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出発してから1週間が経過すると、月の軌道よりも外に出て、いよいよ冥王星に向けての軌道をとることになった。
ここから先は、人工物の存在が限りなく0に近いため、スピードを上げて行くことが可能となる。同時に、これまで付きで航路が制限されていたが、そのこともなくなるため、軌道を確定することが可能になる。
伝令が、コルイットに定時報告をする。
「地球より連絡がありました。巨大な太陽嵐が発生しているため、気をつけろとのことです」
「太陽嵐…ああ、磁気嵐か」
太陽嵐というのは、非常に大規模な太陽フレアが発生したときに生じる太陽風によって、衛星などの電子機器が一時的に使用不能に陥る現象のことをさす。
磁気によって電子機器の大半は一時的な使用不能状態になるということから、磁気嵐という者もいる。
「現時点では被害の情報は入ってきておりません。太陽嵐の末端部の地球到達は約5時間後、本船到達は約6時間後と推定されています」
「シールドを張っておこう。太陽嵐が通り過ぎるまでの間、一切の船外活動を禁止する。現在行われているものは、終了次第即撤収だ。太陽嵐が過ぎ去ってから、緊急のを含めて船外活動を行う」
「わかりました。では電磁シールドを全方向に展開し、太陽嵐が過ぎ去るまでの間、緊急のを含めて船外活動の一切を禁止します」
伝令が復唱し敬礼をしてから、走って壁際にあるマイクをとり、船内のすべての部署に対して通達を行った。
「船外活動禁止?」
「らしいよ。大規模な太陽嵐があったそうだから、そのせいね」
矢井が佐々井に、さっきの船内放送の内容を簡単に話した。
「…だって」
「ああ、そういや言ってたね。それかぁ」
「それかぁ、じゃないよ。参謀科は外には出ないかもしれないけど、砲術科は、掃除とかで外に出ることもあるんだから。まあ、被害がなければ、出ることもないんだけどね」
「出ないことを祈っとくね。緊急も含めてダメなんだから、かなり大規模なものなんでしょうけど」
「観測史上2番目とか1番目とか、そんな感じの太陽嵐らしいわ。この船には電磁シールドがあるから、きっと、オーロラが見れるわね」
「きれいだろねぇ…」
オーロラが船体を取り囲んでいるのを想像して、佐々井はほわーとした表情を浮かべている。
矢井はそれを、眺めていた。