決闘
「は……?」
呆気に取られたのか氷のような冷たい声は一瞬同世代の幼い少年のように変わる。
「よし決めた。君を絶対チームに引き入れる」
「おい待て。勝手に話を進めるな」
「私は一度決めた事は曲げない主義なの」
「お前に決定権は無いだろ。……何度も言っているだろ俺は人とは極力、関わらないって。 それ以前に早死にしそうなチームに入る気は無い」
どうやらクラインも私と同じ頑固者一度決めた事は絶対に曲げない主義らしい。これは私が無理矢理にでもクラインの根暗な考えを曲げてやらないと駄目なようだっ!これは大変なお仕事だ。
「勝負しようクライン!」
「……勝負、だと?」
「そう!私が勝ったら君は私のチームに入って。それと私の事は「お前」じゃなくてちゃんと「マドカ」って呼んで!」
「……俺が勝ったらお前はどうなるんだ」
勝負というからには生半可なペナルティ罰ではきっとクラインは勝負を受諾しない。勢いに身を任せドヤ顔で私は言ってしまう――。
「その時は私が聖魔学園を辞めようじゃないか!」
嗚呼……なんてことを言ってしまったんだと物凄く後悔した。絶対に勝てるわけが無い相手に勝負を挑み、尚且つ自分が負けたら聖魔学園を自主退学。これではただのアホとじゃないか。ムリゲーだ。
「……言ったな」
クラインは僅かに口を緩ませ、にやりと笑った。初めて私に対し無表情以外の顔を見せてくれたことに驚くが今はそれどころじゃない――!
「な、内容は『私の攻撃を五分間避けられるかどうか』! ちなみに剣とかそういうので防ぐのは禁止ね! わ、私が如何に強いか思い知らせてあげるんだからっ!や、闇の彼方に葬り去られても知らないからね!?」
精一杯の見栄を張るが無理をしているのが見て分かる。
「いいだろう。その勝負、受けて立つ」
「そこは断ろうよ―――――――ッ!?」と心の中で今日一番の声量で叫んだ。
……‥…‥これで勝負が成立してしまった。
クラインの余裕たっぷりな言動が私の後悔に拍車を掛ける。無謀な勝負なんて言わなきゃよかったと何度も何度も悔やむ。こんなの無理に決まってるよ……。モブがラスボスに勝てるわけないよ……。そんなゲーム見た事も無いし聞いたことも無い。
「……どうした。来ないのか」
「く、来るよ!来ればいいんでしょ!?」
こうなれば自棄だ!腰に付けている武器を収納する革製のホルダーから白い棍棒を取出し汗ばんだ両手でぎゅっと握りしめた。
「……おい」
「な、なにっ?」
極限の緊張のあまり声が裏返ってしまった。私は赤面しゴホンと咳払い。仕切り直してもう一度「なにかね?」と聞いた。
「……なんだ。それは」
クラインが興味深そうに指差すのは私の手にしている白い棍棒。
棍棒にしては妙に細く、殴打する部分が丸くなっていて殺傷力は無いに等しい。
そうっ!私の武器は何を隠そう体操や子供の玩具として扱われるバトンなのだっ!
「なにってバトンだよ!」
「……やはりお前は馬鹿だな。 ……来い。お前がここ聖魔学園に居られるのも今日が最後だ」
「最後じゃ、ないッ!」
――戦いはスタートしてしまった。
私はやけくそで「おりゃー!」と小物っぽい叫び声を上げクラインの間合いに入り込みクラインの脳天目掛け素早くバトンを振り下ろす――。
だがいとも簡単に横に避けられた。しかしこれが狙いなのだ。私は片足に重点を置き、くるりと回りクラインの背後を取る。
背後からなら攻撃は避けられないはず!勝利を確信しバトンを振り下ろした――その瞬間。
「……甘い」
ぼそっとクラインが呟く。背後が視えないはずなのにクラインはまるで後ろに目がついているかのようにひらりと横に避けた。
見事な避けっぷりに唖然とするが唯一の策がいとも簡単に破られてしまった。これでクラインに対抗する術が無くなってしまった。……え、ちょっとほんとどうしよう?
これ以上は本当に何も考えていなく涙目の私。
一旦体制を立て直すべきと後ろにバックステップし荒い呼吸を整えた。
クラインの無言の威圧感、攻撃が当たらなかったら自主退学という恐怖。目に見えないプレッシャーが私の小さな体に重く圧し掛かる。
現時点で約四十秒経過。残り四分二十秒。せめて時間をもう五分……いやもう十分引き延ばせばよかった。
呼吸を整えていたのに逆に呼吸が荒くなっていた。気がつけば全身が震えている。もう泣きたい。
自主退学をすればまた引きこもりいつもの生活に逆戻り。それだけは嫌だ。絶対に。
「……わ、私は……約束したんだ!だから負けるわけにはいかない……ッ!」
決闘と書いて「デュエル」と読むのです。
この物語は次元戦争的な話ではありませんのであしからず。