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第5話

 それを見て、隊員達は驚いた。特に驚いたのは兄星に留まっていた隊員達で、

「移動するのに手をついている。我々が兄星に辿り着いた時の状態と同じだ。我々の仲間が一緒に暮らしていると言っていたのに、少しも進歩していないなんてどういうことだ」

兄星に留まっていた隊員の一人が言うと、別の隊員が

「いや、彼らはたまたま以前の癖が出たんだろう。我々人類だって、一度に全ての者が新しいことに習った訳ではないし、何しろ人類が来てから十数年しか経っていないのだから彼のように、つい昔の癖が出てしまう者もいるんだろう」

その隊員の意見に皆納得し、取り敢えずその彼の後を追った。

 細い獣道をしばらく進むと、谷合いに出た。そこには、大勢の彼と同じ姿をした者達が集まっていた。そのさまは、兄星で見かけた集落というより、むしろ群れと呼んだ方が近い感じがした。

 その集団のところに着くと、おもむろに

「着いたぞ。今、族長に伝えてくるから此処で大人しく待っていろ」

そう言い残して、彼の姿は奥の方に消えた。

 隊員達は、そこで待つ間に彼の仲間の行動を眺めて暇を潰していたが、彼らは誰一人として二足歩行をせず、手をついて移動していることに驚いた。

「どういうことだ! 彼だけでなく、皆手をついて移動していぞ」

「それに生肉をそのまま食べているし、とても兄星と同じ種族とは思えない」

「どちらにも我々人類がやって来たはずなのに、この差はどういうことだ」

 そう隊員達が口々に話していると、先ほど奥に消えた彼と数名の者がやって来た。その中には、十数年前に消息を絶ったと思われる隊員の姿もあった。

 しかし、その隊員達も手をついて歩いて来たのだ。驚いて、どうしてそんな格好をしているのかを尋ねると、その内の一人の隊員が話し出した。

「我々の乗った宇宙船は、何とかこの星の軌道に乗ることには成功した。だが、大気圏に突入すると重力が強く、エンジンの出力を最大にしても思っていたよりも減速出来ずに落下するようにして、地表に落下してしまったのさ。

 その為に宇宙船は酷い損傷を受けて故障してしまったが、幸いにして命だけは助かった。地球に助けを求めようにも交信機までもが壊れていて、それも無理だった。

 仕方なく外に出て、さ迷っていたところに彼らと遭遇し、話しかけられたのだ。言葉は、我々の用いる言語とよく似ていたので理解することができた。

 彼らは、我々が何処から来たのか、どうしてそんな格好をしているのかと色々と質問を浴びせてきた。そして、こちらが答える暇も与えずに、二本の足だけで歩くのは変だと言ってきた。

 そうこうしている間に、この族長のいるところまで我々は連れていかれた。丁度、今の君達のようにね」

 そこまで話すと、それまで黙って聞いていた族長らしき者が遮るように、話に割って入ってきた。

「この物共に対して、我らは友好的に接してやったのだ。ところが、ある日怪しき術を用いて火を起こし、与えた食べ物を焼き払ったばかりか、その火で我らの仲間にも大怪我を負わせたのだ。

 いくら寛大な我らでも許し難いことであったが、今後は我らと同じように過ごすならばという条件で許してやった訳だ。

 ところが、こいつらは相変わらず我らに馴染もうともせず、危なっかしく二本の足だけで歩いておるではないか。それを真似する者が出て、仲間がまた怪我でもしたら大変なことになる。そこで、歩き方も我らのようにするように命じたのだ」

 すると、族長の後ろに従うようにしていた隊員の一人が、また口を開いた。

「違うんだ。全ては誤解なんだ。彼らのくれた食べ物とは、生肉だったんだ。さすがにそれをそのまま食べる気にはなれなかった。

 そこで、枯れ枝と草を探して、どうにか火を起こしたんだ。その上で肉を焙っていると、やがて香ばしい匂いが立ち始めた。

 すると、彼らの仲間のうち一人がやって来て、何をしているのか尋ねたので、肉を焼いて食べるのだと答えたんだ。そして火を起こすにはどうすればよいのかと、また尋ねられた。

 そこで一緒に説明しながら火を起こしたんだが、何を思ったのかそいつは火の中に手を入れてしまったんだ。何しろ見ての通り、彼らは全身に毛皮を着ているようなものだから、たちまち火は彼の体に燃え移り、全身に広がった。 私達は、急いで彼の体に砂を掛けたり、転がして火を消そうとした。

 そのうち、彼の仲間が集まりだして、私達が彼を焼き殺そうとしていると騒ぎ出したんだ。そこに丁度、この族長が現れたので事の経緯を説明したんたが、信じて貰えなかった。

 一時期は捕えられて、我々が殺されかけたんだが、先ほど話に出てきた条件を受け入れることで、ようやく一命は取りとめ許されたということなんだ。

 今では、彼らと同じように生肉を食べ、手をついて歩いているという訳さ。もう、十年以上もそうしてきたから慣れたがね」

そう言って、半ば諦め顔をして話を続けた。

「ところで、君達はこの星にどうやって来たんだい? 君達も不時着したのかい?」

その質問には、隊員のリーダーが答えた。

「いいえ違います。我々人類は、この弟星にも無事に着陸できる性能を持った新型の宇宙船の開発に成功したのです。そして、再度この星の調査とあなた方の安否を確認する為に、こうしてやって来たのです」

「本当か! それならば、お願いだから一刻も早く私達を地球に連れて帰ってくれ。そうすれば、もうこんな格好をさせられながら暮らさなくても済む」

先ほどまで、うな垂れて諦めきっていた顔と眼が、輝き出した。

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