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1時間ほどすると、必要エネルギーの回収が完了した。
「こちら矢井です。これより撤収します」
「こちら、佐々井。撤退を許可する」
するするとコードが中継器へとおさまっていく。
かんぜんに格納が完了すると、10mの立方体である中継機自体も、母船へと帰還した。
スクリーニングを受けてから作業着を脱ぎ、軽装の軍服に着替えてから、矢井は佐々井のもとへと寄った。
「これで、燃料は完ぺきですね。あとは飛ぶだけですよね」
「予定では、30分間の試験の後、始動させることになるそうよ。ということで、30分間は、私たちの仕事は無し」
「これからどうします?」
「部屋にこもって、まだ読んでない学科テキスト読んどく予定ね」
「私もお供します」
そう言って、二人並んで部屋へと戻った。
部屋に入り、佐々井がベッドに腰をおろしながら、矢井の話を聞いていた。
「そう言えば、宇宙人っているんでしょうか」
「どうしたのよ、藪から棒に」
「宇宙で作業している間、考えたんです。私たち以外に、この宇宙に生命ってあるのかなって」
「なるほどね。それで、矢井の答えは?」
「いても不思議じゃないかなって思うんですね。まだ人類が会ったことがないのは、こんなに広い宇宙だから、会えるほど近接してないって」
「近くにいないから会えないだけで、本当はいるっていうこと?」
「はい、私はそう考えてます」
本を広げながら、佐々井が矢井に教える。
「ねえ、そう言う時のための公式って知ってる?」
「公式ってあるんですか」
「ええ。フェルミ推定を用いた計算で、ドレイクの公式と言われているものね。フェルミ推定と言うのは、推測された値を使って推定値を求めるということよ。このドレイクの公式で必要なのは、銀河系で恒星が生まれる速度(1年当たりの個数)、惑星を一つ以上持つことができる恒星の割合、惑星が生命を持つことができる状況になる平均個数、さらに生命が持てる状況で実際に生命が生まれる惑星個数、その生命が知的生命体となる確率、さらにその知的生命体が宇宙へと出ることができる確率、最後にその知的生命体が宇宙へ飛びまわれる文明の推定期間。これらを全部かけると、この銀河で生まれる宇宙を飛行することができる文明の数が推定できるのよ」
「そんなやりかたがあるんですね」
「暇になったら、それぞれに数値を入れてみて、計算してみたら」
「またやってみますね」
矢井は、笑顔で佐々井に言った。