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聖魔戦記  作者: 西條
豊雲祭
26/36

彼女が見たものとは



「ったく……あの糞根暗。何してんだか」


  クラインを起こす為私はあいつの部屋に向かっていた。


「普通ならクラインがチームのリーダーである私の元に来なければいけない立場なのに……」と不満を漏らす私。チームリーダーはまだ決めていないが多分リーダーは自分だと思っている。ダメ人間と根暗じゃリーダーは務まらない。となればこのユカリちゃんの出番だ。



(それにしても……)



 私は窓を見た。空は太陽が燦々と輝いている。見ているだけで目が眩みすぐに視線を正面へと戻した。


 まだ六時なのに空が明るい。なんだか不思議な気分だがこれでは生活リズムが崩れてしまいそうだなと私はマドカの事を思い浮かべた。


 今日の任務は雲の聖魔の様子を見に行くと言う簡単そうな仕事だが、雲の聖魔は太陽世界の朝と夜を操作している。雲の聖魔がそれを怠る事は今までに無かった。これは雲の聖魔の身に危険が及んだとしか考えられない。雲の聖魔はそれなりに力がある上位の聖魔と聞いている。並の敵ならば瞬殺だろう。


 ……仮に雲の聖魔が誰かに倒されたのならば敵は圧倒的に強い。私達や他のチームが束になったところで勝てる相手では無い。


 そんな話、私の考えすぎで終わればいいが……と私はまた深い溜め息を吐いた。考えるだけで胃がキリキリと痛む。



(私には荷が重すぎるぜ……)


 昨日はヤマトに「私に任せろ」なんて言ってしまったが本当に自分がマドカを守れるだろうか――深く思い詰めていると人とぶつかってしまう。


 完全に私の不注意だがお互いの肩がぶつかった程度で済んだ。ぶつかった相手は少しよろめき床に黒いボールのようなものを落としてしまう。



「あぁ……えと、ごめんなさい。……あとこれ……落とした、ぜ」



 あ、やばっ。と私は挙動不審な態度で黒いボールを拾い上げる。コミュ障か、私は。


 ボールの触り心地はツルツルというよりもゴツゴツとしていて岩のような感触。ここで私はぶつかった相手の顔を初めて確認した。

 炎のように揺らめく赤い長髪、悪魔特有の紅い目とはまた違う赤い目。


 私のイメージカラーが黒ならこいつは赤で間違いない。


「おっと、危ない危ない」


 真っ赤な男は「危なかった~」と安堵するが真っ赤な男が何に安堵したのか私にはよく分からなかった。


「……何が危なかったんだ?」


「実は今落としたやつ、爆弾だったんだよな。危うく誤爆するところだったぜ」


 手に持っていた物が爆弾と聞いた瞬間私は軽い眩暈に襲われた。「なんで爆弾なんか持ち歩いてんだ!ぶん殴るぞ!?」と怒鳴りつけてやりたいという衝動に駆られる。


「まぁ爆発っても部屋がボカン!程度なんだけどさ。 実は昨日部屋が爆弾のせいで吹っ飛んじまってさー相部屋になっちまったんだよ。はは」


 部屋がボカン程度、と真っ赤な男は笑うが、もし先程落とした爆弾が爆発していたら自分もボカンで笑い事では済まされない。私もボカンでこいつもボカンだ。


 笑い事じゃねーよと殴り飛ばそうとしたが『相部屋』という言葉に引っ掛かった。昨日シオンがクラインの部屋は相部屋になったと言っていた。もしかすればと私は真っ赤な男に問いかけた。


「もしやお前クラインと相部屋になった奴か?」


「あぁ、そうだ。俺はバイオレット!太陽世界一の盗賊だ!」


 太陽世界一の盗賊を自称する胡散臭さ満載な奴。それがバイオレットに対しての第一印象。


 見た感じ、話好きそうだ。黙っていれば勝手に話続ける。私の脳裏には町で見かける近所のおばさんが浮かんだ。いや、この場合おばさんに失礼か。ごめん、おばさん。


「私は糞根暗……じゃなくてクラインと同じチームメイトのユカリだ。あんた、クラインと相部屋なんだろ?あいつは今どうしてるんだ?」


「どうって……寝てるな」


「寝てるっ!?」


 明日は朝六時起床と言ったのにも関わらずクラインは寝ているらしい。全く協調性の無い奴だと私はぶつくさと文句を叩く。


「いやな、あいつ昨日「明日は六時起きだ」とか言ってたからさ?優しい俺は起こしたわけ。でもこれが起きないんだよなぁー……いや本当マジで」


「起きない?」


「とりあえず叫んだり暴れたりしたが起きなかった」


 まず起こし方が悪いのだがそれはひとまず保留。


 見かけによらずクラインは寝坊助という事実が発覚した。バイオレットは「全く困った」と頭を掻くと私は胸を張って「大丈夫だ」と豪語した。


「このユカリちゃんに任せとけ!人の起こし方なら熟知してるんだぜ」


「それならいいんだが……。うーん……じゃあ俺はそろそろ任務の時間だし、任せてもいいか?」


「おうともさ」


 任せたとバイオレットは急いで廊下を走って行く。忙しいのに引き留めて悪かったなと申し訳ない気持ちになるが私は手に持っていた爆弾に気づく。まだバイオレットに返していなかった。


「ちょっと!これ……」


 バイオレットが走って行った方を見るが彼の姿は見えなかった。一本道の長い廊下なのに姿が見えなくなるとは中々の素早さ。流石盗賊を自称するだけはある。


 仕方が無く爆弾はスカートのポケットに入れておいた。


 間違って転んでボカン誤爆――なんてマドカみたいな馬鹿な事は避けたいものだと注意し私は歩き始める。




 歩くこと数分。クラインの部屋に到着。


「うーん……こういう場合どう入ればいいか分かんないぜ」


 男子の部屋に入るのは幼馴染であるヤマトを除けばこれが初めてだ。糞根暗のクラインと雖も思春期の少年だ。人に見られたく無い物ぐらいあるだろう。……⑱禁の本とか。


(まぁ、その本を堂々と持ち歩く馬鹿もいるがな……)


 どこぞの銀髪を思い浮かべながら思い切って部屋に突入する。⑱禁の本を見つけても見ていないフリをすればいいだけの事だ。


 私は扉を蹴り飛ばした。蹴り飛ばす意味は無いが日頃溜まったクラインへの鬱憤を晴らす為にはこれが一番スカッとする。




「・・・・・・・・・・・・・・・・」




 部屋に突入した私は唖然とした。


 綺麗に物が置かれた机。塵一つ無い床。巻数ごとに並べられた本棚。思春期の男の部屋とは思えない程クラインの部屋は整理整頓されていた。


 正直、私の部屋より綺麗だ。唯一散らかっている所といえばバイオレットが寝たであろうベッドにの横に敷かれている毛布だ。片づけもしないで毛布はそのまま放置されている。


 バイオレットの言った通りクラインはベッドですやすやと寝ていた。しかもサングラスをかけたまま。


(……サングラスは身体の一部なのか?こいつは)



 寝ている姿を見ると何故だが無性に腹が立ってくる。寝ているクラインの顔にいたずら書きしてやりたいがマドカを校門の前で待たせては後々五月蠅い。早くクラインを起こさなくては。


 私はベッドの前に立ち大きく息を吸い込む。


「起きろ―――――――――――――ッッ!」


 私の声が部屋中響き渡る。マドカも布団から飛び上がるユカリ必殺技なのだがクラインは顔色一つ変えずに寝息をたてている。あの五月蠅いバイオレットが起こしても起きなかったと言っていた。相当深い眠りに落ちているのか……。ユカリ必殺技が駄目ならユカリ奥義を出さなければならない。


「起き……やがれ!」


 ユカリ奥義【毛布を引き剥がす。】

 しかしクラインの反応は先程と変わりない。引き剥がした毛布を床に投げ捨てると私は困ったと腕を組んだ。


 ユカリ奥義2【毛布を引き剥がす】が駄目となるとユカリ超奥義【全身をくすぐる】しか無いのだがクラインが全身をくすぐって笑い転げるとは考えられない。というか考えたくない。


 冷水を顔面にぶっかけるのもアリだが起きた後で「馬鹿か」とか「ぶっ殺すぞ」とかネチネチと文句を言われそうだ。校門で待たせているであろうマドカの後々言われる愚痴と合わせれば私の精神は数秒で崩壊する。


 困り果てた私は不意に寝ているクラインの身体を見た。ブレザーは脱ぎ捨てワイシャツと下は制服のズボンの状態で寝ている。ワイシャツは少しはだけている。私はここで関係無い事を閃いた。


「盗撮するなら今じゃないか……?」


 昨日出会ったレイアの機嫌を悪くしてしまったお詫びとして私はレイアにクラインの写真をあげようと決めていた。今がまさに絶好の盗撮チャンスだ。


「……カメラは持ってないが携帯カメラで充分だよな」


 風景を写真に写す『カメラ』という小型の機械は生憎持ち合わせてはいないがカメラ機能を搭載している『スマポ』なら持っている。写真の画質は落ちるがこの際どうでもいい。


 爆弾が入っている反対側のポケットから黒のスマポを取り出した。電源を入れるとマドカから数件のメールを受信していた。メールはどれも「遅いよー!」と書かれている。もう校門で待っていたらしい。


 私はメールを無視すると寝ているクラインの写真を撮った。


「よし。いい感じに盗撮できた」


 撮った画像を見る。サングラスをかけた男が寝ている滑稽な画像だがレイアが喜ぶのならそれでいい。


 画像を見た事で今まで押し殺していた疑問が再浮上した――クラインの右手についてだ。


「ふーむ……気になる」


 屈んでクラインの右手を眺めるが見た感じ包帯が巻かれているだけの普通の右手だ。


 クラインは何故右手を隠しているのだろうか?マドカ曰く「闇の力がァァァァァ!」らしいが当てにならない。 

 右手に見せたくない傷でもあるのだろうか?根暗にあるのは心の傷だけだと思っていたがそこまで見せたくない傷があるとなると逆に見てみたくなる。それが人間の性というものだ。



(悪く思わないでくれよ……)


 クラインの右手に巻かれている清潔な白い包帯をスルスルと解いていく。スルスルとスルスルとまるで林檎の皮むきのようだ。



「…………!!?」



 指が見えた。黒く漆黒に染まった指が。

 クラインの指は黒く染まっていた。爪も全て。真っ黒に。


 そのまま包帯を解いていくと包帯が全て私の膝に落ちた。包帯が全て解かれた証拠だ。


 急いで私は右手に目を向ける。


「……嘘だろ……?」


 右手も爪同様、漆黒に染まっていた。


 見つめていると心が深く沈むような黒――クラインの心情を表しているようだ。触るとひんやり冷たい。


「クライン、お前――――ッ!?」


 私の言葉を遮るかのように握っていた右手が突如動きだし勢いよく私の首を掴んだ。不意を突かれたため私は成す術が無く「が……っ!?」と肺から大量の空気の塊を吐き出す。



「う……ぐ、っ!」


 包帯を勝手に外してしまい怒ったのかとクラインを見たがクライン自体はまだ寝ている。まるで右手だけが起きているかのようだった。


 右手は私の首を徐々に締め上げる。片腕で締め上げているのに凄い力だ。 こ、これでは首が折れてしまう……!


 私の異能【影の創作(シャドウクリエイト)】で対抗しようとするが脳に酸素が行き届かず頭が真っ白になる。




 死―――私は本能的に悟った。




 このままでは殺されると。右手には殺意がある。私を確実に殺す覚悟が。




(……私、こんなところで死ぬのか………?)




 死にたくない。私にはまだするべき事がある。という正への執着が意識をギリギリ踏み止まらせている。




(私はまだ――――――――)




 私は最後の力を振り絞り「 クライン・・・!!」と発すると等々全身に力が入らなくなり視界が黒く染まって行く……。

 


 私の意識は水の中に落ちるかのようにに闇へと落ちた。


はい西條です。

新章のタイトルは豊雲祭(ほううんさい)八宝菜みたいな名前ですね(´^ω^`)ワロチ

最近Simejiを取り入れました。正直侮っていました(´^ω^`)ワロチ

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