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エンジンに残っている燃料は、なぜか相当少なくなっているのがわかった。
しかし、通常エンジンはほぼ満タンだった。
コルイットへそのことを報告すると、すぐに報告してきたガルバイに問い返した。
「どういうことなんだ、液化酸素と液化水素だけが満タンだなんて」
「おそらくは、太陽嵐に巻き込まれている際に、電磁場が歪められ、反粒子の反応が臨界を起こし、意図せぬ跳躍が発生してしまったものと考えられます。残存燃料によれば、数光年分の跳躍が可能です」
コルイットが、ガルバイを前にして、わずかに悩んだ。
「数光年以内に有望な恒星はあるのか」
「2光年ほど離れたところに、連星があります。現在、精密位置を特定中です」
「特定しだい、すぐに向かえ。燃料を補給しだい、速やかに地球へ向けて航行を開始する」
「了解しました」
ガルバイが敬礼をしてから、コルイットがいる艦長室から出ていく。
一人になったコルイットは、立ち上がり、壁にかかっている写真へつぶやく。
「…一人にしてしまったな、すまない」