間ならその知識だけで立ち回れと言うことなのだろう。本当に7歳に向ける教育ではない。




しかしゲームの舞台である高校までには流石に今の純粋さが失われ、自身の感情のコントロールが出来なくなっていた。自身に感情を向けてくれる婚約者を奪われまいと外道だろうが何だろうが手段を問わない悪役に成り下がった。




莉乃はまずはそんなゲームの内容の整理だと、順を追って記憶を遡って行く。




愛の欠片もない世界で育った莉乃は、自身に優しく触れる婚約者に依存的な恋をしていた。婚約者も莉乃と同じ様な扱いを受けていた為、莉乃と共依存に陥る。そんな二人の間に入り“真実の愛”を成し遂げるのが主人公だ。




性格を除けば全てにおいて自分より優れている莉乃を、主人公はその性格一つでコテンパンにやり返していた。




どんな嫌がらせにも屈せず、どんな言葉にも屈せず、悪役から愛しの人を救い出す。といえば綺麗に聞こえるが実質は奪っているだけだ。




(……あの頃は平凡な自分に酔っていたのかしら)




今思うと少し引いてしまうストーリーだな、と莉乃は呆れた。主人公目線で見ると最低な悪役から愛しの男を引き剥がしてあげ、その愛を受けて地位も何もかも手に入れたシンデレラストーリー!だが冷静に考えれば人の物を奪うシンデレラだなんて厚かましい。




けれど前世では日頃抱えてる平凡による鬱憤を綺麗に晴らすことが出来ると、世の中の平凡女子の多くがこのゲームにハマり一躍ブームを起こしていた。





そんなどう考えても平凡女子から多くのストレスを当て付けられた莉乃は正しく当て馬でしかない。そのことを象徴するかのように___莉乃は婚約者を奪われるだけでなく、命さえ失うのだ。




いっそ自分以外のものになってしまうのなら、と莉乃はナイフを婚約者に向けたが、何を思ったから婚約者を刺すことはなくそのナイフで自分を貫いた。




何とも後味の悪い出来事だったが、悪は滅びるのだとプレイヤーの正義心を煽り、更に婚約破棄に至るので(そもそも死んだので)無事主人公が幸せになれるステップの一つと死さえ変えた。




「死ぬなんて無理よ馬鹿馬鹿しい」




莉乃は自身の未来に眉を顰め、何としてでも生きるわよと決心した。



そもそも自分でブッスリと刺したのなら自分が刺さなければいいだけだ。けれど前世の記憶を持ちゲームの登場人物になっているだなんてファンタジーな世界で絶対に莉乃が死なないと言う保証はない。




むしろゲームの舞台に入った途端ゲームの通りに世界が進む可能性の方が考えられる。本当なんて世界だ。




もちろんいくらゲームの登場人物でも明らかに今莉乃は生きているし、今までも薄かったけれど自我を持ち生きてきた。それに前世で夢見た理想の生活を今送ることが出来ている。




こんなフカフカのいくらするんだと聞きたくなるソファーが部屋にあり、大きなベッドや本棚や机があっても窮屈さを感じない程大きな部屋。そんな部屋がいくつもあり、沢山の使用人を抱えているこの屋敷。そして何よりこの美しい美貌。




一人の男の為に失うにしては、莉乃にとって余りにも大きすぎる代償だった。例え前世で夢中になった男でも、どれだけハイスペックな人間だとしてもこのお嬢様生活の方が大事だと断言できる。




だから莉乃は考えた。婚約者と主人公が早々にくっつけば何も問題がないのではないか、と。自分はこの容姿を使って婚約者より格上な家柄であるおじさんにでも嫁げば更なるお嬢様生活を送ることが出来るのではないか、と。




それしかない!と莉乃は思った。




「私はどこかのおじさまと結婚して、婚約者を主人公に押し付ける。完璧ね!」




パチン、と小さな両手を合わせた莉乃はまるで花が咲き誇るかのような笑みで笑った。どこからどう見ても愛らしい7歳だが、言っていることはどこからどう見ても7歳の発言ではない。




前世で結婚を諦めていた彼女だからこそ成せる見目麗しい男よりも金持ちのおじさんと結婚する宣言に、誰も突っ込みを入れることはない。





こうして輝かしい未来に向けて莉乃は明日に挑むことになったのだ。






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