唐揚げ詐欺
朝から空気が妙に軽かった。
曇天でもなく、快晴でもなく、ただ「今日は悪くないぞ」と言ってくるような、そんな朝だ。
…屋外研修にはもってこいだな
そう考えながら学食へと向かう。
このところは雨天が中心…でも今朝はその心配がない。
そんな天候のせいか、配膳列に並ぶ研修生たちもテンションが高い。
…そんなにこの天気が嬉しいのか?
だが理由は天気ではなかった。
彼らの大皿には…唐揚げが、なんと5個。
普段なら一人あたり2個。
それが5個…倍以上。
朝から唐揚げ5個なんて、若い研修生たちにとっては「GOGO」というランプが点灯したスロット台がなぜか放置されているみたいなものだ。
当然、俺だってテンションは上がる。
揚げ物なんか作らないし、そもそも唐揚げ自体が久しぶりだ。
俺は朝400円の「一汁三菜」、今日の献立を現物で確認した。
『今日の献立』
主菜:唐揚げ(5個)
副菜①:キャベツ千切り(本当に普通の量)
副菜②:五目ひじき煮(普通)
……完璧じゃないか。視界が狭まらない朝なんて、いつ以来だろう。
研修生たちも大喜びだ。
「先生、今日やばくないっすか!」
「5個っすよ5個!」
俺も「ああ、これは本当にいいな」とにっこりする。
白米列に並ぶ研修生も、もちろん俺もうっきうきだ。
配膳担当のオッサン(推定70歳)は、なぜか機嫌が特によく「おざっす(北関東風…おそらくおはようございます、と思われる)」と声をかけてくる。
白米は、黙っていても普通盛り…今日は「勝ったな」と思える朝だ。
意気揚々と席に向かい着席をする…だが、学食内の「空気の温度」がやけに違う。
「配膳列」は「激アツ」なのに、座席は…「冬?」と思えるほどひっそりとしている。
そんな妙な違和感が、食堂内を支配していた。
「どうしたんだろな」…とは思ったものの…俺は唐揚げに箸を伸ばした。
……あれ?
…手ごたえが、なんか変だ。
唐揚げって、もっとこう…外はカリッ、中はジュワッ、みたいな反応があるはずだ。
作り置きでも、こう、もっと抵抗感というか、重量感はあるよなぁ、と思っていると、臨席の研修生がぼそりとつぶやいた。
「先生…なんか…すっと刺さるんすよ…感触がこう…抵抗感がない、というか…」
…いや、まずは箸を刺して使うなよ。昨日の講義で「工具の適正使用」を説いたばかりだろ。
俺は、箸でつまんで口に運んだ。
…ん?
……へっ?
………んんん???
噛んだ瞬間、脳が理解を拒否した。
見た目は完全に唐揚げ…衣も色も形も、記憶の唐揚げそのもの
なのに口に広がるのは、もっさりとした練り物の食感。
しかも焦げっぽい風味が、唐揚げの記憶をさらに偽装し、脳を揺さぶる。
俺の視界が、じわっと狭まる。もちろん病気ではない。
「唐揚げ5個の夢」を見せられたあとに叩き落とされたショックが、血圧を押し上げているだけだ。
ほかの研修生たちも口々に言う。
「先生……これ……唐揚げじゃないっす……」
「なんか……はんぺんの親戚みたいな味が……」
「焦げ風味なのがまた……」
俺は思った。
オッサンのオレオレ詐欺かよ…いや、オッサンは悪くない…悪くないんだが…
この「見た目だけ唐揚げ」の破壊力を、朝から受け止めるには…重すぎる。
「脳が、震える」と、どこかの司教のようなセリフが頭をよぎる。
5個もあるのに、全部フェイク。
5個もあるからこそ、ダメージがでかい。
俺は唐揚げもどきを噛みしめながら、静かに思った。
……本物の唐揚げ、食べたい
窓の外を見ると、曇天の隙間から少しだけ光が差していた。
まるで「ドンマイ」と言われているようだった。
イカリングと玉ねぎフライでも「ぼんやりしていると気が付かない」かもですが…自分がこれに当たったときは、本当に全く気が付きませんでした…唐揚げ詐欺…いやはや…あ、練り物からあげも、練り物だと知って食べればおいしいです




