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 目が覚めますと、わたくしは自室のベッドにおりました。

 ベッドの天蓋が見知った柄でしたからすぐ判りましたわ。

 身を起こしますと、ドレスがパジャマに替わっておりました。

 やはり寝心地はドレスよりパジャマのほうが良いですわね。アルフレート殿下と御一緒するということで、はりきって普段より凝ったデザインのドレスを選んだというのもありますけれど、ドレスは横になるとスカートのふくらみがつっかえましたもの。馬車で寝た時はクッションで段差を埋めましたわ。


 あら?そういえば。ドレスのポケットには硝子の小瓶があったはず。パジャマのポケットには何も入っていませんでした。とすると、水滴さんはどこに?

 あたりを見回して鏡台の上に硝子の小瓶があるのを見つけましたが、蓋は外れて隣に置かれていました。中身は空です。

「水滴さん?どこにいるの?」

 小声でつぶやきます。大きな声を出すと部屋の外に聞こえてしまうと思ったからです。

 すると思ったよりもすぐ近く、わたくしの手元付近からぴょんぴょんと水滴さんが出てきました。

「誰かに見つからなかったかしら?」

 水滴さんはぴょんとはねて肯定しました。

 そして、毛布にすうっと染み込んで離れたところからぴょんと出てくるという技を披露してくれました。器用ですわね。この技を使えば、水滴さんが姿を隠すのは簡単そうです。

「ミルク、美味しかったですわ。ありがとう。またお願いできるかしら?」

 わたくしの手のひらに登った水滴さんは、まかせて!とばかりにひょんとはねました。


 あれからどうなったのでしょう?カレンや護衛の皆は無事だったのでしょうか?二羽目のロック鳥に苦戦していたので心配です。話を聞くため、呼び鈴で人を呼ぶことにします。

 ベッドの横に設えられた呼び鈴をチリンと鳴らすと、一呼吸するかしないかというところでドアが開きました。ドアの外で待っていたのかしら。

 部屋に入って来たのはカレンでした。

 カレンは普段と変わらないシンプルなメイド装束です。黒くて長い髪をきっちりとまとめ、ヘッドドレスとエプロンは真っ白でパリッとしています。どこにも怪我はしていない様子ですわね。まずは安心いたしました。このカレンが巨大なロック鳥相手に剣を振るって、騎士団の誰よりも活躍していたのですから人は見かけによらないものですわね。

 女性らしいほっそりした指なんて剣を握る手には見えませんのに。

「お嬢様、お食事の用意ができております。ベッドへお持ちいたしますか?」

 ベッドで食事なんて、わたくし風邪で起きられなかった時くらいにしかいたしません。カレンはわたくしのこと心配してくれているのですわね。

 わたくしは無事てすし、普段通り食堂でいただくことにいたしましょう。

 カレンに着せ替えてもらいながら話を聞いてみますと、わたくしを乗せた馬車が走り出したところロック鳥が馬車に気を取られたため、その隙を突いて倒したそうです。被害は護衛の皆の半数以上がどこかしら骨折し、切り傷に打ち身捻挫は数知れず。それでも奇跡的に死者はなく、皆すでに治癒魔法で快復して持ち場に戻ったそうです。ロック鳥討伐となると百人以上の兵でかかるのが定石で、それをたった十数人でしかも二羽目も討伐してその程度の被害というのは極めて軽微とのことでした。白百合騎士団は鉄壁の防御に定評がありますので、その面目を保ったというところでしょうか。

 王都と白百合城にそれぞれ伝令を出してロック鳥討伐の報を送り、残りの皆で馬車を追跡開始したところ、馬車が街道を逸れて森に入ってしまったため見失い、一晩中捜索を続けて馬車を再び発見したのが翌朝だったとのことでした。

「お嬢様はよくお休みになられておいででしたので起こさずに城へ帰還いたしました」

 あう、私が寝ている間に皆に迷惑をかけてしまったわね。

 カレンにお礼を言って、護衛の皆にも声をかけたいと伝えたところ、あとで機会を設けてもらえることになりました。


 ロック鳥討伐の報を受けて王都から調査団が来訪しており、お父様とお母様は面談中とのことでしたので、わたくしが目覚めたことは伝言を頼んでおくことにしました。

 食堂へ向かう途中で中庭のそばを通りますと、多数の人々が巨大なロック鳥の素材を運び入れている最中でした。

 カレンによると、一羽目は焔の魔法剣の威力で素材が採れないくらいに燃えてしまったため、二羽目は気を付けながら倒したそうですわ。ロック鳥の素材は風系統の属性防御に優れ、また羽毛は優れた断熱効果があるとのことです。

 近隣の住民総出で荷車に素材を積んできたようです。

「これほどの大物、そうそう出ねえでさ」

「親鳥の留守にちょいちょいと入り込んで卵やら生え代わりの羽根やらいただくのが精々だでよ。倒しちまうなんてこつ、聞いたことさえねえだ。お城の騎士さまはもんのすごい強いんだなあ」

「同じ数なら竜とだって互角に渡り合うっちゅうからなあ、ロック鳥は」

「なら、二羽相手に勝った騎士団は竜より強いちゅうわけか。すげえ話だなや」

 領民たちが小山のようなロック鳥を見上げながら話し込んでいます。

 彼らに、倒したのはカレンだと話したら信じてくれるかしら?きっと無理ですわね。この目で見たわたくしも、物静かでメイドの鑑のようなカレンと剣を舞い踊るかのように振るうカレンが結び付きませんもの。


 ☆


 食事は押し麦と白パンをミルクで煮たお粥でした。甘く味付けされていて、わたくしの好物です。どうやらわたくし、思っていたよりずっとおなかがすいていたようで、普段は一皿で十分のところお粥を二皿いただきました。

 ふと気付きましたが、水滴さんがミルクを出せたのはミルクを飲んでいたからではないでしょうか?

 ならば、このミルク粥でも同じことができるのではありませんか?!

 これはぜひ試しておかないといけませんわね。

 ミルク粥は本来は赤ちゃんの離乳食や体調の思わしくない時の食べ物で、淑女が好んで食べるのは勧められないといってあまり作ってもらえないのです。わたくし、【プリン】の次くらいにミルク粥が好きですのに。

 成功すればいつでもミルク粥が食べられるようになるはずですわ!

 わたくしはカレンがデザートを運びに厨房へ入っていったところを見計らい、水滴さんに小声で考えを伝えました。水滴さんは、まかせろとぴょんとはねました。お匙に少しお粥をすくい近付けると水滴さんはつるんとお粥を食べ、色がすぐにお粥と同じ白に変化します。カレンが戻って来たのは、水滴さんの入った硝子の小瓶をポケットにしまった直後でした。

(お城に帰ってきました。ロック鳥は強敵でした。もし騎士団だけで戦ったとしたら攻撃が通らず、カレン一人で戦った場合はロック鳥の猛攻をしのげず、いずれの場合も早々に負けていました。チームワークのもたらした勝利です)

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