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宇宙船「崑崙」は、教育師団専用の実習船の一つであり、将官部練習航海専用の船としても広く知られている。
その見た目は、銀の涙のようであり、全面が様々な金属を混ぜ合わされてできた、長距離航宙向きの船体となっている。
エンジンは最後部についており、万が一のためとして光子帆が常時展開可能な状態で格納されている。
ただし、エンジンは運行時も外からはっきりと見えないように格納されている。
第2宇宙ステーションに繋留されている崑崙には、続々と乗員が乗り込んでいた。
教育師団将官部に配属されるのは、誰もが中佐や大佐といった面々であり、ごくごくまれに少佐が入る程度だった。
「コルイット艦長、総員乗艦完了しました」
副艦長が艦長であるコルイット・サイルーク中将に報告をした。
コルイットが報告を受けると、座っていた艦長席の右の肘置きに収納されているマイクを取って、船の全てのところに対して放送を行った。
「総員、出航準備を取れ。30分後に出航する」
コルイットはこの船の総指揮官として初めての命令を出した。
そのころ、船員は荷物を自室に置いているところだった。
「また一緒ですね」
そう笑いかけながら言っているのは、砲術中佐である矢井加和だった。
「ここまでくると、何かしらの運命すら感じさせてくれるわね……」
同じ部屋になったのは、新兵訓練所から同じ部隊に所属し続けている佐々井カミラ参謀大佐だ。
「きっとそんな運命だったんですよ」
荷解きをしながら、そんな話していた。
「艦長、全員配置につきました」
きっかり30分後、副艦長がコルイットに再び報告をした。
「分かった。では、航海士、出発を」
「了解です。管制室、こちら崑崙。出発します」
航海士がマイクを使ってアナウンスする。
わずかに遅れて、管制室から返事が返ってきた。
「了解、崑崙。無事に帰ってくることを、祈ってるよ。コースは、4•7•8の441-8767だ」
すぐに返事を返す。
「了解しました。4•7•8の441-8767を通り、出発します」
船はゆっくりとその巨体をドックから動かし、大海原へと出発をした。