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聖魔戦記  作者: 西條
豊雲祭
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心との葛藤


「……ツインテに何をした」



 突如眠りに落ちてしまったツインテを見て俺は言った。

 何をしたと聞いても大方、先程のお魚クッキーとやらか茶に睡眠薬でも入っていたのだろう。お魚クッキーを少し食べてみたかったなという気もあったが今はそんな事言ってられない。



「食事にちょっと睡眠薬を入れただけさ。お前も食べていれば痛い目に合わずに済んだというのに……」


「そろそろ全て話してくれないか。どうやら俺は痛い目に合うらしいからそれぐらい教えてくれないと割に合わない」


「……。黒竜が提示した条件は生贄の要求だ。 そうすれば雲の聖魔も開放するし村も破壊しない。俺達はレデレアの住民は全員血の繋がった家族みたいなもんだ。家族を誰一人失いたくない。誰もがそう思った……。そんな時、あいつが現れた……」



「……あいつ?」


「赤い髪の「盗賊だぜ!」とか言ってるやつだ。そいつは勇敢にも黒竜に立ち向かった。……だがたったの数秒で倒されてしまった。もう倒せる相手じゃない……だから俺達は生贄を集めることにしたんだ。生贄は雲の聖魔の様子を見に来る聖魔学園の生徒がいいと黒竜は言ったからな」



 話の全容が明らかになった。……なんとも一方的な話で頭が痛くなる。

 このまま黙って捕まったら黒い竜の生贄にされてしまう。黒竜を倒すのが一番の解決策なのだが赤毛の自称盗賊――バイオレットが先にそれを無理だと身を挺して証明してくれた。


「……その赤毛はどうした」


「あぁ。かなり衰弱しているが死にはしないだろう。今は倉庫に閉じ込めている」


「そう、か」


 非常に困った。

 一人で駄目なら自分とツインテとバイオレットが束になって挑めばいいと思っていた――がツインテはしばらく夢の中。バイオレットはかなり弱っている。流石に俺一人だけでは無駄死にするだけだ。ちなみにマドカは戦力にはならないので頭数には入れていない。



「本当にお前達には申し訳ないと思っている…。でもこれも村の為なんだ……!」



 きっとこの場にマドカがいたのなら「その黒い竜を説得しよう!」と馬鹿な事を抜かしていただろう。

 マドカなら確実に全員が助かる方法(ハッピーエンド)を考えるはずだ。誰かが生贄になるなんて(バッドエンド)は多分頭に無い。……あいつはそんな平和主義者だ。


 俺にはマドカのように『和解』なんて出来ない。自分の柄じゃないし出来る訳も無い。



(俺には俺のやり方がある。あいつの真似なんてしなくてもこの場をやり逃げる方法が……)



「な、なにをするんだ……!」



 俺は腰に携えている剣をホルダーから取り出し、剣先をゲハに向ける。



 ――簡単な事さ。こいつを殺してマドカとツインテとバイオレットを連れて逃げればいい。


 村が滅ぶなんて自分には関係の無い事(他人事)だ。


 シオンには「雲の聖魔は黒い竜に囚われている」。ただそれだけ伝えればいい。シオンは雲の聖魔の様子を見てこい、と言っただけだ。任務は遂行した。文句は言われない。



(これが俺のやり方。……マドカ、俺はお前とは違うんだ)



「……残念だがお前にはここで消えてもらう」



 勝負は一瞬。考える暇も与えず、即殺す。

 俺は片足を重点に置き、一歩踏み出し――飛び上がった。

 飛び上がった俺は空中で一回転をし足音も立てずにゲハの背後に着地した。ゲハは驚く……というよりも状況が全く分からずにいた。


 ゲハの背後に来るまで僅か一秒足らず。俺の速さにゲハの思考は追いつかない。

 ゲハの首筋に剣を当てた。


 これから死ぬ相手に「すまない」なんて言葉を使うものでは無いだろう。

 それを言ったところで許してもらえるわけでも無いし第一、相手に同情してもいないのに「すまない」なんて言葉かけられるわけがない。





 首筋を切り裂こうとした。


 剣を一振りするだけで、それは一瞬で終わってしまう簡単な作業なのに――。


 俺の手がピタリと止まる。



 こいつは決して悪い奴では無い。本当に、殺していいのか……? 一瞬だけ、そんな考えが自分の中で生まれてしまう。


 何を殺すのに躊躇しているのだ。こいつは今日会ったばかりの全くの赤の他人なんだぞ? と自分の中で何度も、何度も言い聞かせる。


 こいつは運が無かっただけだ。


 偶然、俺がこの任務を受け持ち、偶然この男に出会い、偶然殺す事になった。

 全ては『偶然』の重なり合い。たかがそれだけのこと。




(そうだ。『偶然』なんだ。偶然ならば殺してもいい……はずだ)




 ここでふと考える。自分では分からないが、もしかしたら俺はゲハに《同情》、《憐み》に近い感情を抱いているのか?と。自分の中にも《心》というものがあるというのか?





(違う違う違う違う違う違う違う違うッ!俺にそんなものなんて無いッ!)




 心なんてあるから邪念が生まれる。心なんてあるから争いが起こる。

 人間が持つ『心』は弱さの塊だ。そんなものは不要だ。ましてや俺にあるわけが無い。


 だが現に自分は今、ゲハを庇おうとした。これは心が芽生えたということだ。

 

 心が芽生えた=弱くなる。


 弱い自分なんて嫌だ。また大切な人を失ってしまう。


「違う……俺は」


「………?」


 流石にゲハもこれだけ時間が経てば自分の置かれている状況を把握しただろう。

 殺すのは失敗した。逃げる事にも失敗。……竜の生贄決定だ。


 ゲハは振り返り俺と目が合う。


 内心、俺の事を見下しているだろう。人間とは弱き人間を見下す習性があると聞いた。自分が弱くても、他者を見下す。そうする事で自分は強者だと言う心が芽生え、自分の中の弱さを薄れさせる。麻薬みたいなものだ。





「だ、大丈夫か?」





 ――だがゲハはオレに対し言った一言は実に意外で俺は呆気に取られる。


 殺される事を理解したうえでゲハは「大丈夫か?」と俺の身を案ずるような事を言ったのだ。聞き間違いかと思ったが違う。ゲハは確実に「大丈夫か?」と言った。



「なんで……なんで、そんなことを……言うんだ」


「心配してるからに決まってるだろ!」



 見ず知らずの奴に「心配している」なんて言葉久しぶりに言われた。……人間とは本当に理解できない生物だ。



(ここは素直に喜ぶべきなのか?……いやいや素直に喜ぶこと自体俺に出来ないだろ)




 ――コツン。


 どう反応していいか分からないでいる俺の足元に何か固いものが当たった。

 それは丸くて黒く、そう、バイオレットの爆弾を一回り小さくしたような玉だ。手に取ろうとした時、玉は小さな爆発を起こした。


 爆発、と言ってもダメージは皆無。視界が硝煙で覆われるだけ。



(これは……煙幕弾か?)



「こっちよ!早く!」


 どこからか女の声が聞こえた。完璧な位置までは分からないが煙幕が周囲を覆ってから花のような匂いが部屋に漂っている。匂いで女の大体の位置は把握出来た。


 返事を返す暇も無く何者かに強く右腕を引っ張られた。女性とは思えない程の力強さ。男の俺でさえも軽く凌駕する程の力で思わず口から悲鳴が漏れた。


「痛たたたたたたたッ!!」


「お、お願いっ! 静かにしてっ」


 女は「ごめんなさいっ!」と謝ると俺の腹に凄まじい激痛が走る。腹を殴られたらしい。言葉ではとても言い表せない激痛。例えるのなら腹を大砲で撃たれたような感じだ。


 ドスンという腹を殴る音にしてはあまりにも異常な擬音。とてもじゃないが耐えられる痛みでは無い。



(今まで、一番痛いかもしれない……。 というか、死ぬ。)



 死んだ。確実に死んだ。

 人間はやはり自分勝手だ。自分の勝手な行動で他人を巻き込む。 ……やはり心なんか不要だ。


 今までの生きてきた七年分の記憶がフラッシュバックのように蘇る。いわゆる、走馬灯。

 だがその走馬灯すら見る暇も無く、もう一度腹にパンチを喰らい俺の意識は激痛と共に飛んでしまった。


西條です。

今回はクライン視点です。普段はあまり喋りませんが彼には自分なりに色々と悩みを抱えています。西條も悩みを抱えております。かりん運極間に合わない助けて。

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