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第九話「魔王はちょっとしか出ない」

第九話「魔王はちょっとしか出ない」






 魔王は笑い転げた。そんな様子に宰相は冷ややかな目線を送る。それでも魔王バハムートに動揺は見られない。さすがに見かねたのか宰相は文句を言う。

「あれに期待しているのですか?」

 魔王は宰相の言葉とは裏腹に期待をしているようだ。絶対の自信を持っているらしく、べた褒めである。しかし、宰相や他の人々、魔族は落胆していた。2騎の巨人がおぼつかない足取りにゲンナリとしている。

 格納庫の外に出ると、2騎の巨人は向き合う。そして装備を捨て徒手空拳となった。誰もが首を傾げる中。2騎から刺すような殺気を纏う。2騎は構え、ゆっくりと間合いを詰めていく。その様子に女性は気づいたのか叫ぶ。

「そんなことしたら――」

 その声が合図となり、2騎の巨人は取っ組み合い。格闘戦を繰り広げる。見慣れぬものが見れば互いに巨人を壊し合っているように見えるだろう。しかし――。

「すごい。こんな慣らし方があるなんて」

 叫んだ女性は感嘆とするように言う。取っ組み合いはしても殴打や蹴りなどはすべて寸止めである。ラガンとソラは、そうやって自身が乗り込んでいる巨人を動かしならしているのだ。最後の最後に両者は左拳の裏拳が飛ぶ。それは誰の目にも激突するのがわかるものだった。

 激しい激突音。が、2騎は壊れない。両騎は左腕に光る籠手が顕現していた。それらが巨人の腕を保護していたのだ。ラガンの乗り込んでいる巨人は白い籠手を、ソラの巨人は蒼い籠手だった。いつの間にか腰に同じ色の刀も顕現していた。

「マジックアイテムあるなら、最初から使っておけ馬鹿共!」

 女性の叫び声に、周囲は肩をはねさせる。

『よし行くか』

『いっきに行きますよ師匠』

 ソラの乗っている巨人は赤い光り、紫の光り、白い光を纏う。

「魔剛騎ヴァンの姿が変わる……」

 ソラの魔剛騎は大きく姿を変える。一際目立ったのが紅い翼だ。自身の師匠の魔剛騎を掴むと、一息で飛翔する。そのままガルゥ達を追っていく。

 後に残された人々は唖然と見送った。






『フェングルガか……死んでも守れ。道連れにしてでも首都には行かせるな!』

 ガルゥは叫ぶ。彼の乗り込んだ金の装飾を施された巨大なワーウルフが突出し始める。それに離されまいと、他の魔衛騎も追随した。

 彼らの眼前には土煙が上がっている。それを生み出しているのは全高10メートルはある狼のような生き物だ。狼と違うのは四肢と尻尾だ。四肢の先の爪は肥大化しており、全体は甲殻のようなモノで覆われている。一目見て剣などが弾かれるのが予見された。尻尾の先は爪のようなモノが一本生えている。剣を彷彿とさせたそれは、城壁を容易く貫けると想像させた。

『マナの濃度は?』

『どんどん上がっています。もう七割五分です』

 魔衛騎ロウガは、ライフルのような武器を持っている。だが、それらは使用されることなく、投棄された。

『マナを運んで来るなよ』

『おいおいそれじゃあオレたち魔法使えないぜ?』

『何言ってんだよ。オレたちは能なしの部類だから、濃度なんて関係ないだろう』

『あいつらオレたちを同族だと思って、尻尾振ってるぜ』

『あの先っぽさえ無ければ可愛げがあるがな。はっはっはっは!』

 ワーウルフ達は迫る敵を目の前にして、冗談を交えて会話する。普段ならば不謹慎だと怒られただろう。彼らを引き継いれているガルゥは注意をしなかった。なぜなら――。

『じゃあな兄弟。来世で会おう』

 ――彼らは死ぬつもりでここに来たのだ。敵を1体でも多く道連れにするために。彼らの巨人は鉤爪のような装備を両手に装着する。フェングルガの咆哮が空気と大地を震わせ、魔衛騎の中を震わせた。彼らは鉤爪を構えるとそのまま肉薄する。

 最初の激突はフェングルガの喉元を容易く切り裂いた。赤い鮮血がフェングルガの前列から噴き出る。切り裂かれた個体は地面を転がりのたうち回った。彼らはガルゥ達を敵と認識する。威嚇の咆哮を上げた。






 円陣を組んだ魔衛騎ロウガ。その周りにはフェングルガの躯が転がっている。戦いは徐々にガルゥ達が追い込まれていた。円陣の中に動けなくなった魔衛騎ロウガが数騎いた。犠牲者はまだ出ていないにしても、時間の問題である。士気はすでに下がりきっていた。

『これだけ削れば後詰の奴らに任せても大丈夫ですよね』

『1人1体道連れで、半分まで減らせるな』

 ガルゥは冷淡に言う。そして残酷な命令を告げるために口を開く。

『お前たち――』

 直後に白色の光がフェングルガを3匹薙ぎ払った。

 ガルゥのロウガは光の出先を見る。上空から魔剛騎ヴァンが急降下していた。否、落ちながら突貫している。白い籠手に白い光を纏った太刀が振りぬかれる。フェングルガの首が落ちた。赤い血飛沫が撒き散る。

 新たな脅威にフェングルガは一度距離を取った。

『ラガンか』

『お前ら足が早すぎだよ』

 ラガンの声は陽気だ。ガルゥの声も緊張が解けていく。

『慣らしに時間かけ過ぎだ』

『いきなり試作騎に搭乗させられる身にもなってみろ』

 そんな会話をしている中でも上空から白い光が降り注ぐ。フェングルガの数を確実に減らしていた。時折急降下しては紫の大剣を振りぬいて、フェングルガを真っ二つにする。飛びかかってくるモノは翼から放出される光の翼に穿かれ絶命した。

『やれやれ。魔王様が言ったとおりだな』

『ソラ。最後くらいこいつの性能で倒そうじゃないか。一応試験運用の記録を取るぞ』

『りょうかい』

 ソラは返事をすると降り立つ。そして赤い翼、紫の大剣、白の大砲を光の粒にして消した。残ったのは蒼い籠手と蒼い太刀だ。それを両手で構える。切っ先はフェングルガ達に向けられていた。

 最後は呆気無くフェングルガ達は首を跳ね飛ばされる。

『縮地か』

 ガルゥは2騎の巨人の動きに感嘆とした声を漏らす。






「やっぱり勇者になれ!」

「いやだ!」

 帰ってきた2人は巨大なコブを作っていた。開発主任と名乗る女性の拳骨をくらったのだ。そして今は魔王がソラに「勇者になって、私と戦うのだ」と説いていた。ソラはそれを拒んでラガンの背中に隠れる。ラガンは呆れたように笑い。首を振る。

「ちょっとくらいいいじゃない!」

「ちょっとってなんだよ……」

 魔王は半べそかきながら、ラガンに愚痴るのだった。






~続く~


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