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雪華の川 ~雪を降らす少女と、砂漠の終わり~

作者: 紡雪
掲載日:2026/02/08

私の名前は、蛍雪(けいせつ) 雪華(ゆきか)、12歳。この街の嫌われ者だ。両親はいない。雪の降るある日、街の門の前に居たのを見て、街の人たちが面倒を見てくれたらしい。

けれど──────


「雪を降らすことができる能力を持った少女なんて気味が悪い!!!」


そう叫ぶのは、この街の長。


「いつ災いを引き起こすか分かりません。そんな奴をこの街に置いておけませんよ」


隣にいるものはその言葉に共感する。


「ならばやはり......”追放”する。」


その日私は、この街から追放された。

理由は私の”自由に雪を降らすことができる”という謎の力に不気味さを覚えたから。


私は、いつ、どんな時でも雪を降らすことができる。

この力は、いくら心が開いても街の人たちには隠すべきだった。心底そう思う。


私は乗っていたラクダから投げ捨てられる。


「二度と来るなよ!!」


そう怒鳴られ、私が追放されたのは、砂漠の街だった。


不気味な少女は、別の街に押し付けようという魂胆なのか、それとも流石に、少女一人を何も無い土地に追い出すのは気が引けたのか。


日差しが強く、とにかく暑い。

雪華は思わず、手で日差しを遮ろうとした。


「こんな場所でお嬢さん一人で、どうしたんだい?」


次は上手くやろう。この力のことを黙っていれば、大丈夫。


そう自分に言い聞かせて、目の前で声をかけてくれた女性にはこう答える。


「私、雪華です。ちょうどあの街に向かおうとしていて、」


私は街を指さす。


「追い出されて他に行くあてが無いから...」


下を向く雪華を見て、女性は膝を着いて、視線を同じ高さにしてこういう。


「そっか...辛かっただろうね。」


その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がきゅっと縮んだ。同情の声なんて、もう聞き慣れているはずなのに。


「……大丈夫です」


私は反射的にそう答えていた。


女性は少し困ったように笑ってから、立ち上がった。

「私はリーネ、この街で住んでいるの。良かったら、私に着いてこない?」


拒否する理由はなかった。

雪華は黙って、女性――リーネの後ろを歩き出す。


砂漠の街は、雪華の知っている街と何もかもが違った。白い雪の代わりに、黄金色の砂。


冷たい空気の代わりに、肌を焼く熱。

なのに、不思議と息はしやすかった。


「珍しい髪の色ね」


歩きながら、リーネが何気なく言う。

雪のように淡い銀色の髪は、この街では特に目立つ。


「……よく、そう言われます」


能力のことを聞かれないように、言葉を選ぶ。


雪を降らせる力の話は、”絶対”にしない。


街の門を潜ると、住民たちの元気はなかった。


「.....何かあったの?」


「ここは砂漠の街だからね、雨が降らなくて水不足が深刻なんだ。」


「とりあえず、私の家に行こう。」


雪華は、リーネの後ろをトコトコとついて行く。その道中、街のわき道ではしわしわの男性が地面に座っていた。

その男性は”何か”を求めるように手を前に出す。

やがて力尽きて、手を下ろした。


前に居た街とは全然違う...


その様子を見て、雪華は微かに恐怖を覚える。その他にも、周りを見れば、ベッドに横たわる子供たち。


「水が...飲みたいよ」


泣きながら、空っぽの井戸を覗く子供。


「作物が育たない...」


乾燥しきった芽を見ながら、落胆する高齢者。

故に水不足だけではなく、食料不足でもあった。


街はかなり深刻な状況だった。

それはまだ幼い雪華が見てもそう感じられる程だった。


「ここが家よ。」


こちらを見て微笑むリーネの顔もよく見ると、痩せていた。


「お邪魔...します。」


「ただいま、でいいのよ。」



「...本当に私、邪魔じゃない?」


先程の状況を見て、雪華はそう呟く。

そんな雪華の頭を撫でて、リーネは笑顔でこう答える。


「邪魔なわけないでしょ!!」



─────その夜の深夜


雪華は寝れなかった。

蒸し暑かったから?


違う。


慣れないところで寝てるから?


違う。


この街を救いたいから?


───そうだ。


私ならこの街を救える。


私の力なら──!!


リーネが寝たのを確認して、家から出る。


日が暮れても、全く気温は下がっておらず、僅かに吹いている風も、とても温かった。


迷惑だと思っていたこの力が役に立つかもなんて...


お願い上手くいって!!


そう心の中で叫んだ。次の瞬間───────


この乾ききった土地に一粒の雪が落ちる。

次々と雪は土地に希望を与え、雪は降る。


雪は溶けて、水となる。


雪は降る。雪は降る。雪は降る。


月光の光に照らされて、気づけば雪は水に変化する。


水が生まれる。水が生まれる。


井戸の水は溜まっていく。

畑の作物は水を吸収する。



朝になった────


雪は全て溶けて、水となり、この街に溶け込んでいた。


「どうなっている?井戸が潤っているぞ!!」


「昨日の夜!雪が降ったんだ!!!」


「熱病の子に水を運べ!!急げ!!」


「砂漠に恵みが戻ってきたぞ!!!」


街の人々は感動していた。涙を流すものもいれば、喜び舞い上がるものもいる。


昨日まで、絶望的な状況は一転、希望に変わったのだ。


「雪?一体どうなってるの?」


家から出たリーネは思わず呟く。その後ろで、


成功した...

雪華は心の底でほっとする。

でも私は名乗らない。


また追放されるのが怖いから。



その次の日も、また次の日も、深夜になると雪華は一人、バレないように力を使った。


すると、みるみる街の活気が戻っていく。

それを見ているだけで雪華は頑張れた。



だけどある日、自分の身体に異変を感じた。

そのきっかけは、リーネの質問だった。


「なんか、君の手って冷たいね?」


そう言われるまでは全く気づかなかった。


他にも


「リーネさん、なんか最近寒くない?」


「寒い!?今は真夏よ!?」



すぐに雪華は気づいた。

”力を使った何度も使ったせいだと”


でも、やめることはなかった。


私一人が苦しんで、この街を助けられるならそれで良かったから。



ある夜、街の人に見られた。

そして噂になった。


「深夜に、一人の女の子が、いた。」


「そういえば、いつも誰かが外にいる。」


バレるかもしれないなら、一旦やめよう。


そう思った。

街はかなり水を確保できた。最近、息を吐くと、真夏の昼なのに、白い息が出る。そう言った変化も重なり、しばらくの間は、休止することにした。



1週間後、史上最悪の干ばつが街を襲った。


瞬く間に街は水不足になり、今まで雪華が積み上げてきたものを一緒にして蒸発させた。

街は終わりを迎える。街の人々はそう思っていた。


「これで最後にしよう.....」


再び乾ききった砂漠の土地を歩き、街のすぐそこにある小さな丘に向かう。


リーネは薄々気づいていた。

雪華が来てから雪が降ったことを───深夜になると雪華がいなくなることを──────最近様子がおかしいことを。



丘に着いた雪華は、目を瞑って誰にも告げず、力を使った。


雪が降る。

その雪は砂漠を真っ白に...静かな真っ白に包む。


その雪を窓で視認したリーネは雪華を家の中で探す。


見つけることの出来なかったリーネは、外に飛び出し、雪が降る砂漠の街を走り回る。やがて、丘の上で倒れている雪華を見つけた。


雪華の頭に積もった雪を払いながら叫ぶ。


「起きて...雪華!!」


雪華は、目を覚まさない。


「どうして私を頼ってくれなかったの?どうして黙っていたの?」


それでも雪華は、目を覚まさない。


「起きてよぉ〜」


雪華を静かに抱きしめる。


この広い砂漠の中で雪から生まれた水以外の唯一無二の”水”が生まれる。


それはリーネの頬をつたっていく。


リーネは嗚咽だす。


リーネは朝までもう動かない雪華とその場にいた。


太陽が昇ぼり、雪が溶ける。

溶けたことでできた水は集まり流れる。街の近くには、巨大な一本の川が出来上がっていた。


リーネは街の人々に真実を伝えた。


そして、その巨大な一本の川に名前が付けられる。


川の名前は ”雪華”


雪のように静かに、誰にも知られずに街を助けた少女の名前を使わせてもらった。



砂漠はもう二度と枯れることはなかった。

そして、毎年ある日には、雪が降るようになった。


雪を見上げて、丘にあるお墓に花を持って近づくのは、リーネだ。


「雪華……」


「あなたはね、最後まで“雪を降らす少女”だって言わなかった」


「怖がられるのが、嫌だったんでしょう」


「それでも、誰かが苦しむのは、もっと嫌だった」


リーネは一度、言葉を切る。


「大人の私たちは、あなたを守れなかった……でも、あなたは私たちを守った」


川の流れる音が、答えるように強くなる。


「あなたの名前は、消えない、この水が流れる限り、この街はあなたを忘れない」


最後に、そっと微笑んで。

「ありがとう、雪華。どうか今度は、寒くない場所で――ゆっくり眠って」


その瞬間、

風に混じって、一片の雪が舞った。

リーネは気づかない。

でも川は、今日も静かに流れ続けている。

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