逃走
――目を開くと目の前では凄まじい戦いが繰り広げられていた。
メリーさんと自称する女性はケタケタと笑いながらクラインさんに向けて次々と指から雷を放つ。
クラインさんは雷を避けたり剣で防いだりし何とか持ちこたえている。戦況は防戦一方。クラインさんが不利な状況だ。
「聖魔学園生の力ってその程度なんですかー?割とガッカリです」
メリーさんの放つ雷撃は徐々に威力を増して行き、遂にはクラインさんの左腕をかすめた。かすめた部分の服は焼け焦げそこから焼け爛れた傷を覗かせる。
「く、クラインさん!大丈夫!?」
私は応急処置をしようとするがクラインさんに止められる。
「お前はそこで黙ってろ。足手纏いだ」
「でも――」そこまで口にすると「何度も言わせるな」と睨まれ口籠ってしまう。我ながら情けない。何も出来ない自分が恥ずかしい。
内心、自分でも分かっていた。私が出る幕じゃないと。
クラインさんが弱いわけでは無い。私が見る限り腕力、素早さと言った基礎パラメーターは人並み以上だ。ただメリーさんが馬鹿みたいに強いだけなのだ。
――悪魔の強さはSABCDEFの七ランクに分けられている。Sが最も強く下に下がっていくにつれ弱くなっていく。
メリーさんのランクは多分Aランクだ。まだ力を隠し持っているようだがSランクの悪魔は数少ない。こんな辺鄙な森にいるはずもない。
「こんなの無茶だよ……」
Aランクの悪魔相手に渡り合えるクラインさんは相当な腕だがかなり苦戦しているようだ。攻撃を避けるのが精一杯で攻撃を与える事すら出来ていない。
「状況が悪いか……」
雷撃をバックステップで避けながらクラインさんは呟きチラリと私を見た――。邪魔だから思い切り戦えないとでも言うのだろうか。照れ屋?
「うふふ、負け惜しみを……」
「次は必ず、お前を倒す」
「……私が貴方達をそうやすやすと逃がすと思いますか?」
「俺は死ぬ訳には行かないのでな。ここは一旦引かせてもらう」
クラインさんは着ていた漆黒のローブをメリーさんに投げつけた。ローブがメリーさんにふわりと覆い被さり一瞬の隙が生じる。その間にクラインさんは剣を腰のホルダーに収め私に問いかける。
「……お前はどうするんだ。今ここで感電死か、逃げて生き延びるか」
「【聖魔学園教訓その五。無謀な戦いは避けるべし。死に物狂いで生き延びよ】」
「……少しは分かっているようだな」
私はクラインさんと利害が一致し共に、急いでその場を走り去った。
「あらあら……聖魔学園教訓ちゃんと理解しているのね」
後ろからメリーさんの声が聞こえたが走るのに夢中で言葉の意味を理解しようとは思わなかった。
敗走から学べることもあるのです。