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女主人公と女友達の異世界トリップ  作者: ヌエドリ コトルー
9/12


 泣いて煩いのと頻りに甘えてくるのをどうすればいいか分からずに、小さく息をついた。もちろん獣少年と黒犬の事だからね。どっちも会ったばかりだから対応できません。……いえ、違いますね。余所様の黒犬様は適当に撫でておこう。うっさい獣少年は余所様のお子様だろうから私がどうこうできる相手ではありません。怒鳴ったあかつきには獣少年の保護者が激怒してどっからか現れて、何倍にもされて怒鳴り返されかねんもんな。…………はあ、小者な私には世知辛い世の中だぜぃ。


 せめていつの間にか部屋の中にいた茶髪のお兄さんが、獣少年静かにしてくれたらいいのに。


 知り合いなんでしょ? さっき顔見知りな様子でなんか言ってたよね? なんなのさ、茶髪が二人そろって…………ああ! これ、二人染めてるのかな? いや、染めてなかったら地毛だよね? も、もしかしてこの二人兄弟だったりするのかな? お兄さんの方に獣な耳と尻尾ないけど、こいつら兄弟かも!? よくよく見たら似てる……ようには見えないけど、お兄さん茶髪だし、獣少年も茶髪……てか耳も尻尾も茶色だし、何かしらゆかりのある者同士なんじゃないの? 兄弟か従兄弟的な! ひょひょー。


 この人使えねぇなという眼差しを失礼ながら男に向けた私。結果、思考が脱線した。一人で衝撃を受けて、勝手に結論づけた。黒犬の頭を撫でていた手が止まっていた。顔を舐めたりして懐で存在アピールしている黒犬の顔を見ずに、ちょっとウザいなとか思いながら視線は号泣中の獣少年の足下へ落ちていた。黒犬がチラッと男を見た気がした。

 脳内では、こいつら血縁者かー。じゃあ黒犬は二人の飼い犬って事かな? いやでも会話……ややや、待てよ。黒犬も姿は犬だけど、二人の兄弟って可能性あり? 黒犬実は人になれるとか、お兄さんが犬になれるとか、無くはない話では無いよね? だって金髪碧眼のお姉さんここ異世界て言ってたし、魔法とか存在するらしいし、可能性ありだよね? じゃあじゃあ! こいつら全員、まさかの血縁者!? マジか。異世界ならありえる。ひえーっ。なんだかすごーい。夢があるような? ないような?

 ……いろいろと、興奮していた。

 黒犬とほか二人は姿も毛色も違うけど、ありえなくもない可能性に口元が引きつった。ドン引きじゃなくて、にたにたにやけるという意味で、引きつった! にたにた。


 締まりの無いにやけた顔を他人に晒さないように口を強く結んでいたら、男が動いた。いっこうに泣きやまない獣少年の前に立ち、男より背の低い獣少年の頭に手を置いたようだ。

「ほらー泣きやめー。周りに迷惑だぞー」

 あーうん、表情は見えないけど、分かる。めんどくさいんだろうな。声も言い方もそんな感じだ。そんな宥め方でいいのか、お兄さん。

 獣少年は、うん、今は男の体に隠れて見えないけど、まったく泣きやまない。泣き声が聞こえる聞こえる。声をかけられた瞬間は静まったけど、結局煩いままだった。

 動くの遅いとは言わないが、もっとこう、効果的な宥め方はないのか? お兄さん、獣少年と知り合いなんだよね? 付き合いは長くないの? 短いの? 気の知れた家族じゃないわけ? あまり親しくないのか?

 私では現状を理解して速やかに静める事が出来ないので、なおも体をすり寄せては見上げてくる黒犬の頭をまた撫でて現実逃避した。びーずぃーえむは獣少年の号泣と適当に宥める男の声、可愛らしく鳴く黒犬の声でございまする、悲しいかな。


 どのくらい時間が過ぎただろうか。

 黒犬の頭を撫で飽きたので、今度はその麗しい胴体に腕を回して抱き枕よろしく抱きついて頬ずりし始めて少し。つややかで滑らかな黒毛と、ほどよく引き締まって触り心地最高な黒犬のぬくぬくな体を堪能していた時。


「おい」

 !

 茶髪の男や獣少年、もちろん黒犬でもない別の声が聞こえた。

「なかなか戻ってこないから心配して来てみれば……お前たちは何をやっているんだ! 楽しみを独り占めとは到底許せるものではない! そして煩い! まずはそこへ直れ駄犬茶色っ」

 年齢はともかく性別は女性だと思われる。いささか苛立ったような声が勢いよくとんできた。

 緩みきっていた私からしてみれば不意打ち同然で、頭に言葉が入ってくる間も無く心臓が大きく脈打ったあとは小刻みにバクバクいっている。一瞬にして緊張状態に陥ったわけだ。てかついさっきも似たような状況で似たような状態になったよね? 私を驚かせて寿命を縮めさせる気!? これはもうわざと!? 故意に狙ってるのか!? そうなのね!? それしか考えられない! 私になんの恨みがあるってぇのさ、ぐわーっ!!


 しっかりと言葉を聞いていたら数秒後には最後の単語で思わずにやけるか、全体の内容に疑問符をポンポン繰り出すであろう場面だったのに、残念。動悸と緊張のせいで聞き逃し、内心で憤慨している私。なんと残念。……残念の意味が分からないって? ……あ、そうすか。しっしっ、あっち行け。


 黒犬は声のした方、男と獣少年がいる出入り口をお座りした状態で振り向いた。すぐに向き直り、私の肩にあごを乗せて首に顔をすり寄せてきた。え、やだ、何こいつ! 超可愛いんですけど!

 怒りが吹っ飛び思わずギュッと抱きしめてしまった。お前は私の心のオアシスだー!!

 飼い犬にもされたことあるけど、あれは嫌がる肥満体の飼い犬を私の非力な両腕で胸に抱き上げたさいに、飼い犬が私を信頼できずに上へ上へと安全を求める時の行動だと理解している。けして甘えたちゃんでのすり寄りではない、ちーん。でもこの黒犬は確実に私に甘えている! 私には分かる! はーっ、もうっ、可愛いすぎるだろっ!! 胸きゅんだぁよ。

 飼い犬との思い出? に気分降下。そこからのもふもふの癒しに気分急上昇。緊張が大幅に和らいだ。そこで気づく。あんなにも煩かった獣少年の泣き声がやんでいた事に。

 気になって視線を向けると、男の後ろ姿しか見えない。だろうね。男と向かい合ってるはずの獣少年は……よく見えないや。あれ? 奴もこちらに背を向けている?


「ハ、ハク……っ」

 この声は奴だ。号泣してたから鼻声である。だろうよ、嘲笑。しかし非常に動揺したような怯えたような声であった。獣少年も私のように不意打ち食らったくちか? 獣耳だから聴力高いと思ってたけど、人並みかな。気配察知能力とか無いのかな? 獣人としてどうなのよ。てか獣人なんでしょ?

「貴様、外にまで聞こえる声で泣いて煩いだろうが! そこまでして気を引きたいのか!? 私を差し置いて!」

「ひ、ひぃ~っ」

 相手の顔は見えないけど、すごい剣幕で怒られてるっぽい獣少年が背後の男に抱きついた。

「ち、違うもん、近づいちゃ駄目って言われたのが悲しくて泣いてただけだもんっ」と獣少年。

「はっ。主人に拒絶されたくらいで泣くんじゃない。自業自得の結果じゃないか。いつまでも甘ったれたガキ風情でいるというのなら、問答無用で潰してくれる。以前お前にそう言ったのを忘れたのか?」と、顔は見えないのにすごんでるのが容易に想像できてしまう相手の声。怖っ。でも私の好みの声だ。

「ひぃ~、ご、ごめんなさいぃっ」

 男によりいっそう力を込めて抱きつく獣少年。また泣き始めた。さっきより全然小さい声だけど。…………なんだろう、獣少年のお姉さんかお母さんが来たのかな? 躾とかにめちゃくちゃ厳しそうな感じの、厳格な身内が。


「そもそも翡翠、お前はビービー泣いて煩いラウトをほったらかしにして何をやってたんだ。黙らせることくらい簡単にできただろうが」

 あ、矛先が変わったっぽい。……ひすいって、翡翠? え、名前? 茶髪男の? ……目が緑だから翡翠ってことかな。

 私からは獣少年に抱きつかれた男の後ろ姿しか見えないが、気のせいか視線が下の方を向いている。新たな声の主は背が低いのだろうか。いやしかし、良い声してますね。この声で怒られたらちびりそうですよ、ええ。良い声なのに。

「あ~、すみませんハク様。途中で別れたはずのラウトが来たので中に招きましたら、どういうわけか突然泣きだしまして。何事が起きたのかと私も動揺してしまい、対処が遅れてしまいました」

「ふん、言い訳などいらん。どのみちお前たちを迎えに行かせた私が悪かったのだ。……いや、違うな」

「?」

「ああ、違う。認めたくないが、私は今自分の愚かさを再認識したところだ」

「いえ……そんな事は……。これは私の不手際です」

 男が丁寧な口調で謝罪してるけど、声に戸惑いを感じる。

 う~ん、ほんと誰と話をしてるんだろうか。私の位置からだと相手が見えないんだけど。男が丁寧な言葉づかいだから、二人のお母さん? でも獣少年の話し方だと……お姉さんなのかな?

 実は二人は兄弟説は継続中であった。

「翡翠のせいではない。そもそもお前たちを迎えに行かせたのもお前たちを怒るはめになったのも、原因は別にある」

「……それは」

「そこの黒いの!」

 ひぃい!

 見えない相手が部屋中に響くように声を張り上げた。またもビックリした私だけど、黒犬が頬を舐めて見つめてきた。可愛かったから頭を撫でた。嬉しそうに尻尾を一振りしてくれた。

「なんという奴だ……! ラウト、私は今お前の気持ちを理解した」

「ほ、ほんと? じゃあもう怒らない? 怖いことしない?」と獣少年。怖い事って何さ。

「この場は不問にしておく」

 獣少年が男から離れて背を向けた。獣な耳がピンと立って尻尾がぶんぶん振られている。さっきとえらい態度が違う。テンション急上昇したみたいに喜んでるぞ。

「やったー! じゃあじゃあっ。僕も協力するから、なんでも言って!」

「そうか、ならやることは一つだ。分かるな?」

「わかったー! 僕、頑張るっ」

 …………私には会話の内容がよく分からなかった。獣少年がめちゃくちゃ元気になったのだけは分かったが。

「まずはそこをどけ。私に主人をよく見せろ」

 男と獣少年が脇に避けた。開いてるドアの向こう側が私からよく見えるようになった。隣も部屋っぽい。そしてそこに現れたのは。


 一匹の白い中型犬だった。


 え、えっと……だ、誰がどう見ても犬である? 可愛い顔した、犬だったので? なでなでわしゃわしゃ…………。あれ? これって食われた場面の色違いでの再現なんじゃ……汗。


「ほう、これが我らの主人か。懐かしいな。いつぶりか。そうそう、私はそこの奴と違い、嬉しさのあまり主人を頭から食らう趣味はない。安心してほしい」

 白い犬が入り口から私を真っ直ぐに見つめて口を動かしていた。途中獣少年をあごで指すような仕草をしたが、その黒い瞳はほぼ私を見ていた。声の聞こえる方には白い犬のほかには誰もいない。懐の黒犬が私の体にこれでもかと密着してきてから、白い犬へ視線を向けた。押しすぎたぞ黒犬。白い犬の目が少しだけ鋭くなったような気がしたけど、うん、気のせいかな。

 白い犬の口が動く。その度にさっきから見えなかった相手と同じ声がするから、これはもう白い犬が喋ってるんだろうね。さすが異世界、異種族混合、ファンタジー! ひゅう!

「仮初めではあるが、私の名はハク」

 言ってから白い犬が顔を顰めて獣少年を見た。なんだ? つられて私も見てしまった。渋々といった感じで白い犬が言葉を紡ぐ。

「……そこの駄犬茶色はラウトと言う。こちらも仮初めではあるが、私の名より縛りが強いので好きに活用してくれて構わない」

「えっ!?」と獣少年が叫んだ。

 私は駄犬茶色という言葉に意識が行っていた。今、駄犬とか聞こえた。これって間違いなく獣少年の事だよね? 本日二度目ではあるけど一度目は聞き逃していたので、これが初耳になった。平生を保てないというか、無表情を作れないというか。我が耳を疑いつつも若干にやけてしまったのは許したまえ。私好みの声でさも当然と獣少年を駄犬呼ばわりなんて、上下関係とか主従関係連想しちゃうよ。きっと獣少年の方が下だ。従だ。

 駄犬茶色が号泣……地団駄……。号泣駄々こね駄犬茶色…………あれ、なんかすごくしっくりくる。

「えっ!?」

「ふむ、ではこれから何かしでかすたびに、号泣駄々こね駄犬茶色と呼ぶことにしようか」

「なんでっ!?」

 獣少年の抗議の叫びに白い犬は一瞥しただけで私を見る。

「話が逸れたが。私のことはハクではなく、白犬と呼んでほしい」

 しろいぬ、ですか。そのままですね。

「うむ、こちらの方が主人と姫限定で拘束力がまだ高いからな。私が粗相したら強く意識して名前を呼んで命令すれば良い。甘んじて受けよう」

 ん? あるじとひめげんてい?

「主人とはあなたのことだ。姫とは精霊姫のことを指す。姫に関しては本人と再会したときに話すとして。あなたは私こと白犬、そこの駄犬茶色ラウト」

「ま、待ってよ! 僕のことも別の名前にしてよ!」

 獣少年が白い犬に訴えた。しばし見つめ合う一人と一匹? その間で何が交わされたのか。頷いた獣少年が目を輝かせて私に言った。

「ぼ、僕のことは茶犬と呼んで!」

 ちゃいぬ。……漢字を当てはめるとしたら、茶色の犬で、茶犬? ちゃけんじゃなくて、ちゃいぬ。漢字を思い浮かべると個人的におの付くちゃけんと言いたくなる。しかし、ちゃいぬか。……茶犬、犬……犬? あ、え、獣少年て犬だったの!?

 獣人認定してたから、個人的に将来夢見れそうな最強の狼想像してたよっ。いや、狼も犬もきっとそんな変わらないかもしれないけど。

 つーかよく考えれば駄犬て犬指すじゃん!


 ふと、そういえば獣少年が黒犬と会話していた事を思い出した。あの時、アレは無いとかトラウマとか、白い犬も獣少年に自業自得とか言ってたっけ。さらに白い犬が登場した時、獣少年を指す仕草してそこの奴とか頭から食う趣味はないとか言ってたよな。

 それってそれって、獣少年のように頭から食わないってことを言ってたってこと? つまり、あの時の茶色の中型犬は獣少年だと言ったも同然で。

 私が獣少年を見て最初に感じた拒否反応って。


 ……テメェがあの可愛い顔した中型犬からデカくなって私をガブッといった奴だったからかっ!


 私はくわっと目を見開いた、と思う。きっと。

 そうだよそうだね、姿形は違えど獣少年もあの犬のように茶色だったね。犬型と人型じゃ全然わっかんねーよっ。私は本能で敵を見破ったのか? すごいな自分。気づかなかったけど。

 てか狼じゃなかったのかよ。

「……うむ、混乱させてしまってすまない。あの時の犬はそいつだ。どうしても近づいてほしくなければ、強く名を口にして命じれば良い」

「えっ!?」と叫んだのは獣少年。何度目だ。

「とりあえず私と、ラウト改め茶犬、それから」

 白い犬が私の懐にいる黒犬を冷ややかに見た。

「そこにいる愚犬黒いの」

 地を這うくらい声が低くかった。しかもぐけんて何、黒いのって黒犬のことだよね? 獣少年が駄犬で黒犬がぐけん黒いのって…………愚かな犬って意味で愚犬!?

 ……………………。

 愚犬て言う人いるんだ。初めて見たよ。いや、私も愚を単語の前につけて内心で罵ったりするよ? 愚者とか愚人とか愚女とか愚男とか。総括して愚ども。基本はクソですが、爆。でも、他人が犬につけて言ってるの初めて聞いた。言ったの犬だけど。

 なんかすごい……。白い犬の声で言うからなのかな。様になってる。すんなり頭に入ってくるよ。思ってたより白い犬の声が私好みだったのね。見た目もとても可愛い。飼い犬も白かったけど、あれは頭や尾の付けねが茶色で、胴体もまだらな茶色に染まってるんだよね。飼い犬もじゅうぶん可愛いけど、白い犬はほんと白さしかないから不思議な感じするけど、飼い犬とは別の可愛いさがある。あと聡明って言うか頭良さそうな感じがする。……え? 私の可愛い基準が分からない? ま、いいじゃないの。適当で。


「おや、主人はお前などより私を好ましく思っているようだな。ざまぁみろ」

 明らかに蔑んだ声で白い犬が言った。黒犬に。犬が犬に。

「主人、私のことは白犬と呼んでくれてかまわない。そこの黒いのは茶犬よりも愚行を重ねたから当然の呼び方だ。まあそう呼ぶのは私くらいなものだが、主人もそう呼ぶといい」

 えっ。

 可愛い顔して毒……ざまぁって毒なのかな? でも完全に馬鹿にした言い方だったよね。毒でいいや。可愛い顔した白い犬……あ、白犬が毒を吐いたものだから聞き間違えかと思ったけど、聞き間違えじゃなかった。私の耳は正常だった。だけど黒犬を愚犬とか、よ、呼べないよぉ。

「無理強いするつもりはない。気が向いたときに呼んでやれば、良い戒めになるだろう」

 左様でございますか、白犬様。そして今更だけと、私の思ってることはあなた様に筒抜けですね? そこの茶犬様にも、懐の黒犬様にも。えぇえぇ、気づいていましたとも。あ、いえ、白犬が現れてからですすみません。

 そ、それで、あなたと茶犬と黒犬がなんでしたっけ?

 声に出さず、意識して念じてみた。あの金髪碧眼のお姉さんと会話? を成立させたように。

 白犬は一つ頷いて口を開く。

「我らはあなたと契約を結び、あなたに名付けられた獣。今は故あってあなたと仮契約の状態になっているが、破棄されたわけではない。私はあなたに白犬と名付けられ、駄犬茶色は茶犬と名付けられた。ハクとラウトと言う名は姫に付けられたものだが、私の方は拘束力がほとんど消えている」

 へえ~、なんかファンタジーだねぇ。契約とか、私、そういうの記憶にありませんけど。てか姫て誰よ。

「……主人に覚えがないことは我らも理解している。姫については、いずれわかることだろう」

 そっかー。よく分からん。

 異世界トリップのファンタジー小説でよくある設定、展開みたいなものかな? だけどさ、私が可愛い犬たちのご主人様だなんてマジ無いわー。でも白犬が言うならそうなんだろうね。

 私、犬の世話しないしできない人ですけど。飼い犬の世話もしてなかったし。あんちゃんによく小言言われてたし。めちゃストレスだったし。それこそ自業自得ってもんです。

 遠い目をしていたら、懐の黒犬が動いた。ああ、そういえばいたよね、きみ。…………ん?

「黒犬の名前とかはないの?」

 不思議に思ってそう聞けば、白犬が黒犬に冷ややかな視線を向けた。ちょっとビビった。私に向けられたのかと思ったよ、ふぅ。てか白犬の黒犬を見る眼差しがとても恐ろしいんだが。気のせいかと思ってたんだけど、気のせいじゃなかったよ! 恐ろしやっ。

「愚犬黒いのもあなたと契約して名を貰い、姫からも名前を付けられた。しかし今ではその愚犬に名などありはしない」

 なんでだ? 破棄でもされたのかな。

「……主人もそれを呼ぶときは、愚犬や、先ほどのように色を口にするといいだろう。そうすれば名前など呼ばなくても反応してくれるはずだ。その愚犬はそういう愚犬だからな」

 いや、なんか意味が分からないんですけど。てか白犬は黒犬がとても好きではないんだね。獣少年……あ、茶犬の方をよっぽども毛嫌いしてるのかと思ったけど、そうではないんだね~。きみたちにはきみたちの事情があるんだね。なるほどなるほど。


 なんかめんどくさいからねっ!

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