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 水滴さんは、わたくしが『召喚魔法大全』に描かれた魔法陣から呼び出した召喚魔です。おそらく、たぶん、きっとそうです。

 召喚魔といえば、そういえばギルバート様もお持ちでした。水滴さんとは全然違うタイプですが。

「カレン、ギルバート様が召喚魔法で呼ぶ召喚魔も魔法を使いますけれど、あれは魔獣なの?」

 ギルバート様の召喚魔は、黒いぺらぺらした影のようなものが猛獣の姿を形作ったもので、横から見るとちゃんとした姿ですが正面から見ると厚みがないという不思議なものです。紙に描いた絵を切り抜いたものと説明すると話が早いでしょう。

 そのぺらぺらの猛獣(おそらく大きさからすると虎だと思うのですが黒一色で縞があるわけではないため確証はありません。もしかすると大きな猫かも?)に手のひらを差し出して『おて』をしてもらうと、見た目と違ってぷにぷにした肉球の感触がするのです。

 ギルバート様の召喚魔は炎や火球を口から出したり、ギルバート様の飛ばした火球を尻尾でキャッチして投げたりと器用に火魔法を使っていました。一緒に見学した騎士や魔法使いたちは素晴らしい腕前だと感心しきりで、ギルバート様の演舞が終わると皆で囲んで矢継ぎ早に質問しておりましたわね。

 あ、もちろん見せていただいたのは白百合城の練兵場でのことでしてよ?火事になったら大変ですもの。練兵場は床も壁も石造りですから、少し焦げたくらいで済みました。

「ギルバート様の召喚魔は、魔力を練り上げて形作ったものなので魔獣ではありません。これとは別に、魔獣と契約を結んで力を借りる形式の召喚魔法もあります。この場合、魔獣は一時的に肉体を霊体に変化させます。平常時は魔獣は術者に憑依して過ごし、召喚時は霊体化を解除して実体に戻ります。魔力体による召喚魔は倒されても再び召喚が可能ですが、契約による召喚魔は元は本物の魔獣ですから倒されると終わりです」

 なるほど、種類があるわけですのね。水滴さんは、元はわたくしの涙なのですから契約式の召喚魔ではなさそうですわ。

「魔力体の召喚魔のほうが便利そうですわね」

「いえ、それぞれに得手不得手がございます」

 カレンは黒板に図を描いて説明してくれました。

「魔力体による召喚は全てを術者の魔力で賄いますので、召喚魔の強さは術者が一度に扱える魔力量に制約されます」

 丸を二つ描いて一つは全部塗りつぶし、一つは下側三分の一ほど塗りつぶしていきます。さらに隣によくわからないものを描き、こちらは全部塗りつぶしました。

 よくわからないものをじっくり眺めますが、やはり判りません。そう言うと、カレンは無表情のまま首をかしげました。

「どう見ても猫でございますが。猫に見えませんでしょうか?」

 わたくし、もう一度まじまじと絵を見つめます。

 はい、見えません。見えませんわカレン。これが猫?ということはこの下につき出す四本の棒が足?では横に水平につき出す棒が尻尾?上につき出す三角のトゲが耳?と全てにいちいち『?』が付いて回ります。

 完全無欠の万能メイド長と思われたカレンは、実は絵が苦手。思わぬ弱点があったものです。そういえば、美術のお勉強の題材は彫刻でした。絵画が題材にならなかった理由が今明らかになりましたわね。

 なんと評してよいものか迷って黙っておりますと、カレンは無表情なまましょんぼりするという器用なことをしていましたが気を取り直して説明を続けました。

「丸が術者を、塗った部分が魔力を表してございます。再度召喚が可能と申しましても、術者の魔力量が不足していますと召喚は発動しません。そうなると魔力が回復するまで待つ必要があります」

 なるほど、判りましたわ。強力な召喚魔を呼ぶには魔力をより多く費やす必要があるのに、召喚魔が倒された時のことを考えて魔力を温存しておく必要があるからあまり強くできないのですわね。そう考えると魔力体の召喚魔は便利なだけではありませんわね。

「契約による召喚の場合、契約相手の実力がそのまま反映されますから、術者が多少未熟だったとしても契約相手によっては大きな戦力が得られるでしょう。もっとも、契約を結ぶには相手に実力を認めさせなければいけませんから、あまり格上の魔獣とは契約できませんが」

 そう言いながら、カレンは術者を表す丸の隣に黒板をはみ出すくらい大きなものを描きました。

 この大きさとなると、きっとこれは!

「ロック鳥ね?!」

 得意気に言い当てますと、カレンは無表情のまま哀しみにうちひしがれました。

「これは竜でございます」


 ☆


 召喚魔法についてカレンに話を聞いた結果、大魔導師マルレーネ様の千種類の召喚魔軍団は魔力体召喚であるとか、伝説の竜騎士ステファン様の乗騎ファブニルは契約召喚であるとか、様々なことが判りました。

 けれど、わたくしが知りたい水滴さんについての手がかりになりそうな話はまるで出てきませんでした。

 わずかに心引かれたのは、エルドア王国には王国が存亡の危機に陥った時、古来よりの約定に基づいて力をお貸しくださる強力な魔獣が五体いるという話でした。

 この五体を五大神獣といい、彼らと契約してエルドア王国を救った方々が、なんと五大公爵家の始まりなのだとか。

「そのようなお話、お父様からもお母様からも一度もうかがったことがないのだけれど」

「遥かな過去の出来事でございますし、長い歴史の中で埋もれたのでございましょう。王国図書館には当時の記録が残っております」

 王国図書館!

 王都の中央近く、王宮や白百合城と比べて遜色ないほど大きな建物が王国図書館です。わたくし、王国図書館へ立ち入ったことはまだありませんが、王国で記された全ての本について写本を集めることを目的としていると聞き及んでいますわ。

 白百合城の図書室には召喚魔法についての本がありませんでしたが、王国図書館であればおそらくたくさん所蔵されているに違いありません。

 次なる目標は、王国図書館。わたくし、王国図書館へ行きますわ!

(召喚魔法についてお勉強しました。カレンは結構味のある絵を描きます。次回、はたしてアナスタシアは王国図書館にいけるのでしょうか?)

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