第3話
投稿者:土方のわし 5月12日、夜
兄ちゃんのアパートからの帰り、わしは運命の相棒・太郎を拾った。
唐揚げの油とニンニクの匂いを全身に纏い、おっさんと千鳥足で岡山の路地裏を歩いとった時のことや。ゴミ捨て場の陰から、情けない声が聞こえてきよった。
泥まみれの段ボールの中に、一匹のビーグルが震えとったんじゃ。
添えられたメモには『食費が払えなくなりました。誰か食わせてやってください』。
――あぁー、もうめちゃくちゃや。
わしは迷わず、その泥の塊をガシッと抱き上げた。
「よし、お前は今日から『太郎』じゃ。わしの飯を食え」
「わしさん、本気ですか。犬の食い扶持、土方仕事じゃ大変ですよ」
「うるさい。こいつはわしがコックのプライドにかけて、世界一肥え太らせてやるんじゃ」
おっさんがしばらく考え込みよった。
「……太郎、トップバリュのイカ風味と柿の種、どっちを肴にしたいか聞いてみましょうや」
「犬に聞くな。あと酒を飲ますな」
アパートへ連れ帰り、まずはシャンプーじゃ。浴室でシャワーを浴びせると、泥水が流れて、中から見事な三色の毛並みが現れよった。
おっさんが「わし、背中を流してやりますよ」と言いながら全裸で浴室に入ってきよった。太郎じゃなくてわしの話か、こいつは。
「出て行け」
「わしさん、水しぶきが凄いですよ!」
「だから出て行けと言うとるんじゃ!」
綺麗になった太郎が身震いするたびに、浴室に水しぶきが爆発する。――あぁーたまらねぇ。
腹を空かせとる太郎のために、わしは速攻でキッチンに立った。冷蔵庫にあったささみを茹で、一寸の狂いもなくほぐして皿に出した。
太郎の奴、匂いを嗅いだ瞬間に「ガツガツ」と重戦車のような勢いで食い始めよった。完食して、わしの顔をじっと見つめ、尻尾を千切れんばかりに振りよる。
鼻の奥が少し、熱くなりやがった。
「ええか太郎、わしがコンクリートまみれになって、お前の肉代くらい稼いできてやるからな」
「わしも、たまにトップバリュのつまみを……」とおっさんが口を挟む。
「お前は黙っとれと言っとる。それは自分が食え」
それからはもう、めちゃくちゃや。太郎の毛を乾かし、おっさんと残りの安酒を酌み交わし、追加のささみを太郎に捧げた。
帰る場所に誰かが待っとるのは、悪くない。
食い終わった後は、わしの膝の上で太郎がぐっすりと眠りよった。重い。温かい。
おっさんが「世界一幸せな犬、もう達成してますやん」と、最後の一杯を煽りながら笑いよった。
うるさい。でも、そうかもしれんのう。
岡山の夜、太郎の温もりを抱きしめながら、わしは明日への気合を入れ直した。
明日もまた、砂と火薬の現場が待っとる。
だが今は、この膝の上の重みこそが、わしが働く理由じゃった。




