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第十話「魔王は憂う」

第十話「魔王は憂う」






「冒険ギルドに寄付すれば、勇者一行も来てくれるかもしれない」

「国の金を使うなや!」

 魔王は宰相のビンタをくらった。かなりの威力なのか宙を舞う。地面に落着した勢いで何かモノが落ちる音も響く。本が数冊落ちていた。彼らの漫才をメイドたちとソラは面白そうに眺めている。

「私のお金だよ!」

「あんたの財布は国の財布でもあるんだよ」

 メイドは落ちた本を棚に戻していく。

「じゃあ宰相が出してよ!」

「誰が出しますか! 絶対に出しません!」

 彼または彼女かわからない存在の宰相。彼は羊皮紙や竹簡を机の上に叩きつけた。そして仕事をするように促す。魔王は渋々と言った様子で羊皮紙と竹簡に目を通した。

「フェングルガの素材が手に入ったのは大きいね」

「ええ。大体が首を落として、討伐してくれたので、素材は取り放題だったようです」

 魔王は顎に手をあてる。考える素振りを見せながら口を開いた。

「魔衛騎ロウガの損傷は?」

「数日中には直せそうだという報告です。それと魔剛騎ヴァンの運用報告書がまだ提出されてないそうです」

 宰相は言いながら、顔をソラに向けた。彼もそれに気づいて顔をそむける。そんな態度に白頭巾は舌打ちする。そんな様子に魔王は笑う。彼の笑みはすぐに途絶える。彼は眼鏡をかた。手にとった竹簡を何度も読み返している。

「カンクリアンとエルニージュが戦争秒読みか……」

「のようです。まずは小国を、ということですかね」

「随分と遠回しな嫌がらせだな」

「困りましたね。景気が落ち込みますね」

 魔王は眼鏡の位置を正す。そして唸った。そこにラガンが部屋に入ってくる。彼は羊皮紙を宰相に差し出した。ラガンは話を聞いていたのか、自然と会話に加わった。

「エルニージュは荒野が広がっているだけで、肥沃な大地でもないんだがな」

「アトランディスの最大輸出国だ。そこを落とせば、我が国にも影響が出るのは必至だな」

 ラガンは理解していないようだ。首を捻っている。

「アトランディスに我が国は経済支援しているんだ。だから、アトランディスの最大輸出国のエルニージュが攻撃されると、遠回しにこちらが経済で揺さぶられるのだ」

 魔王はさらに続ける。北のカラミティモンスターがいついているせいで、経済を悪化させていることも。北の大地は酪農として栄えていたのだ。だが、カラミティモンスターが現れたことにより、それが滞っている。徐々にそれが影響出始めていた。

「改めて、討伐を進言します」

「却下。今やればこちらに損害が出る。それに浸けこんでカンクリアンは攻め込んでくるだろう」

「ですが、このままでは経済が」

「とりあえず今は耐え忍ぶだな。外務担当がエメリアユニティと上手くやれているようだしね」

「こちらから軍事支援しても戦争に繋がりますし、アトランディスからけしかけるにしても魔剛騎すらない国ですから、軍事力は当てにならないでしょう」






 大浴場に笑い声が響く。魔王とラガンだ。それをソラは眺めている。

「明日発つ」

「そうか。また来てくれ」

 ラガンは嬉しそうに「ああ」と答えた。

 しばらくの沈黙の後、魔王は話し始める。ソラを眺めながらだ。

「しかし、4つの精霊と同時に契約とはすごいな」

 魔王の視線の先はソラの左手。その手は薬指以外に4つの指輪がはめられていた。蒼、赤、紫、緑。色とりどりである。ラガンは左の薬指に白い指輪があった。

「こいつは契約の儀の時に色々と異常な現象が起きてな。本来は薬指に契約の指輪が来るはずなのだが……」

「左の薬指にはヴァルキュリアの呪いがかかっている」

「なに?!」

 ラガンは驚きのあまり立ち上がってしまう。魔王は視線で座るように促す。

「なぜわかる」

「赤い糸のようなものが見えるのだ。かなり高位の呪いだな」

 魔王はそれがソラの薬指にあることを告げた。ソラはそこで初めて会話に参加する。

「たぶん姉さんかな」

「何? 君のお姉さんはヴァルキュリアに転生してしまったのか……。なるほど色々と合点がいった」

 魔王は納得いったらしく。「そういうことか」と言いながら湯船で背伸びした。

「どういうことだ?」

「んまー、色々とあるよね」

 魔王ははぐらかす。そんな様子にラガンは問い詰めるのを諦めたようだ。溜息を吐いて、お湯で顔を洗う。

「それよりだ。勇者足りえる人物がいたらここに来るように行ってくれないか? それかソラを勇者としてだな――」

「断る!」

「いやだ!」






~次回に続く~

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