(24)
矢井の耳には、佐々井からの言葉が聞こえていた。
「おめでとう、合格よ」
「…え?」
目をゆっくりと開けると、目の前にいた部下たちが、宇宙服を着たまま拍手をしていた。
さらに、艦長からも音声が入ってくる。
「これで、全員合格だな。今回は、9回目までで終わったか。ま、いつも通りだな」
そう言って、艦長が指示をした。
「矢井中佐、撤収せよ。そして、着替えたら、艦長室へ」
「はい、了解です」
矢井がそう答えると、部下がその場でC-4を片づけ始めた。
「…どういうことですか」
佐々井に矢井が聞く。
「後で分かるわよ。ちゃんとね」
佐々井は、この時にはあまり語ろうとしなかった。
宇宙服を一人で脱ぎ、近くにある洗濯機にいれておく。
乾燥までは自動で行ってくれるため、3時間ほどは放置することになる。
それから先は、再び戻って、ハンガーに掛けたりして、整備をすることとなっている。
だから、それまでは矢井は艦長室へ行き、話を聞く事となる。
「失礼いたします。矢井中佐、ただいま参りました」
ノックを2回して、中にいる艦長へ言う。
「入れ」
ドアを開け、中へ入る。
「失礼いたします」
一礼をしてから、ドアを閉めて、艦長が座っている机のすぐ前におかれている椅子のところへ行く。
「座れ」
艦長が言うと、矢井はその椅子に座る。
「君のおじいさんが、出発する前によろしくと言っていた。孫娘をよろしくと」
艦長が机の下にある引き出しから、茶色のファイルを取り出した。
「さて矢井中佐。今回の航行の目的を述べたまえ」
「はい、将官となるため、それぞれの兵科に応じた力量を試す訓練航海と聞いています」
「その通りだ。そして、今回のテロや攻撃は、その力量を調べるためのフェイクだ。簡単に言ってしまえば、全ては芝居だ」
「…つまり敵もいなければ、あの爆弾も偽物と言うことですか」
「そういうことだ」
艦長は、矢井にあっさりと言った。
「将官になるためには、友人より1通、所属部隊長より1通、さらに訓練航海の艦長より1通の計3通が必要となる。推薦状を発行する者は、発行される者と同等または上級の階級である必要がある。その上で、君の友人の佐々井大佐より、推薦状が提出されている」
「佐々井大佐から…」
「そして、私からも、君の昇格についての推薦状を出すつもりだ。すでに矢井中佐所属の師団長より推薦状はいただいている。この航海は、私が推薦状を出し、将官となるにふさわしいかを見定めるためのものだ。君は、それに合格した。おめでとう」
艦長が立ち上がると、矢井はばね仕掛けのように立ち上がった。
「はい、ありがとうございます。将の位に恥じない行為をいたします」
「それでいい。では、戻りたまえ。これから地球へ帰還してから、正式な航海へと出る」
「了解しました」
椅子のところで敬礼をし、そのまま扉のところへと戻り、再び敬礼をした。
「失礼いたします」
浅く礼をしてから、艦長室から出た。