第4話
兄星の重力を脱した宇宙船は弟星の軌道に乗り、そこから何周かしながら、着陸するのに適した地点とその為の進入角度や速度を割り出した。そのデータを宇宙船にセットして自動操縦に切り替えて弟星への突入に備えた。
ほどなくして、宇宙船はセットされた地点に達すると、徐々に角度を変えて弟星に突入を開始した。
十数年前に幾度となく人類を拒むように人類の進出を阻んできたこの星も、今回は以外な程すんなりとその進入を許し、宇宙船は大気圏に入ると減速を始め、やがて地上へと着陸したのである。
隊員達も、その順調さに拍子抜けしてしまう程だった。兄星に長年留まっていた隊員が、
「科学の進歩には目覚ましいものがあるな。私達の乗ってきた宇宙船などは、兄星でさえ着陸に難航して故障してしまったのに……」
そう言われると、他の隊員達も科学者から聞いていた性能の違いを改めて実感したのだった。
科学者達が言うには、この宇宙船と旧型の宇宙船とを比較すると、エンジンの出力は二倍になり、燃費や耐久性も向上したので旧型は地球と双子星のどちらかとを往復するのが限界であったのに対し、新型は地球と双子星のどちらかを二往復してもなお、余力があるのだと口を揃えていた。
実際に兄星に難なく着陸し、そこからまた自力で飛び立って、こうして困難と思われた弟星にも無事に着陸することができたのだから。
そのことに感心していると一人の隊員が、はたと気づいたように、
「無事に着陸できたことを地球の基地に報告しなくては」
そう言って交信機で報告すると共に、弟星の調査指令を受けた。
隊員達は、早速無人探査船のデータを基に作成された地図を映しだして、現在の自分達の着陸した地点と、文明の痕跡らしき物が確認された場所との距離を測ってみた。どうやら、徒歩での移動にはやや距離があり過ぎるようだ。
そこで、今回も兄星で用いた特殊車両で移動することになった。隊員達は車に乗り込むと、目的地を目指しながらも慎重に進み始めた。辺りを注意深く観察していると、目的地の方向に何やら人影らしき物が見えてきた。
しかし、その人影らしき物は兄星の時のように近づいてくる気配がない。だが、逃げるという様子もなく、唯じっと其処に居座って動かない。こちらから不用意に近づくと、攻撃してこないとも限らない。 そこで、車に搭載されているカメラでその周辺を拡大して見てみた。
モニターに映し出されたのは、兄星で見たゴリラやオラウータンに似た生物とそっくりだった。
「この星にも兄星と同じ種族が住んでいたのか。それならきっと、友好的に我々を迎え入れてくれるに違いない」
そう、兄星にいた隊員が言った。
そこで、人影のいる場所まで車を移動させ、相手が逃げないことを確認してからマイクを使って、兄星で用いられていた言葉で話しかけてみた。
「こんにちは、私達は地球と言う星からやって来た者です。以前にも私達の仲間が来たと思うのですが、今はどうしているでしょうか?」
その相手は、ギョッとした表情をしてこちらを見つめ、固まったように動かないでいた。どうやら、この特殊車両が喋っているものと勘違いをしているようだ。
隊員達は、自分達の姿を見せた方が安心するのではと思い、万が一に備えて簡単な武器を身に付けて車の外に出た。
相手も安心したのか、すぐ間近まで近づいても攻撃してくることもなく、逃げることもしないで、待っていたように
「なんだ、以前やって来た連中と本当に同じようだな。二本の足だけで歩いてる。しかし、その動いたり声を出す大きな物体は何なんだ。前に来た奴らはそんな物に入って来なかったぞ」
「では、以前此処に私達の仲間が来たんですね。今も生きていますか?」
「生きているも何も、今では我らと一緒に暮らしている」
十数年前に消息を絶った隊員達が無事でいると聞くと全員で喜び合い、隊員の一人がすぐ話を続けた。
「彼らは、どうやって来たのですか? それと是非、あなた達の暮らしているところまで私達を案内しては貰えないでしょうか」
「どうやって来たかだって? 歩いて来たに決まっているだろう。お前達と同じように二本の足で、そうやってヒョコヒョコとな。
それと、一緒に連れて行くのは構わないが、その後のことは族長が決めることだからな」
「では、一緒に連れて行って下さい」
その返事を聞くと、弟星の生物は黙って先に歩き出した。