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短編

君は陽の下を往け

作者: 秋口峻砂

原稿用紙五枚、現代。

 力を持つ者は謙虚でなくてはならない。力とは、それを持つ者に利益だけではなく覚悟と犠牲を求める。だからこそ価値がある。

 世の成功者の多くは、その力の持つ強烈な誘惑に耐え、制御する術を持っている。それを持たない者には、利益以上の破滅を齎すことを知っているからだ。

 だが、成功者にも表と裏があり、表側の成功者に求められる秩序とモラルは、裏側では無駄で邪魔な要素でしかない。

 世界に昼と夜があるように、世の中には表と裏がある。これをどう考えるのかは自由だが、少なくとも表側にある秩序とモラルは、裏側では何の意味もない。勿論、裏側が無秩序だと言っているのではない。裏側には裏側なりの秩序があるのだ。

 だがその秩序は、表側のそれとは相容れないものであることがほとんどであり、表側の成功者は裏側において無力であることが多い。

 そして本当の意味合いでの力を持つ者とは、表と裏のどちらでも成功者であるという意味である。

 力の定義によって様々ではあるものの、それは間違いようのない事実だ。この世界を動かしているのは力であり、その力こそが世の中を生き抜く力であるはずだ。

 私が発する言葉を聞いている君は、つまらなそうに私を見詰めている。君の眼は明らかに私の論理に興味がないと告げている。

 私のように理屈っぽい人間に、どうして君のような友人がいるのかという点については、本当に興味深い事例ではある。君は基本的にどんな判断も感情論ですませ、論理的な判断などしたことがない、そんな人間だからだ。

 君は視線を夜空に向けた。瞬く星達は無限の宇宙に広がり、その輝きを誇っている。素晴らしい風景だ。こういう風景を見る度に、自分が矮小な人間であると実感してしまう。だから私はあまり星空が好きではない。

 私は視線を下に向けた。私の視線の先には、寝静まった住宅街が見える。私にはこういう、非自然的で非雄大な風景の方が落ち着く。勿論、自然は存在するというそれだけで素晴らしいのだが、文明というものは誰かが創り出さなくては生まれないのだ。

 力とて、その大きな流れの中のひとつでしかない。

 君は小さく溜息を吐き、私に一枚のコインを手渡した。私はなるほどと思わず納得し、笑ってしまった。君らしい、本当に君らしい考え方だ。これから互いにとって重大なことを決めようというのに、互いの力の有無優劣ではなく、このコインの裏表で決めようというのだから。

 私はそのコインを手に取り、一度コンイトスをして、そのコインをポケットに突っ込んだ。馬鹿らしい、こんな重大で大切なことは、決してコイントスなんて非論理的な方法で決めてはならない。

 だがポケットに突っ込んだ手を、君は強く掴む。どうやら考えを譲るつもりはないらしい。こうと決めたらてこでも動かない、頑固な君らしい。

 仕方なくコインを取り出し、その裏側を君に見せて頷く。君も小さく頷き、また星空を見上げた。

 裏なら私、表なら君だ。このコイントスによってどちらが闇の中で蠢くのかが決まる。

 コインを指で撥ねる。くるくると回りながらコインは弧を描き、私はそれを手の甲で受けもう片方の手で覆った。

 いいか、君は陽の下を歩くのだ。

 私のような人間でなければ、暗中模索を続ける闇の中は歩けはしない。君のように真っ直ぐな人間は、他人を騙すことができない。闇の中で必要なのは信用信頼正義正論慈悲思想ではなく、手をつないだ相手の胸を刺しの財産を奪う狡猾さと残忍さなのだ。君には決してできない。君のように感情論で動く人間には、決して。

 手のひらを開けると、当然コインは裏だった。これで互いの向かう道が決まった。君に視線を向けると、君は私をじっと見詰めそして小さく笑った。そして私の肩を軽く叩くと、私に背を向け、頭を掻きながらゆっくりと立ち去った。

 私は彼の背中を見送り、その姿が消えるのを確認してからコインをてのひらで転がした。両面が裏である、そのコインを。そしてポケットから表と裏があるもう一枚のコインを取り出すと、それを投げ捨てた。

 私は星空を見上げる。そしてその雄大な風景を脳裏に焼き付けた。きっとこれから先、私はこんな風景を見ることができなくなる。裏側にはそんなものはないのだから。

 私が、表を歩き成功者へと上り詰めていく彼を支える。それでいい。表と裏、例え道は違えども、目指すものは同じなのだから。

 私も歩き出す、彼に背を向けながら正反対の道を。

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