02
「なあ、やっぱやめない?」
「なーい」
喧噪や活気とはほど遠い裏道――つまりいつもの通り道だ、そこを二人で歩きながら、ノスは情けない声を出した。半ば懇願するように訪ねるが、しかしアリアは、満面の笑顔のまま、ばっさりと切り捨てる。
足取りも、言葉と同期すするような風だった。彼の足取りは嫌々、というほどでもないが、あからさまに後ろ髪を引かれている。対してアリアは、恐ろしく軽快だ。スキップすらしている。
「そっか……そうだよなぁ。いや気持ちは分かるんだけどさぁ」
ぼやきながら、ノスは個別魔力領域を探索した。現在の中身は、来た当初の、つまりゲーム内アイテムだけではない。生活品やら未整理の買い物やら、いろいろと詰まっていた。便利なもので、要領の許す限りいくらでも入れられる。カンストキャラともなれば膨大なもので、それこそちょっとした城をまるまる収納することもできるだろう。まあ、どうやって入れるのか、という問題はあるが。
乗り気のしないまま、中身の一つを探し当てる。そこにはかなりの量の通貨が並べられている。
『幽霊屋敷の浄化』依頼の交渉、あれをマリーは、思いの外がんばってくれたらしい。追加で払われた依頼料は、かなりのものだった。生活に大分余裕ができたし、改めて調べ物をする事もできた。
とりあえず最優先で調べた物資の状況と、通貨事情。次に冒険者の事情やら狩り場やら国際地図やらと、有意義であったのは間違いない。おかげで、慎ましいながらも生活に困らないようにはなっている。
と、なれば。やはり欲が出てくるものだ。
アリアは、こちらに来てもなんだかんだ言いながらノスの方針に従った。しかし今回、最後までだだをこね続けたのが、住居の問題である。
確かに問題のある場所、建物ではあるだろう。しかし、ノスは思うのだ。
彼は少女の耳元に口を近づけて、(気持ち悪く)甘えるように囁いた。
「なあ、今住んでる所だって、ちょっとくらい愛着があるだろ?」
決して良い拠点ではないが、それでも住める程度には直したのだ。ぼろぼろの壁を補修し、中を掃除して、魔法でセキュリティを強化して……つまりは、自分の居場所という印象ができてしまった。
金は多少の余裕はあるが、しかし多いというわけでもない、という言い訳もある。なにより、ほぼ壊れていたものを使えるまでに戻したのだ。それを失うのは惜しい、そう思うのは、人間として当然ではなかろーか。
が……
「なーい」
アリアのすげない返事は、全く変わらなかった。がくん、とノスが項垂れる。
「ちくしょう、ちょっとは執着しようぜ……」
哀れに肩を落としながら、未練がましく背後を見る。小汚い路地裏からは、当然自宅(元)は見えない。もう家には、決して届かないのだ……
「はぁー……。女の子はドライだなぁ」
長い長いため息をついて、正面に戻す。
アリアには、ずいぶんと我慢をさせていた。その手前、住居変更というささやかな願いを無理矢理押えさせるのは、さすがに躊躇われる。と言うか、これで我慢させたら本気でただの鬼である。
進み慣れているはずの道が、今日はどこか暗く狭いように思えた。
「アリアー」
一人でずんずんと、不動産屋(と言うのが正解かは分からないが)に進もうとする少女に、声をかける。
「先に冒険者ギルドに行くぞー」
言うと、大分小さくなっていた影が、くるりと反転した。彼女にしては珍しく(最近ではそうでもないかもしれない)、怒ったように表情を作って、声を張り上げる。
「そんなこといって、いかない気でしょ!」
「行くよ行きますよ。そうじゃなくて、買い物もするんだから、先に寄らないと遠回りになるだろ?」
一応は納得したのだろうか。てくてく戻ってくる。まあ、足取りは重いし、ぶすっとした顔つきのままではあったが。
隣に並び直し、あとは指を握ってくる。いつもは張り付くほどなのに、今はこの程度。それが、彼女がどれだけ不機嫌かを表していた。
少女の機嫌を取りつつしばらく、もう完全に「いつもの場所」になってしまった冒険者ギルド。扉を開ければ、やはりいつもの染みとヒビに覆われた壁面、中心にぴっとした制服を気怠げに着ているラナの姿があった。
(って、制服?)
唯一見慣れなかった格好に、はたと思う。
彼女の格好を改めて観察してみた。青色の短い三角柱の帽子に、白く清潔で、ボタン留め付近にレースの入ったシャツ。肩には意匠を凝らした布製台地がある。
ゲーム内ではよく見た姿だった。なにしろ、冒険者ギルドのNPCは皆その格好をしていたのだから。しかし、この世界に来てからはなじみのないものだ。
「そんなところで突っ立ってないでよ」
いくら制服に身を包んでも、中身は変わらないのか。肘をつき、ほおを支えたままのラナ。
「いや、なんと言うか……」
呟きながら、とりあえず脇によける。誰かが入ってくるとも思えなかったが、入り口を塞いだままと言うのも、具合が悪い。
「お前でもちゃんとした格好をするんだなー、と思って」
「言いたいことは分かるけど、本人を前にしてるんだから控えてくれない?」
ため息こそは聞こえなかった、今にもつきそうな雰囲気だ。ラナは一事が万事この調子なので、今更何を思う訳でもない。
取り合えず、意味もなく壁際に寄った。壁に寄りかからないのは、意味がある。ノスの背中と壁の隙間に、アリアが滑り込んだ。ぎゅっと背中の服を握られる。それでも体の四分の三を出しているのは、人見知りが直ってきたと言うより、ラナに慣れてきただけだろう。
「で、仕事は?」
「いつも言ってるけど、本当に暇ねえ」
「日課だもの」
ぽそり、消え入りそうな声で答えたのは、アリアだ。
ラナは一瞬目を開いて、すぐに優しいそれになると、少女に微笑みかけた。もっとも、その頃には完全にノスの背中に隠れていたが。
狩りでもそれなりに金になる。だが、やはり効率がいいのは依頼だ。アンスタッド周辺は基本的に教会が、その残りを冒険者が狩るようになる。はっきり言って、探すのが恐ろしく手間だ。それなりに安定した数の敵を求めるには、そこそそ離れるしかない。
狩りを覚えても、依頼の重要性は変わらなかった。
「いつも言ってる通り、そう都合良く入るわけないでしょ……と言いたい所なんだけどね」
「お?」
初めて見る反応に、思わず期待の声が漏れる。
「もしかして、制服着てるのもそれが理由?」
「まあ、そんなところ」
真新しい(つまりはほとんど着ていないのだろう)ように見えるそれを、指さした。服の裾を摘みながら言うラナは、どうにも着心地が悪そうだ。
「相当な厄介ごとらしくて。いろんな所の連名での依頼。さすがにふざけた格好をしてるのも問題があるから、こうしてタンスの肥やしを引っ張り出したわけ」
「いや、普段から着てろよ。制服だろ」
指摘する。が、彼女は鼻を鳴らしただけだった。
「嫌よ。暑いしかったるいし体が重くなるし。私はこれを受け取ったとき、二度と着ないと心に誓ったの。重要事件とは言え着ちゃったのは、一生の恥だわ」
「そこまで言うか……」
どきっぱりと胸を張って言い切る彼女に、若干口元を引きつらせる。およそ、仕事をしている自覚ある者の態度ではなかった。
「と言うわけで、今日は暇じゃないの。話を聞いて依頼を受けるか受けないか決めたら、とっとと出てって頂戴」
「ああ、だから今日はだれも居ないのね」
ノスは入り口右にある、開けたブースを見た。高確率で、そこに誰かしらたむろっているのを見る。
粗末なテーブルと、椅子がいくつか転がっているそこ。別に、そのためのスペースという訳ではないのだろう。実際、テーブルと椅子は持ち込み品だと聞いた。つまりは、勝手に交流――と言うよりも雑談か――スペース化されただけだ。職員があえて否定しないから、今でもそう使われているというだけで。
つまり、出て行けと言われれば、それに逆らうことはできない。
「じゃあ経緯を……って言っても、あなたたちの方が詳しいでしょうね」
「は?」
「今回のこれは、あなたが受けた二つの依頼、輸送団の護衛と屋敷の浄化が原因なんだから」
ふと、思い出す、努力をしてみる。ぱっと思い出したのは、マリーメイアの事であり。何か原因になりそうなものと言われても、そうぽんとは思い浮かばなかった。
首をひねっているノスに、ラナは呆れかえって息を吐き出した。
「なんであなたが悩むのよ。魔物が大量発生したでしょ?」
「ああ、いや、そうだったけど……。そういう事もあるんじゃないの?」
「あるわけないでしょ。一体どんな修羅の国から来たら、そんな感覚になるのよ」
バカじゃないの? と続けて、さらにため息までおまけされた。
それなりに常識を把握しているつもりではあったのだが。ここまであからさまに、一般的感覚が足りてないと言われると、かなり胸に来るものがあった。むしろ心臓に突き刺さるし、ちょっと泣きそうだ。
「魔物の異常発生事件が立て続けに二件、それも事件は北部に集中。事態を重く見た上層部は動ける人員のありったけを動員。そのありったけの動員に、冒険者も含まれているわけ」
「何か、説明がざっくりすぎない?」
「別に詳しく話してもいいけど、長くなるわよ。ちなみに私は面倒だから嫌」
あまりに正直すぎる本音に、アリアすらぽかんとした。
しばらく、沈黙が周囲を支配して。やがて動きだしたノスが、額を押えながらも言った。
「……いや、いいや。要点だけ教えて」
「うん、で、今回依頼者が求めているのはずばり情報。一つは魔物が大量発生している土地。これを見つけると情報料が入って、さらに討伐に参加すると追加で支払われる。もう一つ、こっちが本題なんだけど、大量発生事件の原因。見つけられたら莫大な懸賞金が支払われる」
と、ラナが言い終えて。しかしノスもまた、彼女の言葉の続きを待った。
再度の沈黙。破ったのは、またしてもノスであった。
「あの、原因の目星とか予想とかは? そういうのがないと、大量発生の特定だってできない気がするんだけど……」
「ないわ。完全にノーデータ。少なくとも、冒険者ギルドには回ってきてないわよ」
お手上げだ――言うように、彼女は両手を挙げて首を振った。下げた手をカウンターに投げ出して、再び肘をついた。
「だからこその懸賞金の高さもあるんでしょうね。騎士団も各教会もほぼ完全に動員されてるし、それこそ藁をも掴む気持ちなんじゃない?」
ラナの手が、カウンターの隅においてあった紙束に伸びる。その一番上を手にとって、こちらに渡してきた。
受け取ったノスは、アリアからも見える位置まで下ろして、それを読んだ。それは今回事件の要項……というよりも、ただのチラシの類いだ。やるべき事や目標は書いてあっても、目星を付けられるような情報は何一つない。これを受け取ったのが冒険者ギルドでなければ、堅苦しい街のイベントだと思ったかもしれない。ただし、依頼料の部分だけは冗談で住む数字ではなかった。大量発生を報告しただけで、しばらくは遊んで暮らせそうな金額。原因の発見ともなれば、本当に一財産を得られる。
「太っ腹……って訳じゃないよな。それだけ本気なのか」
「とにかく動かせる所は全部動かしてるみたいだしね。本当にヤバいんでしょ」
で、とラナは改める。
「受ける? 受けない? まあ受けないからって何がどうって事はないわよ。リスクなんてないから、大抵の冒険者は『宝探し』をしてるけど」
宝探し……。その表現は、全くもってその通りなのだが。現状を宝探しと言い切れる彼女は、かなり剛胆だと思えた。
「どうする?」
脇に引っ込んでいるアリアに聞いてみる。もっとも、聞くまでもなかったようではあったが。
彼女はノスから要項を奪って、食い入るように見ていた。瞳は輝き、体も若干せわしない。普段、完全にインドア派のアリアであったが、時折妙に活動的になる。こんかいのこれが、それなのだろう。
「やる」
案の定、彼女ははっきりと断言した。
まだ正式に受け手もいないのだが、彼女の中ではすでに決定しているようだ。要項を握りしめて、ぐっと体に力を入れている。
その様子をみながらぽりぽりと頬をかき、ラナへと振り返った。
「まあ、そういう事で」
「じゃあ受付するからこっちに」
近寄って、登録証を差し出した。冒険者ギルドの受付と言うのは、基本的にこれだけである。冒険者は自由人の集まりだけあって、文字を書けない者が多い。アンスタッドのような人気のない場所ならば、多少時間をかけてもいいのだろうが。仕事の多い場所では、詰まらせたら困るだろう。
「はい、受け付け終了しました。あと、これが前金ね」
「前金? そんなのあるのか?」
はたと思う。
ラナから渡されたそれは、決して体した金額ではない。恐らくは、保存食を一週間分も購入しただけで終わるだろう。だが、それを冒険者全員分となると、かなりの金額にはるはずだ。
その考えに気がついた、という訳でもないだろうが。ラナは説明した。
「渡されるのはギルドか、一人前の冒険者だけよ。それなら体した人数はいないし、金額にもならないし。半人前は前金なし」
「ああ、なるほど」
上手い手ではあるのだろう。やたらに前金を渡せば、持ち逃げが多発する。一人前にだけ渡しても、なくなりはしないだろうが。現に、ノスだって真剣に探すつもりはない。狩りのついでに見つけられたら運がいい、という程度である。だが、一流どころが(名目上だけでも)参加していれば、俺もと続く者は多いだろう。特に半人前ならば、一攫千金を夢見るはずだ。討伐任務でなければ自分にも機会はある、とも。
前金を受け取った以上はそれなりに要請を受け入れる義務がある。そう思わせる意図もあるかもしれない。特に戦闘面では、決して馬鹿にできない力になる。決戦参加要請などが来た場合は、断りづらくはあるだろう。これも、元々受けるつもりであるし、問題ない。
「はいはい、受けたら行った行った」
処理は手早く終えられ(それだけ多くこなしたのだろう)、すぐにギルドから叩き出された。外に出て、強めの日に晒されると、入れ替わるようにして別の冒険者が入っていく。
それを一瞥して見送りながら。とりあえず、まあだ要項を握りしめているアリアに、聞いてみた。
「どうしようか?」
「さがす準備する!」
気合いたっぷりに言いながら、手を引き始める。
少女に引っ張られながら、ノスは密かに安堵した。新しい家を探す件は忘れているらしい。
「これがおわったら、新しいおうち探し」
……忘れていなかった。密かに、しかし深く息を吐きながら、彼は引っ張られるままに任せた。
一般的に探すという行為は、難しいものである。明確な対象と、想定される目標と、最低でもこの二つがなければ成り立たない。逆に言えば、それらが欠けてしまえば、もう「探す」とも言えなくなる訳だ。何を見つけるつもりは分かってなければ、それは観光と大差ない。どこにあるか目星もつかなければ、これもやはり、散歩と言われても、反論するのは難しいだろう。
どちらも分からずに探すというのは、きっぱりと無意味な行為だ。だが、そこに欲望や義務感が絡まると、案外無意味な事はしてしまうものだ。
と、いうのを。目の前の光景が、とてもよく教えてくれていた。
「人が多いなあ」
「ねー」
アンスタッドから北に二日目。普通であれば人など見ない位置である。だが、ここに来るまで、人の姿は一度として絶えていない。必ずどこかしら、誰かが当てもなく何かを探していた。数人単位で組織的に動く騎士や聖職者、探索技能を駆使して捜索している冒険者、もう何が目的か分からずふらふらしているだけの人間など。とにかく、人間を見つけるのに苦労はなかった。
「とりあえず北に進路を取ったけど、これじゃ何も見つけられないかね」
「えー……」
アリアが不満そうに喉を唸らせた。
北方を目指したのに、深い意味があったわけではない。ただ、輸送団の件も屋敷の件も、そう言えば北の方だったな、という程度の考えである。それくらいしかヒントがないのだから、選択肢もなかったのだが……つまりそれは、他の人にとってもそうだったのだろう。
事件発生位置を考えて、探索箇所を決定する。そうでなくても、騎士団やらと言った事情をしっている組織は、ある程度全面をカバーする必要があるにせよ、一番可能性の高い北に集中するだろう。そうなれば、自然と冒険者もそちらに集中する。
別に、見つけられると思っていた訳でもないのだが。これは諦めた方がいいか……早くもノスは、狩りに集中する事を考えていた。
が、一方アリアはと言うと、悄然した様子は全くなく。むしろ負けるものかと、気合いを入れ直していた。
「お兄ちゃん、早くぅ!」
「ちょっと待てよ。これ以上飛ばすとスキップホースが潰れるって」
スキップホースとは、馬の一種である。ゲーム内ではスキップの名の通り、各地に瞬間的に移動できる魔法の変わりにもなった。残念ながら、現実にその能力はない様子だったが。それでも、優秀な乗り物であるには変わりない。
ちなみにスキップホースは、全ての面で普通の馬より能力が高い代わりに、戦闘ができなくなる。つまり、騎獣として扱えないのだ。完全に移動専用の生き物である。騎乗スキルが低くても扱える、非常に便利な移動手段だった。
馬を加速させてアリアに並ぶと、手綱をひったくって馬を落ち着かせる。予想以上に加速していたのだろうか、あわあわと慌ててているアリアが印象的だ。予想外の事が起こるとすぐにフリーズするポンコツである。
「ほら、危ないだろうが。ちゃんと言うこと聞きなさい」
「ごめんなさい……」
しょぼん、としている少女をみるとすぐ許してしまうのは、甘さなのだろう。分かっていても、改善できる気はしなかった。容貌といい、どうにもついついかわいがりたいと思わせる子である。
落ち込むアリアの気を紛らわせるように、話題を振る。
「とりあえず分かったことは」
周囲をぐるりと一回り見回す。前方に聖職者と思わしき集団、あとは冒険者が二人。右手遠方には、これも一人だが冒険者。
「普通に探しても絶対にみつからない、という事だ。少なくとも、俺たちが探し当てるより早く、誰かが見つける」
「む、それはやだ」
「だから、俺たちしか知らない事から考える」
くい、と小首を傾げるアリア。
「ブルークラスタ・オンラインの事は、俺たちしか知らないだろ?」
「あ!」
と、アリアが思わず声を上げて――その拍子に、手綱を弾いてしまう。馬が再加速し、涙目で張り付くアリア。
焦って追いつき、馬を大人しくさせる。それを成功させた頃には、アリアは騎乗にすっかり怯えていた。かなりびくびくしながら、手綱を握る羽目になっていた。かわいそうだとは思うが、まさか馬を個別魔力領域にしまうわけにもいかない。ノスの馬に乗りたがってたが、諦めるしかなかった。
話を続ける。
「で、アリアは魔物が大量発生する事に、何か心当たりがあるか?」
「ううぅぅぅ……そんなのいくとこいけばいくらでも見れたし」
「だよなぁ」
現実ではともかくだ。ゲームで山のようなモンスターが出現するというのは、さほど珍しい光景ではなかった。百がいっぺんにというのは、さすがに普通のダンジョンではなかった。それでも、十数匹が断続的に、という専門のダンジョンは存在した。百以上の数がいっぺんにだって、ImRプレイヤーが作ったりと、なかったわけでもない。
「条件を変えよう。通常モンスターの出現数、出現率が変動する条件って何だ?」
「イベント」
「……だよなあ」
これまたきっぱりと答えられて、言葉に詰まった。
モンスターの出現数など、ゲーム内ではそうぽんぽん変わらない。それが変わる時と言えば、変える必要がある時。つまり、大抵はイベントだ。あとは、強すぎもしくは弱すぎる敵の調整で、一番楽な手段として数の変更が行われもしたが。
どうであれ、現実的なものだとは思えなかった。
「結局できる事って言ったら、地道に探すことだけか」
「お馬からおりたい……」
「こいつも、なあ」
アリアは興奮を忘れて、泣き言を言い始めていた。
「まあどっちにしたってもうちょっと進むしかないんだけど」
人がそれなりにいると言うことは、安全確保の為にモンスターが刈り尽くされている、という事でもある。ここで止まれば、完全に赤字だ。スキップホースのレンタル料だって安くないのに。
「と言うわけで、もうちょっと堪えてね」
「ふえええぇぇぇ……」
馬上でかたかたと震えるアリアを宥めながら。せめてモンスターの密集地帯を探すべく、二人は馬を走らせた。