第7話
弟星から大気圏を脱するまで、宇宙船には物凄い重力がかかる。それを緩和する為に船内の気圧や重力を調節する装置が開発され、搭載されて今も稼働しているのだが、それでも通常のようにはならない。
その重力は隊員達にとっては訓練されているので常識なのだが、この星から出たことのない族長と若者にとっては、初めての体験なので顔をしかめて必死に体にかかる重力に耐えている様子だったが、堪りかねて族長が口を開いた。
「なんだ、この押し潰されるような感覚は……」
「それは、この星の引力。つまり、この星が我々を引き付けている力のことですが、そのおかげで、皆空中に浮き上がらずに地面にくっついていられた訳です。その力によって、空間が曲げられてしまっているのです。
それを上回る力を出さないと、我々はこの星の外には出られないのです。つまり、今この宇宙船は、この星の引き付ける力以上の力を出しているのです。その為に、押し潰されたような感じを受けているのですよ。
もっとも、実際はもっと凄い力が働いているのですけど、この宇宙船にはそれを和らげる装置がついているので、こんな程度で済んでいるのですがね」
リーダーがそう説明しているうちに、どうやら大気圏を脱して宇宙空間に出たらしく、押し潰されるような感覚はしなくなった。族長達もほっとしたようで、モニターに映る画像を眺めてまた口を開いた。
「なんだか体が軽くなったようだ。それに今度は急に夜になっぞ」
それを聞いたリーダーがまた説明を付け足すように言った。
「星の重力から脱して、宇宙空間に出たからですよ。星の周りには大気があるのでお日様が見えている時は、その光を反射して明るいのです。夜はお日様が見えなくなるので暗くなるのです。
でも、此処の宇宙空間には大気がないので、お日様の光を反射しないから夜のように暗いという訳です」
族長達の表情を見ると、リーダーの説明のほとんどが理解できないことのようで、それよりも今自分達がどうなっているのかを知りたいらしく、話よりもしきりに宇宙船の窓を覗いたりしていた。宇宙船の窓には、今飛び出してきた弟星が大きく見えていた。
それを見た族長がまたまた声を張り上げた。
「なんだ、あの大きな星は!」
「あれは、先ほどまで我々がいた星、つまりあなた達が暮らしていた星ですよ」
すると、族長も若者も大変驚いて、
「そんな筈はない。我らの暮らしていたところは平らだったではないか。それにあんなに大きくはないはずだ」
「大きいと地面からは丸いことに気付かないものですよ。それに、今大きく見えるのはまだ星の近くにいるからなんです。遠くの物は小さく見えるでしょう? 向こうの星に近づけば、向こうの星の方が大きくなり、こちらの星が向こうの星と同じくらいの大きさに見えるようになりますよ」
と、リーダーが答えた。
しばらくするうちに、弟星は段々と小さくなって行き、代わって兄星が目の前に大きく見え出した。 リーダーが言ったとおりになったのを見て、族長は唯その光景を黙って眺めているだけだった。若者はというと、リーダーに好奇の目を寄せているようだった。
やがて宇宙船は兄星の軌道に乗り、周回を始めた。リーダーが着陸の体制に入るようにと隊員達に指示を出した。そして族長達にも
「もう少しで向こうの星に到着します。着陸の時に多少の衝撃がありますから、出発した時のようにしっかりと椅子に座ってベルトをしてください」
と、わかり易く言った。族長と若者は黙ってリーダーの指示に従った。
宇宙船は、徐々に角度を変えて兄星に突入を開始した。大気圏に入ると、エンジンが減速する為に稼働し、ゆっくりと兄星の地表に再び着陸したのだった。
着陸した地点は、以前に着陸した場所よりも兄星の種族の暮らす場所に近いところであった。これは、以前やって来た時のデータを補正してより近くに着陸地点を設定したからである。
リーダーは隊員達に宇宙船に損傷が無いかを確認させると、無事に到着したことを地球の基地に報告し、族長達にもそのことを告げた。
「さあ、到着しましたよ。ここからそう遠くない場所にあなた達と同じ種族の方々が我々の仲間と一緒に暮らしています。そこまで、一緒について来てください」
そう言い終えると、船内から出るように促した。