第9話
そして、土をこねている者に目が留ったようで、しばらくその場で眺めていたが、やおらその者の近くに行き、自分にもやらせて欲しいと言い出した。土をこねていた者も拒むことなく、若者に指導するように一緒になって作業を進めた。
土をこね終わると、次はその土を使って形を作り始めた。若者は呑み込みが良いのか、見よう見真似で一つの器の形を作り上げた。その作業が面白かったらしく、その次は何をするのかと兄星の者に色々と話しかけていた。
話を聞き終えたらしく、次は土が乾き固まってから火で焼くのだとわかると、元の場所に戻って来ると弟星の族長に、
「なかなか面白いですよ。族長もやられてみてはいかがですか?」
と勧めた。
すると、弟星の族長は急に腹を立てたようで、
「そんなに軽々しく真似したりするでない。もし、危険なことがあって怪我でもしたらどうするつもりだ。それに、自らの生き方に誇りを持つのが我らであろう」
そう言ったかと思うと、二本足で立っていたのを止め、弟星に居た頃のように地面に手をついてしまった。若者はシュンとなり、族長に従うように自分も二本足だけで立つのを止めて、手を地面につけた。
その様子を見ていた兄星の族長が、静かに口を開いた。
「何故、そのように地球から来た方々の文明を拒みなさるのですか? 便利になる物、豊かになることを学び入れることは、自分達にとっても向上心を呼び起こすようになり、やがては自らの心にもやればできるのだという希望の光を宿すことになるのではないでしょうか。決して、あなたの仰るような誇りを失うしか捨てることにはならないではないですか?
まあ、それにすぐに決めつけることでもありますまい。少しゆっくりと我らと生活を共にして、それでもなお、あなた方の生活のが良いと思われれば向こうの星に帰ってから、今までの生活を続ければ良いし、こちらでの生活のが良いと思えたなら地球の方々の文明を受け入れれば良いではないですか」
そう言われると、弟星の族長も返す言葉が見つからないようで黙ってしまった。地球から来たリーダーを始め隊員達も皆、弟星の族長の言葉に感心した。
そして、リーダーがこう言った。
「なんて素直で謙虚な心構えだろう。我々人類は宇宙に進出して久しいが、未だに我々人類を超える文明に出会っていない。
もし、彼らのように自分達を上回る文明を持つ生物に遭遇したら、どちらの星の種族のような反応を示すだろうか?
恐らく、弟星の種族に近い振舞いをするかもしれない。いや、もっと攻撃的な態度をとるだろう。何しろ、自分達が一番優れていると思っているからこうして、他の星にも進出して来ているのだから……」
それを聞いた隊員の一人が、
「もしかしたら、弟星の種族の方がまだマシかも知れませんね。少なくとも、星全体の価値観や思想が一致している。これから、我々の文明を受け入れるにせよ、受け入れないにしても、こうして星の内で価値観や思想が一致している間は争うことはしないでしょう。
それに引き換え、我々人類は未だに国と国、或いは思想の違いからの争いを繰り返している……
こうして、他の星の生物に出会うことによって、我々人類も学ばなければならないことが多いのでしょうね。それらを受け入れることで、我々人類も精神的な進歩を遂げて行かなくては」
その言葉に他の隊員達も黙って肯いていた。