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女主人公と女友達の異世界トリップ  作者: ヌエドリ コトルー
5/12


「ここは、そうね。あなたがお友達と再会する場所の近くになるかな」

 思わず固まってしまった私は、お姉さんの言葉で遅れて周囲が一変していたことに気がついた。車の中じゃない。辺りに花咲く美しい庭園のような場所。空中に花びら舞うじゃなくて、小さな球体みたいなのが淡い光を放ちながら浮遊している。赤、黄色、緑、白、橙……その他色々。ときおり明滅したりして、のんびりゆっくり流れるように浮いている。

 ……色取り取りの綿毛か何かかな?

 浮いてる光の数々に意識をとられたけど、微かに聞こえた笑いに視線を向けたら、少し離れた位置に立っていたお姉さんが楽しそうに私を見ていた。


「あら、顔が真っ赤。もうすぐ二十……八だったかな? うぶなのね、ふふ」

 質問に答えてくれなかったのに優しく微笑むお姉さん。黒いドレスに合わせて黒いハイヒール履いてた! 黒黒なのに全然暗くな~い。品があって似合ってる。足の脇スリット入ってらぁ。美脚! 上から下まで全体的に煌めいて見える! どうして? もしや金髪とその美貌の力か!? すごい! すごすぎる! な~んてね、ち。

「……………………」

 無言の私。

 あ~と、お姉さんの言うとおり私の顔は真っ赤だったりする。お姉さんの指先が私の顎に触れて離れるとき、こうクイって。クイって少しだけど持ち上げたんだよっ。そして妖艶に笑んだの! その瞬間をバッチリ見てしまったわけだ。

 のんきに何がしたいんだろうな~って思いながら控え目に観察してたから、やられた。回避する間もなく凄まじい一撃をもらってしまった。

 全身が熱いぞコラ。顔なんか火が出てるんじゃないかってくらい熱いんだぞ! くそ、お姉さんの色目にやられたっ! キーッ!

「どこですかここ」

 不機嫌さが滲み出ている声だったけど許せよ。いくらお姉さんの立ち姿が美しくても何も出ないんだからね!

「ふふ。いずれあなたがお友達と再会できる場所の近くよ。さっき言ったでしょう? 人の話はちゃんと聞きましょうね」

 う、なんか大人が子供を諭すような言い方がムカつくぞ。が、我慢だ我慢、落ち着け私、冷静になるんだ、なれ、私ならなれる! よし、もいちど質問だ。


「……そもそも誰なんですか。……何者なんですか?」

 やっぱ最初はこれだよね。さあ答えよ。

「……あなた、夢だと思ってるんでしょう? 私が誰かなんてどうでもいいと思うけど、答えなきゃいけないのかな?」

 お姉さんは胸の下で腕を組んで苦笑いしている。答えにくいのかな? なわけないか。

「……夢じゃないとか言ってたじゃないですか。だからとりあえず聞いておこうと思ったんですけど」

 ていうかこの人、あれか? 読心術? とかそういうのに長けてる? だって車の中で声に出してなかったのに考えてること分かってたよね? ……じゃあ何か? 私は顔に思ってることが全部出ちゃうってことなのか?

「ていいますかお姉さん!」

 不機嫌から脱却した普段の声をやや張り上げて言うと、多少は驚いた顔したお姉さん。すぐに笑みを浮かべて「何かな?」と小首を傾げた。う、か、可愛いっ。ぐぬぅ。

「あのですね」と言って、念じた。


 もしかして私の心の中覗けるんですか!?

 脳内で考えてることただ漏れなんですか!?


 口を閉じて目をかっぴらいて反応を窺ったら、困ったように笑われた。あ、ああ、あ~、確信した。なるほどね、ただ漏れなんですね、そうだったんですね、そうなんですか、気づきませんしたー。ガーン!!

 地面に手足ついて頭を垂れたい気分です、ええ。どこからただ漏れだったのか知りたい……。初めからですか? 途中からですか?


「あなたは私をなんだと思う?」

 お姉さんは私から視線を外して、花咲く庭園を眺めた。緩やかに冷たい風が吹いている。横顔だと表情が判断しにくいけど、時たま発光してる浮遊物を目で追ってるように見える。空気が重くなった気がして私は顔を顰めた。まだ残っていた全身の熱がようやく引いた気がする。とくに顔のね。

「……金髪碧眼の綺麗なお姉さんだと思いますが」

 まずは見て思ったことを言って、私も周囲へ目を向けた。

「あと、よく分かんないんですけど、お姉さんが友達のように感じます。えと、さっき車運転してた子わかりますか? その子に雰囲気? 似てる気がします。初めて会った気がしません。それから意地わ……」

 意地悪と言いかけて慌てて口を閉じたけど、ばれたっぽい。

「……そう」

 お姉さんは静かに頷いたけど、一瞬眉をつりあげていた。見なかったことにしよう。


 お姉さんは肉感的な体つきだけど、友達の琴羽さんは成人女性としては私や白石さんよりやせている。白石さん曰く、女としては壊滅的な体型なのだそうだ。と言っても、これは高校時代のときの言葉だから十年も前になる。けれど彼女と不定期に会っている私は今でも当てはまると思っている。つまり十年経っても体型が変わってないってことよ。ある意味羨ましいわな。

 それでも性別女性なので、柔らかさはあると思うきっと。どこかに贅肉があるはずだわ!


 見た目対照的な二人はどう見たって似ていない全くの別人なのに、二人は似ているように思う。なんでだろ。……つーか最後に会ったのいつだっけかな。半年……一年くらい前? 元気にしてるかね、あの子。

「……矛盾してる」

 矛盾?

「いいえ、気にしないで」

 ……分かりました、気にしませんよ?

「あなたが初対面だとはっきり思えないのは、あなたが言うところの金髪碧眼の美少女の影響じゃないかな?」

 お姉さんが小首を傾げた。はうっ、か、可愛い!

「えと……赤いドレス着た女の子のことですか? そりゃ最近間近で見たので金髪とか印象があるかもですが…………え、もしかして知り合い? その子のお姉さんかおか……」

 言いかけて、周りの温度が下がった。陰ったわけじゃないのに不思議だ。空を仰げば快晴が広がるばかり。うひょ~、綺麗。庭園と合わせるとここはまるで癒しの宝庫じゃ~、笑。と脳内で言ってみる。

 お姉さんを見ると、笑みを浮かべてるのになんか怒ってた。……なんで怒ってるの? 今度は失言してないはずなのに。

「……ふふふ、あなたには私に十才を過ぎた大きな子供がいるように見えるのかしら?」

 声低っ! なんか大きな子供のところ強調して言ったぞ、ひぃ~! あ、たしかお姉さんの方が私より年下とかって言ってたっけ? ヒャー、笑顔なのに睨まれた! 怖いよお姉さんっ、怒りをお静めくださいぃっ。

「えっとえと……………………なんかすみませんした?」

 ひとまず首を傾げて謝ってみた。ため息をつかれたので内心ビクついてたら、これ見よがしにまたため息をつかれた。かなり呆れた顔してる。これって私が金髪碧眼繋がりでお姉さんと女の子を家族としてくっつけようとしたからだよね? お姉さんが私より年下なら、二人を血縁者として考えた場合母親ではちょっと無理があったかな? ふむふむ、私お姉さんの年齢知らないけど、年下なんだよね?

 ではでは、お姉さんは女の子のお姉さんだったりするのかな?

「どうなんですか、お姉さん」

「…………なんだかあなたと話すのは疲れるわね」

 はあ、そうですか、すみませぬ。内心で謝ると、なんと三度目のため息つかれた! ぐはっ。

「まず言っとくけど、あなたが会った金髪碧眼の少女と私は血縁関係にないわ。あなたが私と初めて会った気がしないと言ったから可能性を示唆したけど、まさか母親と思われるとは」

「あ、いや、仮定の話をしただけで」

「そうだとしても、言うべきではなかったね」

「いや、途中で言うのやめましたが」

「相手に言葉の先を読まれた時点で言ったも同然よ」

 ご、ごもっともでごあす。内心で平身低頭する私。四度目のため息は言うまでもないよね、泣。

「じゃあ、あの女の子とはまったく関係ないってことですか」

「……関係なくもないけど」

 お姉さんがどこか言いにくそうにこぼした。なんだ?

「……あなた、ずいぶんのんきにしてるけど、自分がどういう状態にあるか知らないでしょ?」

 話題転換したよ。……私、なんかやばいの?

「……ええ、あなたがどこか抜けていてズレてるのは知ってるから大丈夫」

 すみません、意味分かりませんよ、お姉さん。

「簡単に言うと今のあなたは魂だけの状態で私の前にいるのよ」

 たましい? ……魂。

「え、魂!?」

 すぐさま自分の手足見て頭と胴体手で触って確認してしまった。見ても触っても至って普通でどこもおかしくないですが。どこが魂?

「まんまだよ。きみの体はあの二人のもとにあるから心配ないと……思いたい。ま、戻ったときに違和感があっても気にしないことだね」

 きみって。私のこときみって呼んだ。けっこう口調砕けたな、をい。

「それはどういう……」

「きみは正真正銘、剣や魔法やその他多くが存在する異世界にやって来たんだよ。わかる? 日本や海外じゃなくて、異世界。これでパスポートの有無は関係なくなったわけだ。よかったね、悩み事が一つ減って」

「……まじ」

「ほんとは自分が異世界トリップしたって自覚あるんでしょ? まあ、私にはどうでもいい事だけど。しかし望んでたくせに実際そうなると現実逃避するなんて、バカよ。今後のことを考えると黙って見てられないって」

 お姉さんは腰に片手を当て、やれやれって感じにもう片方の手を振った。その手を私の方に伸ばして人差し指を向けて、言う。

「よ~く覚えておくのよ。ここは未来。きみは過去に来た。きみの体は過去にある。魂だけの状態のきみはここ、つまり未来にいる。未来であるここに連れてきたのは私。理由は」

 いったん口を閉じたお姉さんは、私に向けていた手をおろした。大人しく聞いてた私はきっと微妙な顔してると思う。

 現実逃避。

 数年前にもこの言葉を言われたことがある。私自身はそんなつもりもそんなふうにも思ってなかったから、言われたときはイラッときた。むしろ別の人にはなんだかんだ言って現実見てる鎌形って怖いとか冷たいって言われてたもん。でも、さ。どんなときに誰に言われたんだか、すでに忘れてるからね。

「きみが一年半後に死ぬ確率が高かったからだよ」

「死ぬ……」

 まさかの死亡フラグ来たー! ガガガガーン。

「大げさなリアクションいらないから。いい? きみは離ればなれになった友達に再会できるかもしれない直前で死ぬの。私はきみが無事に友達と再会するために出来ることをしようと思って、きみを連れてきたんだから。しかも無断で中身かっ攫ってきたから時間がないのよ。さ、すぐ終わるから、おとなしくしてなさい」

 確率って言っときながら断言したぞ。私の死亡フラグ確定してる言い方だよね。なんか、切ない。てか無断て何。中身かっ攫ってきたとか言われた。時間ないならさっさと用件すませばよかったのに。意味分から……。

「ほら、さっさと無心になる!」

「はいぃ!」

 おとなしくって、脳内で考え事するなってことか!? そかそか、これは失敬しました。ちょいとビビりましたけど、がんばるよ、ほい。

 いつの間にか私との距離をつめたお姉さんが、両手のひらを私の胸に押し当て何か呟いた。私より背が高いな。ヒール履いてるから当然か。とか思ってたら、全身が光に包まれた。すぐに私は後退してお姉さんから離れた。


 これ、やばい。


「あ、ぐっ、な、にを……っ!」

 全身が焼けるような熱さに襲われて地面に膝をついてしまった。胸を手で押さえるがどんどん熱が上がる。先ほどの赤面よりひどい。

 いったい何が起こった!? 熱い、熱すぎる! このままじゃ焼け死んじゃうよ! 私的には火に包まれた感じなのに、視界にはなんの変化もない。お姉さん、最初に何するか説明してからにしてよぉ。あっつ! マジあっつすぎ! 人間の丸焼きになりそうな気分だよっ! なったことも見たこともないけどな! くそっ!

 地面をのたうち回らなかった自分を褒めてやりたい。


 どのくらい熱さに悶えていただろうか。ようやく温度が下がって落ち着いてきたころ、小さな声が耳に届いた。

「……上手くいったわ、よかった」

 その場であまり動かずに耐えていた私を見下ろしていたお姉さんの声だ。あきらかにほっとした声だったので、心配してくれていたのは分かった。たとえ苦しみの原因がお姉さんだとしても、すぐ終わるとか言っといてすぐ終わらなかったとしても、嬉しく思う。だがな、今。幻聴が聞こえた気がした。

 よかったって、言った? 言ったよね、よかったって。……よかった。んなわけあるかあー! 失敗する可能性もあったってことか! 失敗したらどうなってたの私!?

「全然よかねえわぃ! ぼけぃっ! 死ぬかと思ったわぃ!」

 全身汗だらけの私は力いっぱいに怒りを叫んだ。

「まだ元気が残っててよかったわね」

 うふふと笑うお姉さん。

 だからよくねえっつーの! 話聞け! なんだこいつ、話聞いてないだろっ!?

「体だるいわ……ちょっとよろけそう」

 額の汗をぬぐって立ち上がると足下がふらついた。傍に来たお姉さんが支えてくれた。

「大丈夫?」

「あ、どうも、大丈夫です、有難うございます」

「お礼言うなんて、相変わらずだね」

 しまった! 条件反射で頭下げちゃったよ、私のバカー。……いやいやまて、そうじゃなくて。相変わらずって、私のこと知ってるってこと? ちょっとムカつくけど、こんな美女の知り合いなんていないぞ。てか金髪碧眼の知り合いがいない。すると記憶を覗いて知ったってことか。だってほら、記憶を基に再現とかって言ってたよね? ……あれ? それって、私の過去全部見られたってこと……?

 そっと窺うように隣のお姉さんへ目を向けた。

「……私がみれる範囲は、共有している過去。あとは相手によって異なるかな」

 私の考えてることが分かるお姉さんは、苦笑して言った。

「あなたが声に出さなくても考えてることが分かるのは、魔法のおかげかな。全てが分かるわけではないけど、大体は理解できるかな」

 私のこと、きみからあなたに戻った。そうか、魔法なのか。いいな、魔法。私も使えるかな。

「使えるわね。戻ったら教えてもらうといいよ」

 ほら、迎えが来た。と、お姉さんが私の背中を押した。数歩進んで前を見ると、一匹の茶色い中型犬がいた。誰がどう見ても犬である。犬? 見間違えかと思って一度目を閉じてから開けても、やはり犬がいる。可愛い顔した犬だったので、なでなでわしゃわしゃしたいなと見つめていたら。

「え」

 犬の頭、というより口が信じられないくらいでかくなって開いた。と思ったときには私はその口で頭からガブリと食われてしまっていた。噛まれたような痛さはなかったけど、精神的な衝撃の方が大きすぎて気が遠のいた。目の前真っ暗だ。

「あらま大胆ねえ、ふふ」

 楽しそうな感心したような。そんな部類の声で言ったのは、突然現れた犬の変化と行動に驚きもしなかったお姉さん。

「言い忘れてたけど、私は記憶持ちの転生者ではないわよ」

 実はお姉さんが友達の琴羽さんの記憶を持って生まれた転生者だと思っていたけれど、違ったらしい。届いたその言葉は私の疑問を一つ解決してはくれたが、納得がいかない。

 つーか共有とかって言ってたよね? ……あれ? まさか私との間に共有してるものがあるわけじゃなくて、魔法で考えが筒抜けだっただけなの? そうなの? でも、だったら車内での会話とかは何? 過去の私の記憶だよね? それも友達の琴羽さんと共有したやつ。魔法ではリアルタイムで思考ただ漏れなだけじゃなかったの? 過去に遡って記憶まで覗けちゃうわけ? 相手によるって言ってたけど、私の難易度は超低かったって事?


 ……………………逆に増えたんだけど、疑問。もういいや、疲れた、寝る。起きたとき考えよ。はあ。

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