第6話
投稿者:土方のわし 2024年5月30日、夜
やったぜ。今日は浮浪者のおっさんが、珍しく飲みに誘ってきよった。
深夜明け、泥のように眠って目が覚めた夕暮れ時。アパートのボロいドアを出口を求めるように蹴る音がして、開けたらおっさんが白濁したような瞳でニヤニヤしながら立っとった。
「わしさん、今日はわしが奢りますわ。至急、盛り合いましょうや」
奢り言うても、行き先は近所の公園じゃ。
夜の帳が下りたというより、単に街灯が切れて一ミリの隙もなく暗いだけの公園。ブランコが風で不気味にキィキィ鳴り、砂埃という名の卑しい匂いが鼻を突きよる。ベンチは鳥のフンという名の不純物まみれで、座る前からでーれーおえんわ。
「ほら、わしさん。今日はこれですよ。生の報酬じゃ」
おっさんが懐から取り出したのは、どこのコンビニでせしめたんか分からんワンカップ。それに、湿気て反り返った「イカの姿フライ」が一枚。これが、この男の全財産という名の「資本」じゃ。
二人でワンカップの蓋を開けた。
「……乾杯や。一気に突うずるっ込むぞ」
カチンと瓶を合わせた瞬間、ツンとする安酒の匂いが鼻を刺す。一口煽れば、消毒液という名の劇物が喉を焼き、空っぽの胃袋にダイレクトに圧入されよった。
あぁ~~たまらねぇぜ。
「わしさん、深夜の仕事、お疲れさん。太郎も元気か。汚れ好きか」
おっさんが、フライを犬みたいにバリバリと音を立てて、舐めるように食いよる。
「ああ、太郎はアパートで留守番じゃ。あいつの肉代のために、わしは明日も泥という名の深淵を掘らんとおえんのじゃ」
「ええ人生ですわ。わしも混ぜてえな」
おっさんが、ワンカップをもう一口喉の奥底まで流し込み、濁った目で岡山の夜空を見上げて笑いよった。
そこへ、コンビニの袋をガサつかせた兄ちゃんが「仲間外れは勘弁してくださいよ! ドバーっと来ましたよ!」と全力疾走で突っ込んできよった。
「呼んでねぇわ、作業服のまま帰れ」
「そう言わずに! 黄金色の出汁が滴るおでん、買ってきましたから!」
兄ちゃんがベンチの真ん中におでんのパックを広げると、熱い湯気という名の霧が立ち上がる。おっさんの目が卑しく、一ミリの隙もなく光った。
それからはもう、めちゃくちゃや。
おっさんが「奢り」のくせに兄ちゃんの大根を一気に吸い込み、ワンカップが足りんと言うて、結局わしの財布から金をドバーっと奪ってローソンに走りよった。
奢りじゃなかったんか、ほんまにおえんわ。
食い終わった後は、三人でベンチに仰向けになって、岡山の星空を眺めた。
「おっさん、ご馳走さん。……次は本当に、わしを天国へ連れて行く勢いで奢れよ」
わしが言うと、おっさんは空瓶をゴミ箱へ適当に放り投げて、一言だけ言いよった。
「……また、気が向いたら。至急、メールしますわ」
公園のブランコが、相変わらず出口のない鳴き声を上げとる。
――ウコンの力をしこたま持って来てくれる奴、おらんかのう。
腰も肝臓も、もうめちゃくちゃでおえん。
土方姿を脱ぎ捨てる元気もなく、わしは明日も太郎のために、アスファルトの戦場へ這い出すんじゃ。




