人体模型
7月12日 某場所にて
彼女は、焦っていた。計画が狂ってしまったことに。まさか、彼が殺されるなんて思ってもみなかったのだ。彼女の計画では彼は最後に殺す人間のはずだった。もしかしたら、誰か自分の他にも殺人を計画していた人間がいたのか、それとも衝動的な犯行か。前者だったら自分の身が危うい。どうするべきか、彼女は悩んだ。逆にこの状況を利用して、5人を殺せばいい。しかし、それは慎重にやらなければならない。彼が見つかったことによって動きづらくなったし、そもそも他の5人の誰が彼を殺したのかまったくわからない。それでも、計画は実行しなければならない。それはもう決められたことなのだ。彼らを殺すそれが彼女の生きる理由なのだから。
加賀見高校にて
有栖川ーーーここからはアリスとよばせていただこう。
ちなみにアリスは有栖川のあだ名である。小学生のときの友達につけられたものである。アリスはこっそり学校に侵入していた。もちろん、彼の死体を見るためである。アリスはこの事件を解かなければならないと思っていた。どんな理由であれ、彼らに関わってしまったのは事実で、もし、昨日彼らと共にいっていたら殺人を止められたかも知れなかったのだ。彼女は責任を感じていた。そうでなければ、彼女はけして動いたりしない。彼女はそういう人間だ。後ろを誰かがつけている。アリスは廊下の角を曲がるとすばやく壁に体をつけて構えた。そして、その人が角を曲がった瞬間。
「せいっ!!!」
「いったぁぁぁぁぁああ!!!」
彼女の蹴りを食らったのは銀髪の少年だった。背は170くらいだろうか。彼は白崎 八仁。アリスの幼馴染みで彼女の恋人。彼は蹴られた腹を押さえながら立ち上がった。
「なにすんのさっ!」
「それはこっちのセリフ。あんたなにストーカーしてんの。キモい。」
「き、キモいって、そんな…。僕はアリスが心配で!何しに、学校なんかに忍び込んでんの。」
「死体見に行くに決まってんでしょ。バカじゃないの。」
「はぁ!?バカは君だよ。そんなことしてどーすんのっ!?なに、ツイッターで呟くの!?」
「誰がそんなことするかっつの。………事件を解くためよ。」
「事件を解く………?なんで?そんなの警察にやらせときゃよくない?」
「そういうわけにもいかないの。私にも責任がある。」
八仁は怪訝そうな顔をして、まぁいいやというように歩き出した。
二人はしらみ潰しに教室を回った。
化学室ーーーそこに彼の死体はあった。
床は血で溢れていた。それは教室だけでなく、廊下にまで広がっていた。それはまるで本物の人体模型のようだった。肩と、首、足を大きな釘で壁に打ち付けられていた。その死体は服を着ていなかった。顔はキレイなままであったが、なかは丸見えで、内臓は一切手をつけられていない。顔以外の皮が剥がれ、腹も胸もさかれている。筋肉も何もかも丸見えだった。顔はなにもされていなかったが、恐怖に歪んだ顔だった。涙が頬を伝ったあとがあった。その涙のあとが恐ろしさを引き立て、見るものの創造力を掻き立てる。まるで、悪夢でもみているかのようだった。凄惨な死体を見て八仁は走りだしトイレに駆け込んだ。アリスは、ため息をついて死体に近寄る。
「なんでこんな手の込んだ真似を………………。」
まるで十字架に張りつけられたかのような死体を見つめる。この格好になにか意味はあるのだろうか。死体の様子からみるに、恐らく生きたまま解体されたのだろう。アリスには法医学の知識はなかったが、死体をみればその程度のことはわかった。どうして、警察は彼をここから剥がさないのかそれが一番気になった。もう、丸見えとはいえ、司法解剖はしていないのだろうか。すればいろいろなことがわかるかもしれないのに。何かできない理由があるのかもしれない。試しに死体を引き剥がそうかと思ったが、現状維持をしなければ忍び込んだことがバレてしまうのであきらめた。
犯行時刻は集まる予定だった9時ごろから朝見つかるまでの7時ごろまでだろう。アリスが彼らにあった時間を含めると彼が殺された可能性があるのは4時以降になるだろう。
動機はわからない。ただ、彼は恋愛関係がだらしないというのはなんとなく知っていたのでそこら辺なのかなとは思っていた。怨恨というだけではないきがしていた。ただの殺人ではないことだけは明らかで、犯人は楽しんで解体したかのようだった。凶器はなかった。もともとなかったのか、それとも警察がもちさったか。
八仁がトイレから帰って来た。
「ひいっ!アリスまだ見てるの?もう、帰ろうよ……。」
まるで子犬のように、こちらを見つめている。眼鏡の奥の赤い目が潤んでいる。ちょっとかわいそうだったので彼女は帰ることにした。
「八仁、もう帰ろ。」
「う、うん。」
そういって手を差し出すと少し大きな手が握り返してくる。八仁は彼女に寄り添って歩いていた。
校門をでると、不意に抱き締められる。アリスよりも高い背と大きな体に包まれる。男子のなかで特別大きいほうではないが、それでもドキドキした。彼はアリスの金色の長い髪を優しく撫で、そして、頭の青いリボンをほどき、彼女の手と彼の手を絡めた。前髪をあげてそこに唇を落とす。そうしたあと耳元でささやいた。
「アリス。いや、七瀬。なにがあったかなんて知らないけど責任なんて感じなくていいよ。君がわざわざ危険なことに足を踏み入れる必要なんてないんだよ。僕を不安にさせないで。お願いだからさ。君が心配なんだ。それに、頼りないかも知れないけど少しは僕を頼ってよ。……………君の恋人なんだから。」
そういったあと顔を真っ赤にして、肩に顔を埋める。
アリスは、その顔をあげさせてキスをした。すると、彼は驚いたがすぐに、彼も求めてきた。やがて舌と舌が絡む。吐息がもれてそれを感じてさらに求め会う。唾液がつぅと糸をひいた。彼はそれをなめとった。アリスの首筋を、彼の舌がはう。たまらなくなって彼の背中を強く掴んだ。小さな声で、いやだというとその声を塞ぎに唇が戻ってくる。学校の壁に彼女を押し付けて、空いている左手が彼女の足を這わせる。下着に手をかけると彼女は、待ってと吐息紛れに言う。彼女の青い瞳と彼の赤い瞳が絡んだ。
「七瀬…………。」
「八仁………、あのね」
「ん?」
彼が柔らかく微笑む。
「今から、八仁の家いってもいい?」
八仁は動揺した。
(ちょっ、こんなお昼からお昼からそんなことしちゃっていいんですか!?えぇぇ、理性が理性が!いや、今もそこそこ危なかったけどさっ!)
「そういうことするわけじゃなくて、事件を整理するためよ。」
八仁のテンションゲージがダウンする。
「ですよねぇ………。」
「なにその反応。喜べよ。」
「や、嬉しくない訳じゃないんですよ?でも、ほら…、ねぇ?」
「まぁ、お昼はつくってね。頼んだ。」
「僕、君のお母さんじゃないんだよ…………。」
そのつぶやきが空しく響いた。