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15分後、すぐに地球へ向けて出発した。
「これより、3日後に地球へ到着する予定だ。2日間休息寄港し、冥王星の監視所へ飛行を開始する」
動きながら、艦長が船内の全ての部署に向けて放送をかけていた。
「発進してから3時間後、第1種勤務体制とする」
第1種勤務体制は、何もない状況における勤務をせよという命令である。
現在は出発時勤務体制と言って、出発に必要な部署に人を集中させることになっている。
きっかり出発から3時間後、艦長が全船に向けて放送をかけた。
「これより下命するまでの間、第1種勤務体制とする。第1シフトのもの以外は、全員を休憩扱いとする。以上だ」
矢井は第1シフトの間は、部門長として働くため、そのまま待機扱いとなった。
「第2シフト、第3シフトの人たちはご苦労様。8時間後、16時間後に来て」
「了解です」
第2シフトや第3シフトの人たちがいなくなると、急に砲術部門の部屋が静かになった気がする。
「3分の1になったものね」
航海日誌をめくりながら、何もすることがない8時間を過ごしていた。
「矢井中佐はいる?」
部の入口あたりで、佐々井の声が聞こえてきた。
矢井はすぐに佐々井のところへ向かう。
「佐々井大佐、どうしたんですか」
「第2シフトだから、何もすることなくて来ちゃった。第2種とも第3種とも発令されていないから、好きに移動できるし」
「そういえばこんな記述見つけたんですけど、聞いてもらえますか」
矢井は、部長の机の上においてある航海日誌を見せる。
製本されて1冊となっているそれは、前々回の航海時に書かれたものだと、表紙の日付からすぐに分かった。
「艦長 矢井貴師海軍大将が記す。この方、矢井中佐のおじいさんじゃないの」
「問題は、宇宙軍所管の宇宙船の中に、なんで祖父の航海日誌があったかと言うことなんです。私の祖父は、現海軍省大臣で、入隊してから海軍一本でしたから。宇宙軍のところにあるとは到底思えないんです」
「じゃあ、誰かがここで読んでいて、忘れたのかしらね」
佐々井がそう言うと同時に、部長室へ艦長が入ってきた。
「やっぱりここにあったか」
「艦長、どうしてここに」
艦長が入ると同時に敬礼をした二人は、答礼を上kるまで気をつけの姿勢を保ち続けた。
「休んでくれ。昔、矢井中佐の祖父にお世話になったことがある。ずいぶん昔の話だがな。その時、君は将来、人を従え指示をする立場になるだろう、その時にはこの本を読んで研究しなさいと言われたのだ。それ以来、人を使う時には、常にこの本の最初のページの文章を念頭にしている。開けたまえ」
矢井が艦長に言われて、最初のページを開ける。
「…そうですか。祖父もよく言っている言葉です」
「今でも言っておられたのか」
そう言っている艦長の顔は、ほほがゆるんでいた。