(5)
嵐が通り過ぎ、ようやく位置の確認を始めることができた。
「基準星を突き止めてから、光波測距儀を用いて位置の確認を行え」
コルイットは、部下に指示を出した。
今の時点では、砲術が一番暇だろうという理由から、その探査の役として、矢井が充てられた。
また、数名の部下を使うことが許された。
「基準星はどこ?」
「わかりません。星図を用いて確認をしていますが、どうも、星図にはないところに星があり、星図にはあるところには星がないのです」
矢井が部下に聞くと、そのような返事が返ってきた。
「どういうこと、それじゃまるで、私たちが星図の適用範囲外に飛ばされたみたいじゃない」
それが本当ならば、この船は太陽系外のどこかにいるということになり、初めての外宇宙探査となるのだが、今はそのようなことを考える余裕はない。
「…でも、それが本当のようです。星図が使い物になりません。これは、歴然とした事実です」
砲術担当の中佐であるガルバイ・エンタードンが矢井に答える。
「では、いまは何処にいるんだ。地球からどれだけ離れているんだ」
「…残念ながら分かりません。基準星が不明となると、地球からの距離を割り出すことも出来ません。三角測量をしようにも既設基準点の場所が不明になっているので、割り出すことも出来ません。現在は、基準星を探すことに全精力を注いでいます」
「引き続き頼む。今解っているのは、数十光年単位で違うということではないようね」
矢井が、ガルバイに指示をしてから、コルイットに報告をするため、部屋を出て行った。
艦長室では、それぞれの部隊長が矢井に質問をぶつけていた。
「…なら、ここはどこなんだ」
「現時点では分かりません。ここがどこかも、なぜここにきてしまったのかも、私たちがどうなるのかも」
矢井が正直に答える。
「…それが、君が下した結論かね。矢井中佐」
「はい、その通りです」
コルイットは、矢井に聞くと、すぐに矢井は答える。
「では、君はいったん下がりたまえ。基準星を発見したら、速やかに知らせるように」
「了解しました。失礼します」
敬礼してから、矢井は艦長室から、再び基準星を探すために、光波測距儀室へ戻った。
艦長室では引き続き、会議が行われていた。
「現在地が把握できない以上、動かないことが得策と思われます」
「うむ、それは同じ考えだ」
コルイットが参謀長の提案にそう返す。
「では、決を採る。現在の位置で停止し、位置が確定してから行動を行う者」
全員が手を挙げる。
「ならば、これで決定だな。本船は、現時点より動くことはしない。光波測距儀により位置が確定されてから、再び行動を行う。では、全員に通達を」
「わかりました」
参謀長が、すぐに立ち上がって艦長室から出ていく。
ほかの面々も、ぞろぞろと出ていくと、残ったのは、コルイットただ一人だった。