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王様の約束

R15と残酷描写ありにチェックを入れましたが、一応念のためなので余り期待しないで下さい。

 むかしむかしあるところに、大きな王国がありました。その国の王様はとても戦争が好きで、いつもどこかの国へ兵隊を送り込んでいました。しかしそんな王国への反発が強まり、周りの国々は協力して反撃を慣行しました。


 しかし王様は動じません。


「なんの、生意気な。皆、木っ端みじんに打ち砕いてくれる」


 王様は城の兵隊と兵器を戦場へ向かわせました。でもそれは反抗した国々の作戦だったのです。戦場に向かったはずの兵隊たちは、出発間もない途中の渓谷で待ち伏せにあいました。彼らは次々と敵兵の弓矢に倒れ、兵器は跡形もなく壊されました。


 反抗軍はその勢いをかって、戦争好きの王様の城へと迫ります。驚いたのは王様です。今まで攻める事しか行わなかったので、守る戦いには不慣れだったのです。反抗群はお城から森を一つ超えた平原まで到達していました。


「うーん。こまった。このままでは城は落ち、ワシは死刑になってしまう。何とかならないか」


 頭を抱える王様に、だれも助言をする事はありませんでした。なぜなら忠実なはずの重臣たちは、皆、敵の進軍を知るやトットと城を抜け出していたからです。


「あの不埒者めらが。王たるワシを見捨てて逃げくさったわ」


 王様の怒りは頂点に達しました。でもだからといって事態が良くなるわけではありません。王様はほとほと頭を抱えました。


 そんな時、お城の一番高い窓から、一羽のカラスが舞い降りました。王様はカラスまでワシをバカにするのかと、その鳥めがけて持っていた錫杖を投げつけました。


 するとどうでしょう。真っ黒なカラスは不思議な光る煙に覆われて、そのモヤが消えた後には、背の高い中年男が現れました。


「ややっ、おまえは誰じゃ。なぜここにいる」


 目を丸くした王様が尋ねます。


「お初にお目にかかります。私はこの地に昔から棲む魔法使いでございます。なにやら王様がお困りの様子。何かお手伝いできればと思い参上いたしました」


 黒いローブに身を包んだ男は、うやうやしく頭を下げました。


「魔法使いとな。そういえば噂に聞いた事がある。しかしそちに何が出来るというのだ。攻め込んでくる軍勢をケチらすことが出来るとでも? 彼奴らの前でカラスに化ける見せ物でもしようというのか」


 突然の事に驚きながらも、持ち前の傲慢さによって虚勢を張る王様。しかし心の中ではかすかな期待が芽生えていました。


 そんな王様の心を見透かしたように「もちろんですとも」と自信タップリに顎ヒゲをなぜながら答える魔法使い。


王様は一計を案じました。


(もしこの者の言っている事が、真実ならばよし。愚かなウヌボレ者でも、ワシが逃げるための時間稼ぎくらいにはなるじゃろ)


「では、黒の魔法使いよ。見事軍勢をケチらして見せよ」


 王様は、いつもより大げさに威厳を持った口調で仰せになりました。


「かしこまりました。しかし時に王様。何かお忘れではありませんか。とても大切な何かを」


 魔法使いは意味深長な言い回しで、王様を見つめました。


「はて、何の事だ。その大切な何かとは」


 王様の問いかけを待っていたように魔法使いがいやらしく話し始めます。


「ご褒美ですよ。王様。もし、私が王様の危機を救ったのならば、褒美をいただきとうございます」


「なるほどな。そちはワシの臣下ではないからの。単に忠誠心で戦えというのは無理な相談かもしれん」


 王様はもっともらしく頷きましたが、はっきりいって褒美などどうでも良い事でした。どうせこの男は時間稼ぎの捨てゴマにすぎないのだから、いくらでも口から出任せを言えばいいさと考えていました。


「それで、そちは何を所望じゃ。金か、土地か、それとも貴族の位がほしいのか」


 その気のない王様の舌が、なめらかに動きます。


「では、姫様に春をいただきたい」


黒服の中年男の口から意外な言葉が飛び出しました。


「姫に春をとな?」


 一瞬呆気にとられた王様。


「はい、姫様と結婚したいなどというつもりは毛頭ありません。そもそも私は姫と一緒になって、将来はこの国の王になろうなどとは全く思っていませんから」


 魔法使いは続けます。


「しかし噂によれば、こちらの姫君はたいそう気品があり、またお美しいとのこと。私は男として二百年生きてまいりましたが、一国の姫君と夜をともにした事がございません。よって一度くらいは高貴な姫君に春をいただきたいと願っておりました」


 男の髭の先が、心なしかピンと立ってきたようでした。驚いたのは王様です。


(こんなドコの馬の骨ともわからないヤツと姫を同衾させるだと?冗談ではない。身の程知らずも、いい加減にしろ)


「そ、そちはワシのかわいい姫君を傷物にしようというのか。たった一晩の遊びのために。ええい、ゆるさん。ゆるさんぞ。そこへなおれ」


 傍らにある剣を降りあげて、王様は男に切りつけました。それを難なくよける髭の男。


「王様、是非、冷静になっていただきたい。もし敵の軍勢がこの城に押し寄せればどうなります。王様は死刑。王妃様とお姫様は死ぬまで敵兵に弄ばれるでしょうな。それに比べれば一夜くらいどうという事はありますまい」


 にこやかなまなざしの奥に、ぞっとするほどの色欲をにじませる魔法使い。男にかわされたため、よろけて片膝をつきながら、王様は考え始めました。


(確かにこの男のいうとおりかもしれん。それにコイツが敵兵と戦っている間に逃げてしまえばどうという事もあるまい。いくら小奴が魔法使いでも、あれだけの軍勢に勝てるとは思えんしな。万が一、敵兵どもを全滅させたとしても、遠国に出兵している我が大軍勢が戻れば、魔法使いの一匹や二匹……)


「わ、わかった。興奮して悪かったの。そちの申し出が余りに突然だったので気が動転したのじゃ。了解した。そちが見事敵軍をやぶった暁には、姫と一夜をともにする事を許そうぞ」


 そう言いながらも、王様は魔法使いが時間稼ぎをしている間に逃げる事ばかりを考えていました。


「願いを聞き入れていただきありがとうございます。では、さっそくに反抗軍どもをケチらしてご覧にいれましょう」


 魔法使いはローブの腰のあたりを両手で摘むと、見る見るうちに先ほどのカラスに変わっていきました。そして入ってきた窓とは反対側の窓から敵軍の進行している森に向かって、勢いよく羽ばたき出ていきました。


「よし、さっそく逃げる準備じゃ。后よ。姫よ。悔しいが一時撤退するぞ」


 王様が叫ぶとお后様と姫様、そして侍女たちとわずかな親衛隊が広間に集まりました。皆、さきほどの話を聞いており、王様の約束をひどく心配いたしました。


「よろしいのですか、王様。あんな約束をしてしまって」


 お后様が心細げに言いました。

 

「そうですとも。私はあんな気味悪い男と一夜をともにするなんて、絶対に嫌ですわ」


 姫様も半泣きで訴えます。


「心配するな、ふたりとも。なに、あんな約束は逃げる時間を稼ぐための方便じゃ。さぁ、支度はいいかの?こんな時のために用意しておいた隠れ家へむかうとするぞ」


 一行が城を出て、隠れ家へ向かおうとしたその時です。反対側の森の方から不気味な、そして大変大きな音が鳴り始めました。王様たちは驚いてすぐさま近くの丘に登り、森の様子を眺めやりました。


 するとどうでしょう。普段は真っ黒に見える森の木々が、にわかに赤く色づいていきます。いえ、色づくというのは正確ではありません。森中の葉っぱという葉っぱが、次々と真っ赤に燃え始めたのです。しかも燃えて落ちてしまうわけではなく、一枚一枚の葉がプチリプチリと枝から離れ、まるで羽虫のように舞い始めました。


 王様たちも驚きましたが、誰より驚いたのは森に分け入ってきた兵士たちでした。作戦が図に当たり、大勝利間違いなしとばかりに意気揚々と進軍してきたのですから。


「なんだ、なんだ!火事か?いや、違うぞ。あ、熱い!熱い!燃えた木の葉が体にぶつかってくる。助けて。助けて!」


 森の中は、真っ赤な地獄と化しました。燃えた木の葉が、まるで生きているように兵士に飛びかかっているのです。しかもそのつぶては鎧の隙間からも入り込み、さらにはその下の鎖カタビラの隙間さえ通ぬけ、哀れな戦士たちの骨肉をジュウジュウと焼き尽くしていきました。


「退却!退却ー!」


 将軍が叫びます。しかしその開いた口へと向かい、次々と赤い悪魔が飛び込みます。あるものは将軍の舌の上で踊り、あるものは気管を猛スピードで舐め回します。またあるものは心臓へと突入し、そこから体中の血管を駆け抜けていきました。


 そして退却しようにも森全体が赤い牢獄となり、兵士たちを一人も逃そうとはしません。馬や軽装の者は赤黒いステーキに成り果てました。鎧を着込んだ騎士たちは、その鉄の誇りの中で消し炭となりました。


 まるで深紅の生き物のようになった森の上空を、一羽のカラスがうれしそうに舞い飛びます。それを遠眼鏡でのぞきながら王様は思いました。


「これは大変なことになった……」



《つづく》


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