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調査部によれば、ホログラムの起動装置だそうだ。
ただ、中のデータは消えると同時に消去されたそうで、一切残っていなかったという。
「どういうことなのかしらね」
部屋に戻って、再び発射するのを待っていると、矢井が佐々井に話していた。
「ホログラムのあれのこと?」
「なんで、船内にホログラムを使って敵がいることを演出しなきゃならなかったのか。それが最大の謎」
「敵がいた方がいいと思う人たちがいるっていうことよね」
佐々井が、紅茶を入れながら言った。
「どんな人たちが、そんなこと考えてるんだろう…」
「そりゃ、艦長とよくない関係な人とか、軍上層部の中で、よくないと考えている人がいても不思議じゃないわね。10万光年離れたところにいるということだから、殺すにはうってつけ。そもそも、危険が伴う航海だということは、誰もが知っていることだから、消えたとしても不思議じゃないわね」
「じゃあ、私達もまとめて…」
「敵が本当に消したいのであれば、絶好の機会だもの。問題は、誰がしたかということと、どうやって10万光年も離したかということ」
佐々井が、一口、ミルクを少し入れた紅茶をすする。
「誰がしたかということは、とりあえずは置いておいてもいいわね。10万光年話して、なおかつ、私達を殺そうと…」
「“艦長”を、ね。私達の誰かよりも、敵も多いでしょうし。私達の誰かということも考えられるけどね」
「結局、誰が狙われていても、宇宙空間に出てしまえば、やるのは簡単なのよ。事故ということで片付けられるし」
「いや、絶対に生き延びて帰ってみせる。私達は、絶対に死なない。地球にいる妹のためにも」
「じゃあ、まずは、無事に帰れることを考えましょう。そこからね」
佐々井の言葉、矢井はうなづいた。