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王様のたくらみ

 城へ攻めいる予定だった軍勢が大敗北を喫し、反抗軍は各地で総崩れになりました。各地に散っていた王様の軍勢も続々と帰国し、本拠地であるお城はたちまち最強の砦となりました。反抗は失敗に終わったのです。


 主な敵王たちの首ははねられ、前よりもいっそう強固な王国が蘇りました。こっそりと城を抜け出していた重臣たちも慌てて舞い戻り、王様にあらん限りのおべっかを言いたてて許しを乞いました。王様は見せしめの為に何人かを血達磨の刑に処しましたが、重臣をすべて殺してしまっては、国の仕事が成り立ちません。大勝利をして気分が良くなっていた事もあり、ほとんどの臣下を許しました。


 王国では連日、飲めや歌えの大騒ぎ。皆が王国の繁栄を疑いませんでした。しかし姫様は顔色が優れません。舞踏会もそこそこに、一人お部屋に引き返してしまいました。


「姫様、どうなされたのです。こんなめでたい日にお部屋に籠もられてしまうとは」


 侍女たちが心配そうに尋ねます。


「お前たちもわかっているでしょう。あの男が、あの黒いカラス男が私を求めてやってくるのです。あぁ、考えただけでも恐ろしい。考えただけでも身の毛がよだつ」


 姫様はベッドに突っ伏して、泣き崩れました。


「大丈夫ですよ、きっと大丈夫です。王様が守ってくださいます」


 侍女たちが慰めます。しかし侍女たちにしたって、本当に自信があってそう言っている訳ではありませんでした。


 その心配は王様も同じでした。危急の事とはいえ、バカな約束をしてしまったものだ。あの汚らわしいカラス男に姫との一夜を許してしまったのだから。王様は何とか約束を反故にする方法を考えていました。しかし名案は浮かびません。唯一の希望は、あの日以来、魔法使いは姿を見せず、また何の連絡もなかったことでした。


(もしかしたら、あの戦いで森と一緒に燃えてしまったのかも)


 そんな都合の良い願いを持ちつつも、やはり心配の種は尽きませんでした。


 先勝の大宴会も十日目を過ぎた頃、城の外門に小さな子供がやってきました。


「なんだ、小僧。お前ごときが城へ入るなぞ、許される事ではないぞ」


 門番が凄みます。しかし子供はキラキラと輝く宝石が沢山ついた文箱を差しだしながら「僕はカラスのおじさんの使いだよ。これを王様に渡しておくれ」と言いました。


 門番は不思議に思いましたが、文箱が余りにも素晴らしかったので、それを親衛隊長に渡しました。隊長は先に広間で約束された話を聞いていましたので、早速、文箱を王様に届けました。


「ついに来たか」


 王様はひどく落ち着きをなくしました。そして親衛隊長に言いました。


「この文箱を持ってきた者をこれへ。何か情報が引き出せるかもしれん」


 王様の前に引き立てられた子供は、無邪気に笑います。


「王様、約束を忘れないでね。約束を忘れないでね」


「うむ、わかっておるわ。時に小僧。お前にこの文を持たした男の事だがな……」


 王様が尋ねている間も、子供は笑ってしゃべり続けます。


「王様、約束を忘れないでね。約束を忘れないでね」


「わかっていると、いっておろうが!貴様、わしを愚弄する気か」


 元々約束の事を後悔し、いらついていた王様は、つい激高し、親衛隊長が腰につけている剣を抜き出しました。


「王様、おやめください。まだ子供です」


 親衛隊長が止めるのも聞かず、王様は子供の首をはねました。


 しかし子供の首と胴からは血は一滴も流れ出ず、ごろりと落ちた首は満面の笑みを浮かべながらしゃべり続けます。


「王様、約束を忘れないでね。約束を忘れないでね」


 あまりの事に、その場にいた皆が凍りついた瞬間、子供の首と胴体は黒い炎にくるまれ、あっという間に燃え消えました。


「あぁ、何と言うこと。これもあの男の魔力だというのか」


 王様は後ずさり、持っていた剣が手からずるりと落ちました。


「王様、お気を確かに。まず文箱の中身を確かめましょう。そうでなくては話が進みません」


 親衛隊長が崩れ落ちた王様を支えます。


「うむ、そうだな。あの男、何を言ってきたのやら」


 王様は文箱を開け、中から羊の皮で作られた手紙を取り出しました。その中身はおおよそ次のようなものでした。


”王様、お伺いできなくて申し訳ありません。実は王様もご覧になったと思いますが、先日、敵兵どもを殲滅した際に、私は魔力を使い果たしてしまいました。魔力が戻るまであと三十日程かかります。三十日後には、きっとお城へ赴きますのでお約束の件、どうか決してお忘れなきようお願い申しあげます”


「三十日……、三十日後にヤツはここへやって来る」


 王様は希望の灯をみた気がしました。傲慢で戦争好きな王様でしたが、策略には秀でたところがありました。だからこそ今の地位に収まる事が出来ているのでした。


 王様の表情が明るくなるのを見て、親衛隊長が尋ねます。


「王様、何か明暗を思いついたのですね。姫様を守るための」


「うむ、名案というわけではないがの。あの魔法使いに勝つ自信はでてきたわい。しかもそのヒントをあの魔法使い自身がこの手紙に書いてきたのだから愉快愉快」


 王様は元の不遜な表情に戻っていました。


「王様、ぜひ私めにも秘策を教えてくださいませんでしょうか」


 姫様を誰より大切に思っていた親衛隊長は、王様の返答を待ちました。


「うむ、当日はそなたに指揮を執ってもらう事になるからの。話してもいいだろう」


 王様は親衛隊長を別室に招き入れ、話し始めました。


「重要なのはあの魔法使いが、先の戦闘で魔力を使い果たしたという事じゃ。あの戦いにおいて敵兵は約500人いたと報告があった。つまりあやつの魔法は500人を殺した時点で尽きてしまうという事じゃ」


 王様は嬉々としながら話し続けます。


「だから500人を遙かに越える兵士を用意すれば、あのカラス男に勝てるというわけじゃ」


 親衛隊長の顔が少し曇ります。


「しかし王様。今の案では500人の兵士が犠牲になってしまいます。私は同国の士が500人も死んでしまうのは大変悲しい思いがあります」


 隊長の言う事はもっともでした。いくら姫様を守る目的があるとはいえ、王国のために日夜働いてきた同士を500人も犠牲にするなどとは、とても喜ぶわけにはいきません。


「親衛隊長よ、忘れてはおらんかな。今回、我らは圧倒的な勝利を得たという事を」


 王様の冷酷な目が光ります。親衛隊長はハッと思いつきました。


「そうか、敵の捕虜を使うのですね」


「うむ、さすが親衛隊長。頭の周りがなかなかはやい。その通りじゃ、捕まえた捕虜にこう言うのじゃ。魔法使いを殺した者は奴隷の身分を返上させ、我が国の正式な軍人として迎え入れるとな」


 王様は薄笑いを浮かべて、自分の頭の良さに感謝しました。確かに今回の大勝利のおかげで、捕虜の数は何千人といます。それらの者たちを捨てゴマとし、魔法使いの力を無駄遣いさせれば、そのあと何の苦もなく彼を殺すことが出来るのです。


「さて、親衛隊長よ。これからの三十日間が勝負じゃぞ。期日までに捕虜の中から選りすぐりのものを1000人ほど選ぶのじゃ。何、念には念を入れて多めに用意しておいた方がよい」


 今度は親衛隊長も乗り気で王様の作戦に聞き入ります。


「そしての。確実にしとめるために特別な寝所を建てるのじゃ。その寝所には姫の偽物を用意して、魔法使いが入った瞬間、隠し坑道から500人が一斉に寝所になだれ込む。そしてヤツが魔法を使いきった時点で、もう500人が血祭りに上げるのじゃ」


 盛大な祝勝会が続く中、二人のたくらみは、夜遅くまで続きました。



《つづく》

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