第6話
その表情を見て、隊員の一人が言った。
「皮肉なもんだな。双子星の両方に同じ種族が生息していたのに、兄星では地球の文明を受け入れて進歩し、崇められていたのに対して、こちらの弟星では地球の文明を拒んで未だに原始的な生活を送り、従属させられていたなんて」
それを聞いた弟星の族長が、
「なんだと! 向こうの星にも我らと同じ者達がいるというのか。しかも、お前たちの文明とやらを受け入れて、我らよりも進んだ生活をしておるだと。そんなことは信じられん。もし本当なら、その証拠を見せてみろ」
と、凄い剣幕でまくし立てた。
確かに、話を聞かされただけでは信じられなくても当然だろうということになり、兄星で記録してきた映像を見せてみることになった。
一方で、今までこの星で従属させられて暮らしてきた隊員達は、一刻も早く地球に帰りたいとせがんだ。しかし、全員を宇宙船に乗せると定員をオーバーしてしまう。
どちらにしても、一度宇宙船に戻り、地球の基地に報告をして指示を仰いだ方が良いだろうとリーダーは判断した。
そこで、一行は族長と自分も一緒に行きたいと願い出た若者一名を加えて、まず特殊車両のある地点まで行き、そこから宇宙船に向かうことになった。
特殊車両のあるところまで来ると、その物体を目の当たりにして族長と若者は驚いた様子で、これは何かを尋ねた。隊員達は説明しても、わからないだろうと車内に二人を招き入れた。そして二人を乗せたまま、宇宙船に向かって進み始めた。
族長は自分達が動いていないのに周りの風景が動いてゆくので、少し怯えた様子で固まってしまっているように身動きひとつせずにいたが、一緒に来た若者はむしろ未知の物に対して目を輝かせているように見えた。
暫くして宇宙船が見えてきた。陽に反射して輝き、近づくにつれ岩山のようにそびえ立つ巨大な物体に、隊員以外の二人は茫然と眺めているばかりだった。
到着すると、特殊車両を降りて船内に入るようにと二人を促して、その前後ろを隊員達が挟み込むようにして宇宙船の中に入っていった。
隊員達のリーダーは、地球の基地に交信機で連絡をとり、弟星で消息を絶っていた隊員達も全員無事であることと、全員を宇宙船に収容して帰還するには定員を超過してしまうことを報告した。
地球からの回答は、もう一台の宇宙船を弟星に向かわせるとの回答だった。もう一台の宇宙船がこの星に到着するまでには、日にちがかかる。
そこで、到着するまでの間を宇宙船で過ごすことにした。その間、一人の隊員に、先ほどから押し黙っている族長と若者に、兄星での様子を撮影してきた映像を見せるように指示を出した。
隊員がパネルに組み込まれた装置を操作すると、静まり返っていた船内の前面の壁に映像と共に音が響き渡った。
族長と若者は、飛び上らんばかりにビクッとしたが、すぐに眼の前に広がった光景に食い入るように見入っていた。そこには、兄星での映像が映し出されていた。見たこともない建築物が表れたかと思うと、自分達と同じ姿をした者がそこから出てきた。
そして、その者の後を追うように映像が動いてゆく。やがて、その者は火を起こした。火を起こすことを怪しげな術と思いこみ、実際に見たことのなかった族長は、木と木を激しく擦り合わせることで発火する様子を見て、
「おお、何もないところから火を出しおった。こうして火を起こしていたのか」
呟くと、少し納得した様子だった。
次に、火の上に平らな石を置き、肉と草のような物と木の実を使い料理を始めると、料理するということを知らない族長がまた、
「火の上に石を置いて、今度は何をしておるのだ?」
と、けげんそうな表情で聞いた。
「あれは火の熱を石に伝えて、その熱を使って肉を焼いたり野菜や木の実を炒めているのです。そうすると味も良くなるし、病気になる虫なども死んでしまいますから」
族長は相変わらず信じ難いというような表情をしているが、若者は関心しているようで熱のこもった眼差しで見入っている。
映像の中の者は、料理が終わったらしく火を砂をかけて消した。ここで、従属させられていた隊員が声を上げた。
「ほら、あの時の私達もこうやって火を消そうとしていたんだ。これで私達が彼を殺そうとしたのではなく、助けようとしていたことがわかっただろう!」
そう言われて、族長は少し気まずい表情を見せたが、黙ったままだった。
火を消し終わると、建物の中に入って行ったと思うと、今度は器のような物を持ってまた外に出てきた。そして、手には器を重ねて持ったまま、料理していた場所まで二本足で歩いて戻って来て、料理を盛り付けた。
それを見て二人は驚いているようだが、族長と若者では若干その反応したところが違ったようだ。族長は、
「あの手に持っている物はなんだ?」
と、聞き返した。
「あれは土を水で練ってから形を作って、それを焼き固めた物です。色々な形を自在に作れるので水を溜めておく物から、ああやって料理を盛り付ける物まで作れるのです」
リーダーが答えると、今度は若者が
「土からあんな物まで作れるのも凄いが、手に物を持ったまま歩いている。我らのように手をついた歩き方では、あんなに大量には運べない。それに土から出来た物なら手をついた途端に衝撃で壊れてしまうだろう」
と、二足歩行に対する利点に気付いたようで、しきりに感心しているようだった。
そう言われると、族長もそのことを認めない訳にもいかないらしく、
「うむむ」
と唸った後に、また黙り込んでしまった。
リーダーは、この辺で映像を見せるのは良いだろうと思い二人に尋ねた。
「これが向こう側の星に住んでする種族と生活様式です。あなた達と同じ姿形をしている種族がいるのです。彼らも我々の前にやって来た仲間者達が来るまでは、あなた達と同じ生活をしていたそうですよ。それが彼らは我々の知恵を受け入れて、あのように歩き方や生活まで変わったのです。どうですか、彼らのように我々を受け入れて、共により良い生活を築上げて行こうという気はありませんか?」
すると、族長がそれに対して答えた。
「これは、お前達がまた怪しげな術で我らを騙そうとしておるのだろう。こんなまやかしを見せて、信じると思っているのか。もし、本当に向こうの星にも我らと同じ仲間がいるというなら、そこに連れて行って直接話をさせてみろ!」
族長がそう言うと、先ほどまで関心を示していた若者までが直接会うまでは信じられないと言い出した。
リーダーもそこまで言われると、彼らを兄星に連れて行かなくては納得しないだろうと考え、地球の基地に彼らの要望を伝え、計画の変更を提案した。
その計画とは、この宇宙船で兄星と弟星にいた隊員達を地球に帰還させ、こちらに向かっている宇宙船に乗り換えて、族長と若者を兄星まで連れて行き、再びこの弟星に戻ってから地球に帰還するという計画である。地球の基地もその計画を了承した。
迎えの宇宙船がやって来るまでの間の数日は、船内に保管してある宇宙食でお腹を満たした。族長と若者は、初めて見るその食糧に警戒してなかなか食べようとはしなかったが、隊員達が平気で口に頬張るのを見たからなのか、背に腹は代えられないからなのかはわからないが、恐る恐る食べ始めた。
「なんだこの味は。今まで味わったことのない、何とも言えない不思議な味だ」
そう言って、以降は文句も言わずに宇宙食を食べたのだった。
幾日かが過ぎた頃、轟音と共に空から一固まりの物体が落ちてくるのが見えた。やがて徐々に速度が緩やかになり、眼で確認できる地点に降り立った。
それは、待っていた宇宙船だった。地球の基地からも連絡があった。それは、もう一台の宇宙線が弟星に着陸したという知らせだった。
着陸した地点はそう遠くはなく、歩いて行ける距離だったので、地球に帰還したいと願う隊員達を残し、あとの隊員達は族長と若者を連れて、もう一台の宇宙船に向けて歩きだした。
もう一台の宇宙船に到着すると、ここまで操縦してきた隊員達と対面した。
「お待ちしていました。御苦労さまです。航海の途中で基地から連絡があったと思いますが、計画が少々変更になりまして」
「聞いています。それで我々は、どうすれば良いのでしょうか?」
「到着してすぐで申し訳ないのですが、私達の乗って来た宇宙船が近くにありますので、それで地球に帰りたがっている隊員達を連れて帰還してください。我々は、此処にいる残りの隊員達とこの弟星の二人を連れて、再び兄星に向いますから」
リーダーがそう言うと、到着したばかりの隊員達はこの周りを見まわし、この星の住人である族長と若者を興味深げに見つめた。
「この者達がこの弟星の者達ですね。なるほど、地球に送られてきた映像どおりだ」
「興味があるでしょうが、今は時間の余裕がありませんので地球に帰還したら、ゆっくりとデータや映像をご覧になってください。なにしろ向こうの宇宙船には、地球に帰ることを心待ちにしている者達がまっていますから」
リーダーは、その隊員達に自分達の乗って来た宇宙船の位置を告げると、早く向かうように促した。こうして機体の交換をしたのだ。
船内で待機していると、地球の基地から連絡が入った。先ほど交代した隊員達が自分達の乗って来た宇宙船に到着し、これから地球に帰還するとのことである。
「よし、これでひと安心だ。我々も兄星に向かおう。族長、あなた達はこちらに座ってください。これから向こうの星に出発しますよ。着いたら直接、その目で確認してくださいよ。では、全員配置に就け!」
リーダーが号令を掛けると、直ちに隊員達は出発の準備を始めた。
「目標、兄星にセットしました。準備完了!」
「よし、これより兄星に向かう。エンジン点火。出発!」
宇宙船は、再び轟音を辺りに響かせて離陸し、兄星へと向けて旅立ったのである。