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わたくしの部屋に戻ってまいりましたところで、ミリーにミルクを飲むよう勧めてみました。するとミリーはためらっていましたが意を決したように硝子のコップを一口飲みました。
「どうです、美味しいでしょう?」
「美味しゅうございます。新鮮なミルクとしか思えない味わいです」
そう言いつつ、ミリーはミルクを一口ずつ味わいながら飲み、やがて硝子コップはからになりました。
ミリーがあまりに美味しそうに飲むものですから、わたくしの分も水滴さんにお願いしてミルクを出してもらいました。
もうすぐ夕餐ですから、お腹がいっぱいにならないようコップの底にほんのすこしだけです。
☆
「このミルクは本物なのでしょうか?」
ミリーの言っていることがよく判りません。
カレンは魔道具を使って本物のミルクだと保証してくれたではありませんか。
「姫様は水滴さんが魔法でミルクを出していると仰いました。確かに何もない所から出てきますので、ミルクを出す魔法には違いありませんが、これは水滴さんがあらかじめ収納したものを取り出しているだけでしょうか?それとも、文字通りにミルクを作り出しているのでしょうか?」
なるほど、取り出すだけだとすると、飲んだ量以上は出せないことになります。
どうすれば確かめられるでしょうか?
しばし頭を悩ませた結果、わたくしは良いことを思い付きました。
「ミルク粥ですわ!」
毎日飲み続けてきたミルクと違い、水滴さんが飲んだことのあるミルク粥は小匙いっぱいほどです。それより多くのミルク粥を水滴さんが出せたなら、それは収納していたものを出したのではなく新しく生み出したものとなるはずですわ!
水滴さんにミルク粥を出せるか聞いてみますと、水滴さんはからのスープ皿の上に移動してぴょんぴょんとはねました。
まかせて、と言っているかのようです。
水滴さんはぷるぷると震えだし、ミルクを出すときのように白く変化し始めました。ただ、ミルクの時より大きさの変化はゆっくりです。
百ほども数えたところで浅いスープ皿を満たす大きさになり、皿のふちから透明な水滴さんがぽこりと出てきて分離しました。
スープ皿の中には、白いとろりとしたものが残っています。ワゴンに備え付けの小匙ですくうと、ふわりと暖かい湯気とともにミルク粥の甘い匂いがしました。
ああ、これはもう。わたくしは我慢ならず、ぱくりと小匙を口に運びました。
完璧です。それは味、舌触り、匂い、熱さに至るまで完璧なミルク粥でした。