私の幼なじみ
「でも私がレンカの代わりに頑張んないとね! うん。頑張ろうっ!」
「「頑張る」って言葉と一番無縁な奴が頑張るって言うなんて、世も末だな」
隙間無く生える木々を無理矢理通り抜け私のもとに一人の黒い少女がやって来た。
少女は全体的に黒い。腰まで垂れたツインテール。太陽世界では珍しい黒髪に黒いワンピース、黒いニーソックス。ここまでくれば靴も当然黒。肌の色と服の胸部分に付いている翡翠のブローチが無ければ全身黒ずくめだった。
私のように聖魔学園の制服は着ていないものの、この子もまた聖魔学園に入った仲間ーー新入生だ。
「あ!ユカリ。捜したんだよ!」
全体的に黒い少女の名前はユカリ。
【黒の一族】と呼ばれる武闘や攻撃魔法に長けた戦闘一族であり、私の幼馴染でもあるのだ。
――私達の出会いはレンカが行方不明になり、私がレンカの友人であるユカリの両親に引き取られたところから始まった。
私は今では考えられないが相当人見知りが激しいコミュ症だった。レンカが消えた事もあってか、いつも部屋で一人閉じ籠っていた。
恥ずかしい話、ヒキニートだったのだ、昔の私は。
そんな私の心の殻をブチ破ったのがユカリだ。ユカリはいつも私の部屋に入り浸り色々な話をしてくれた。最初の内は「帰って」やら「話しかけないで」といった酷い事をユカリに言ってしまったけれどユカリは帰らず、ずっと話しかけてきた。
そんな私は次第にユカリに心を開き、それから私達が親友になるのはジェットコースター並みに早かった。今ではユカリは私にとってなくてはならない存在になっている。
私が聖魔学園に行くことを決めた日。ユカリにその事を打ち明けると何の躊躇いも無く「私も行くぜ」と言ってくれた――。
その言葉がどれだけ私の励みになったことか……‥…‥。当の本人は知りもしないだろう。
「違う違う。私が捜したんだ。お前が勝手に森の中をズカズカ歩くから見失っちゃったぜ」
ユカリの言っている事は全て逆である。勝手に森の中をズカズカ歩いて行ったのはユカリの方だ。ユカリはただの天邪鬼。捻くれ者なのだ。そこが可愛らしいとこなんだけどね。
「じゃあそういうことでいいよ」
「そうそう。引き籠りは無理するなって」
「【聖魔学園教訓その一!聖魔学園生徒になれた事を誇りに思い清く正しく職務を全うせよ】」
「課題の教訓覚えたのか!? 能無しのお前がそんな反吐が出るような長ったらしい文覚える日が来るとはなぁ……感動の他ならないぜ」
ユカリは愛くるしい顔立ちとは似ても似つかないほど口が悪い。どうやら私は小馬鹿にされているようだが私は馬鹿なので特に気には留めない。
「ユカリは覚えてないの? 聖魔学園教訓」
「あんなのそのうち覚えるって。 それより問題はゴブリ狩りだぜ」
話を逸らされた気をするが確かにゴブリ狩りは問題だ。
〈ゴブリ〉――『地』のエレメント属性を司る下級の悪魔。基本どこにでも生息していてこの太陽世界で最もポピュラー基本的な悪魔らしい。
RPGで言う「こいつ、経験値も金も少ないんだよな~」的なポジションの類。〇ライム的な?
しかし、下級悪魔のゴブリと雖も悪魔は悪魔だ。なりふり構わず人間を襲う。戦闘経験が一切無い私が戦えば苦戦は必須だ。というか死ぬ。即死。
ユカリは黒の一族なのでゴブリ五匹などいとも簡単に倒せるだろう。
「私、戦闘経験とか無いけど大丈夫かな?」
「大丈夫じゃない。全然大丈夫じゃない」
「【聖魔学園教訓その六。死を恐れ、躊躇したらそこで終わり。まずは考えるより行動が先】」
「いやいやいや!お前の場合限度があるだろ! 戦いも知らないお前がいきなり行動しても死ぬだけだから!お前は聖魔学園教訓その六の例外だ」
「いやでもさ? 戦闘って積み重ねるごとに経験が増して強くなるじゃん? まぁ、私は経験値低いザコ退治より経験値高いボス戦がいいなーあとほら!レアアイテム珍しい物落とするかもだし?」
黙って聞いていたユカリは深いため息をついていた。そしてその後すぐに「馬鹿か」と毒づく。私は根っからの引きこもり体質ゆえ世間知らずなのだがこれは世間知らずと言うよりダメ人間ゲームのやり過ぎと言った方が良い、のかな?
このダメ人間……根本的に駄目だな。という冷めた目でユカリは私を見ていた。事実なのだから反論はしないし訂正する気も無い
「な、なぁ?私たちのチームにもう一人誰か入れないか?」
『チーム』は死亡者が出ないように安全面を考慮した2、3人で構成される隊の事。
悪魔を狩るときは必ずチームで活動しなければならないと聖魔学園教訓第二条に書いてある。
「あ、いいね。それ。でも聖魔学園に入学して結構時間経ってけどぼっち一人の人なんているの?」
「ぼっち浮いてる奴くらい、きっと一人はいるだろ」
「なんでわかるの?」
「私の感だ」
「ちょっと心配だなぁ」と心の中で呟く。ユカリは昔から運が無い。感は当たるのだがその度何か災難が起きる。それ程、運が無いのだ。
そんな事を思っていると私の足元で一匹の小さな牙獣が通り過ぎた。
「「あ。」」
灰色の毛並み、悪魔特有の紅い瞳に角や鋭い牙。まさしく本で見たゴブリそのものだった。
はい、西條です。
読めばわかる通り、このマドカちゃん……‥…‥
根っからのダメ人間です!
ダメ人間なのです!(大事なことなので2回言いました)
オレ天のマドカは主人公ロキの良き先輩役だったのですがこのマドカは先輩も糞もありません。ダメ人間です。幼なじみも呆れるほどの。
このダメ人間がどこまで成長するのか生暖かい目で見守ってください(^^)