襲来
選択肢は一つに絞られている。よそ見をしていた不良少年が悪いとは決して言えない。言えるわけがない!
誰が悪いか、言っても言わなくても状況はきっと変わらないだろう。ならいっそこの場から逃げた方が良いのではと走り去ろうとした。
「――あらあら、こんなところで何をしているのです?」
振り返ると深緑色の髪に暗い目をした綺麗な女性が困った顔で立っていた。気配が全く感じられず背筋がゾクリとしてしまう。
「え?あ、あぁ……ゴブリを捜しているんです」
「あらあら、ゴブリを捜しているのね。ゴブリならさっき見ましたよ。私とすれ違いざまに慌てて逃げていったわ……クスクス」
多分それ今のゴブリだと思いつつも暗い目をした女性の話に相槌を打つ。
「……待て」
遠くから黙って話を聞いていた不良少年が私と暗い目をした女性の間に割り込み、暗い目をした女性を睨みつける。
「ふふ……貴方も会話に加わりたかったのかしら? 意外と寂しがり屋さんねぇ」
「何故お前程の力を持った者がこんな場所にいる」
不良少年は手に持っていた剣を暗い目をした女性に向けた。私は「やめなよ!」と言うが完璧に無視されてしまう。……地味にヘこむ。
「あらあら最近の子は物騒ねぇ……。 怖いわー」
「……もう一度聞く。何故上級悪魔がここにいる」
「ちょっと!やめなって!話に加わりたいからって規模の大きすぎる冗談は止してよー」
「……別に会話に加わりたいわけじゃない。勝手に勘違いするな。……というかお前は黙っていろ。話がこじれる」
「とりあえず剣はしまおうか?」と不良少年を説得するが受け流される。「いい加減にしてよ」と怒鳴ろうとするが、ちょうどその時。辺りが目を刺すような眩しすぎる光に覆われた。
「うわッ!? なにこれ眩しい!」
目が開けられない程の光が眼に差し込む。目を閉じていてもまだ眩しいくらいだ。それに加えバチバチと火花が飛び散るような音が聞こえ、どこか焦げ臭い。
「……これは、雷魔法の一種か」
不良少年はサングラスを装着していた為、状況を把握しているようだ。私もサングラスかけとけばよかったと悔やんだ。
「な、なにっ?なにが起きてるの!?」
「ふふっ……うふふふふっ……!」
暗い目をした女性の笑い声が聞こえる。身の毛がよだつ程の不気味な笑い声――聞いているだけで背筋が凍る。
視界が見えないものの多分暗い目をした女性は困った顔で笑っているのだろう。笑い声と共に火花の音が激しさを増し、次第に全身がピリピリと痺れてきた。
「ふふふ……馬鹿ですねぇ。私が悪魔と言う事を口に出さなければ命は獲らないであげたのに」
「俺は悪魔を野放しにするほど、優しくは無いんだ」
「まぁ、どうせ何をしようと貴方達は私に殺される運命ですし? 最期にお約束の自己紹介でもしときますね?私はメリーさん。とっても恐ろしい悪魔です。 折角ですから貴方達も名前くらい名乗ったらどうです?」
自分はたまたまそこに居合わせただけなのに何故殺されなきゃならないのっ!?と不満を持ちつつもここはお約束にちなんで目をつぶりながら渋々と私は名乗った。
「マドカ。……マドカ・ルミナス、です」
続いて不良少年も名乗った。
「……クライン」
「あらあら、マドカにクラインと言うのね。うふふふっ!では名前を聞いたところで消えてもらうとしましょう! それではさようならッ!」
――ピシャアアアアアァァンッ!
音からして分かる巨大な雷が近くで落ちる音がした。雷が落ちた衝撃で爆風が発生し息が出来ない程のが風圧が私を襲う……。
ーーー時間が経つと次第に激しかった爆風は徐々に弱まり最後には何も無かったかのように治まった。爆風のせいでクシャクシャになった髪の毛をいつも通りに整える。元ヒキニートでも花も恥じらう乙女なのだ――そんなことを思っているといつの間にか眼を刺激していた眩い光が消えていた事に気づく。
それよりもあのクラインと名乗った不良少年はどうしたのだろうか?まさか落雷が直撃してしまったのでは……?サングラスだけ残っていたらどうしよう……?心に不安が芽生え、恐る恐る目を開いた。
電気の力って凄いですよね。
どうも電気の力にひれ伏したことのある西條です。
西條は甘いスイーツがあまり好きではありません。いや、好きには好きなんですが、そんな毎日食べるほど好きではありません。
かといってしょっぱいものも毎日食べたいと思うほど好きではありません。
じゃあ、何が好きなんだと聞かれると西條はお粥が好きです。