閉ざす心
クラインがチームに入ってくれた。嬉しいと言えば嬉しいのだがどうも記憶があやふやだ。実の事を言うとクラインに勝負を持ちかけたところから記憶が途切れている……。
私がクラインをボコボコにしたとユカリは言うがどうにも信じがたい。
引きこもりの私が勝てる相手と言ったら精々、虫くらいだ。
もしかしたらクラインは虫以上に弱いのかもと思ったがそれは無い。私が最初にクラインと会った時、クラインはゴブリを追い詰めていた。あの時点で虫以下とは考え難い。
(……クラインなら何か知ってるかも)
横にいるクラインをチラリと見るが何やら物凄く落ち込んでいるようだ。溜め息の連続で聞くに聞けない状況だ。
(まぁ、私が勝ったんだし別にいいか……)
一人で勝手に納得し私は別の話題を口に出した。
「ところで課題のゴブリ討伐ってどうするの?」
「それなら安心したまえ。課題のゴブリ狩りはこのユカリちゃんが五十匹くらいサクッと倒しておいてやったぜ! 後は保健室で報告を済ませれば今日はあがりだ」
「でもここから聖魔学園までどうやって帰るの?看板ないしこれって迷っちゃったんだよね?」
「それも安心したまえ!」とユカリは自慢げな表情で地面を指差す。地面には一定間隔で置かれた石ころがあった。これを辿れば聖魔学園に帰れるとユカリは言う。
「さっすがユカリ!頼りになる!」
「褒めても何も出ないぜマドカ。さぁ!私について来るがいいっ!」
高笑いをしながらユカリは自分の置いた石ころを辿り歩いて行く。
「……不本意だがついて行ってやるか」
ユカリの後を渋々追おうと歩き出すクライン。私は慌ててクラインの制服の袖を引っ張り引き留めた。
「あの……さっきはごめん。 覚えてないけどクラインをボコボコにしちゃったみたいだし」
クラインの身体は一方的な私刑を受けたかのように傷ついていた。頬には鋭利な刃物で一閃されたような切り傷。制服は所々破れていてそこから見える皮膚は擦り傷だらけだった。
自分がやったにせよ、やらないにせよけが人傷だらけの人を放っては置けない。
無理矢理切り株に座らせ右手でクラインの頬に出来た切り傷にそっと触れる。
「【光溢れし聖魔よ……命の加護を与えたまえ】」
呪文を唱えると私の右手が緑色の淡い光に包まれクラインの頬の傷がスーッと塞がった。
私が唱えたのは初級回復魔法【ヒール】 ――地と風の聖魔の加護を受け対象者の治癒能力を少しだけ高める魔法だが初級魔法の為切り傷や火傷程度の傷しか治せない。
「……ひとまず礼を言っておく」
「お礼なんて別にいいのに……なんだか照れくさいなぁ」
「……そろそろ行くか」クラインが切り株から立ち上がると包帯が巻かれている右手に血が付着している事に気づいた。私は咄嗟にクラインの右手を握る。
「ちょっと待って!ここにも傷が――と思ったら悪魔の返り血かぁ。紛らわしいなぁもう。確か悪魔の血って長時間浴びると感染症になっちゃうらしいから早く消毒した方が――」
「……。いや、大丈夫だ」
クラインは手を振りほどき一瞬だけ私に寂しげな表情を見せた。サングラスをかけていても悲しさが伝わって来る。
「あ、あの私、何か変な事でも――」
「先に行ってる」人の話も聞かず言葉を打ち止めるとクラインは私に背を向け、歩いて行った。
「どうしたんだろ……?」
何か不味い事を言ってしまっただろうかと思うも今の会話にクラインが気を悪くするような事は一切言っていない。しばらく頭を捻り考えると「機嫌が悪いんだな」と勝手に解釈し私はユカリ達の後を追った。
またまたお久しぶりです。
GA文庫大賞前期に送って一次予選落ちした西條です。本日、評価しーとが送られてまいりました。
さて、久しぶりの投稿ですが今まで何をやっていたかというとバイトをしていました。以上。