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「勇者がようやく現る」

「勇者がようやく現る」






 長きに渡るヴァーズンとの戦争は魔王連合軍によって勝利に終わった。一重に1人の霊将の活躍がこの勝利に繋がったことは、今はまだ知られていない。

 魔王は墓地を見渡す。

 魔王が国を転覆させ、自らが国王となって60年、その間に起きた戦などで亡くなった兵士、市民などを祀る英霊の墓地と呼ばれている。もちろんヴァーズンとの戦で多くの人がこの世を去り、また新たな墓石を立てたところであった。

 そんな中に建国の英霊たちの墓がある。

「行くのか?」

「ああ」

 ソラはラガンの大きな墓石の前で合掌を解く。勢い良く立ち上がる。

「俺は結局……守れたのかな?」

「少なくともロウス、エメリアユニティ、エルニージュ、そして我が国の民は守れた。民を代表してお礼を言わせてくれ。ありがとう」

 魔王は頭を垂れた。それを重臣の者が見ていれば止めたであろう。しかし、それを止めるものはいない。彼の側近である宰相もだ。

「だが……壊したのも事実だな」

「ですよね……」

「それに関しては言い繕う事はできない。火種は間違いなく君だ。しかし、それを利用したのはかの民だ」

 魔王は「それを認知しているかしていないかは別だがな」と、息を吐くように付け加えた。

 彼らはヴァーズンを滅ぼしたわけではない。ヴァーズンの中枢である帝都を破壊することで内乱を誘発させ戦争出来なくさせたのだ。それは連合軍の当初の目的であった。そしてソラとリリーシャ達はそれを実行したのだ。そのお陰で戦争は止まった。

「気休めだが、元々抱え込んでいた火種だ。それにその責任は我らが負うべきものだ。君は君の責任を全うした。それだけだ」

 彼は空を見上げる。そこには綺麗な蒼穹。ソラは眩しそうにそれを見つめた。

「とりあえず、考えながら冒険します。それしか出来ないですし」

「そうだな。それがいい。そうだ今回使った魔剛騎だが――」

「置いていきます。後、龍の牙も」

 ソラは強い語気で言う。魔王は特に気にするなく流す。

「あれもか?」

「ええ、あれは強すぎます。何より俺1人で管理は出来ません。バハムートならそれが出来るでしょ?」

 魔王は嬉しそうに口元を緩める。

「そうだな。そうしよう」

「お願いします。必要になった時に取りに来ます」

「承知した」

 会話を終えたのかソラは踵を返す。魔王も呼び止めることはせず見送った。その背中が墓地から消えるまでその場で彼は見送り続ける。






「大丈夫さ。彼ならきっと大丈夫だ」






 ヴァーズンとの戦後の処理に追われる中。魔王軍に噂が飛び込む。勇者が魔王を目指し冒険をしていると。






「魔王様! 早まった行動はしないでください!」

 宰相は叫びながら書斎に転がり込む。文字通り、床を転がりながら魔王のいる机に激突する。

「なんだ騒がしいな。今はそれどころではない。巫山戯たことを言ってないで手伝ってくれ」

 宰相は間の抜けた顔をする。

「はっ? はぁ? 勇者が来るのをあんなに望んでいたじゃないですか?!!」

「いやそうだが、今はそれどころではない。他国でマナ出血熱が出たらしい。たぶんソラの耳にも届いているだろうから、なんとかしてくれるだろう。が、国内への侵入をなんとしても防ぐぞ」

 魔王は溜息をはく。

「わ、わかりました。海上都市に霊石持ちを派遣します。国外の方の入り口を海上都市に絞りましょう」

 宰相は起き上がりながら、有事の際の手順書を取り出す。

「なるほど、その手があったか」

 魔王は項垂れる。

「少し不便をかけますが、仕方がありません。国の収益にも影響が出るでしょうが我が国に入ってからでは遅いです」

 魔王は満足そうに頷いた。

「よし、次に軍の再編だ。しばらく戦争はないだろうが、ある程度の軍備を維持したい」

「では――」






「すいません。マナ出血熱が出た関係でこちらからは入国できないんです」

 ワーウルフは丁寧に説明する。それを聞いた女性は「そーなんですかー」と間延びした返事をして相槌を打つ。それを遠目に見ている仲間と思しき者達は、少し苛立ちを見せていた。貧乏揺すりしていた1人がワーウルフに掴みかかる。

「私達は健康そのものだ! だからこっから入ってもいいだろう?」

「い、いえ。例外は認められません。ご不便をおかけしますが、何卒ご理解ください。我々も民を守りたいのです」

「なんだとー! 貴様らモガガ!」

 突っかかっていた女性は仲間に押さえつけられるようにして引き剥がされた

「す、すいませんー。海上都市から回って入国しますのでー、道順を教えていただけるでしょうかー?」

「こちらこそ、ご理解くださいましてありがとうございます」

 ワーウルフは地図を手渡し、道順を説明する。その際の入国の手順なども詳しく付け加えた。






 その一団は5人からなっている。全員女性のためか、精力的な行商人には眩しく見えるのだろう。舐めるように見つめている者が多い。

「おのれ魔王! 私達の到来に気づいてこのような策を! 許せん!」

「ちょっと声がでかいぞ勇者」

 勇者と呼ばれた女性は力強く拳を作り、小刻みに震わせる。

「でーもー、聞いてたより全然―普通の国と変わりませんねー」

 地図を手に持つ女性は、周囲を見渡す。同じく入国を拒否された人々は海上都市を目指していた。同じく眺めていた仲間も口を開く。

「むしろ地図をただで貰ってしまいましたね」

 その施しは彼女らにとって異例なのか、何度も「出来た国だ」と賞賛する。

「食料と水もーいただけましたねー」

 小さい少女が嬉しそうにそれを掲げた。

 1人を除いて、彼女らは二の足を踏み始める。

「何を言う! これも悪逆非道の魔王の罠に違いない! 毒があるかもしれないぞ!」

「ぷっはぁ。お母さんこの食べ物美味しいよ」

 無邪気な笑顔が一団の空気を和やかにさせた。もちろん1人を除いて。

「あら、良かったわね」

「胃袋をつかみ始めたか!」

「お前はなんでもいいのか」






~続く~


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