対納豆ヒミツ兵器の終焉
さらに翌日…今日は、雨こそ降っていないが「今にも泣きだしそう」な予感がする曇天。
昨日は結局降ったりやんだりの一日で、作業用レインコートの脱着回数が増えてしまい、研修の成果も上がりにくかった。
…風邪なんかひいてなきゃいいけどな
食堂で配膳を待つ研修生たちは「今日は大丈夫だろ?」「こっちは屋内実習室だから、平気」などと、話している。
そんな声に「体が濡れて冷えたら、すぐに言ってね。シャワー室の鍵開けるからさ」と語り掛けながら、朝食のおかず列に並ぶ。
一昨日よりご飯は普通盛り…納豆ご飯が本当にうまいが…「対納豆ヒミツ兵器」の存在が一部研修生ばれてしまい、こっそりとねだられたりもしている。
…まぁ、彼らも今週末で帰るし、な
週末超えれば、ヒミツ兵器の存在を知る者はいなくなる。
そうなれば「ヒミツ兵器の平和的個人利用」は約束される。
俺はそう考えながら、朝400円の「一汁三菜」、今日の献立を現物で確認する。
『今日の献立』
主菜:5cm四方程度の大きさに切られた、サバ味噌煮1切れ
副菜①:たまごサンド(コッペパンだと、たまごロールサンド)に入ってる、あの「たまご」
副菜②:油揚げと大根の煮物
……こっ…このたまごはっ!
俺の視界が、いつものようにじわっと狭まる。
いつものように、もちろん病気によるものではない。
白米に「たまごサンド用たまご」に対する怒りが、俺の血圧を「よいしょお!」と押し上げているだけだ。
北関東では「パンにはさむようなたまごを、白米の朝食」に付け合せるのが一般的なのか?
たまごサンドやたまごロールサンドは確かにうまい。あれは朝食に確かに向いている。
だがそれは「サンド用薄切りパン」「コッペパン」だから成立する。
それは「パンに出会えたから、素敵な結婚生活が成立する」のであって、白米とは「嫁VS姑小姑連合」くらいに相性はよくないぞ。
このあしらいは…白米にマーガリン塗ったくる行為とさほど変わらんのではないか?
俺のセンスがおかしいのか、食堂のセンスがおかしいのか…俺は頭を抱えたが…「対納豆ヒミツ兵器がある…大丈夫…」と自分で自分に言い聞かせ、白米配膳列に並んだ。
俺は、配膳担当のオッサン(推定70歳)に「おはようございます。今日も白…」のタイミングで「はいよ」と白米を渡される。
オッサン、普通盛りになじんでくれたな…おかずセンスはともかく、ありがたいよ…と思いながら「ありがとう」と受け取る。
・ニンニクなめたけ(1瓶128円・昨日新規購入)
・TKG用だし入り高級醤油(1瓶598円)
・乾燥ネギ(1袋98円)
「しっかし…サンド用たまごを箸で食う日が来るとはな」とつぶやきながら、着席する。
すると…一昨日ニンニクなめたけを分けてあげた研修生がまたもや近寄ってくる。
それを合図にしたかのように…10名近くの研修生が、大挙してどんどんと俺の席に近づいてくる。
「先生、おはようございます、ここ座っていいですか?」「俺も」「僕も」「っす」…いやいやいや
「ほんと、いつものように納豆に薬味がないし、それに、おかずがちょっと切なくて…」「俺も」「僕も」「っす」…いやそれはよくわかるよ、俺なんか毎日怒りで視界が狭くなるくらいだし
「もしよかったら、今日もちょっと分けでもらっていいですか」「俺も」「僕も」「っす」…やめろ、柴犬視線ビームの集中砲火、それ、ホントに反則だぞ
「おねがいします」「俺も」「僕も」「っす」
白米の器がずらっと並ぶ。俺は放心しつつ「あ、はい…どうぞ」と、惚けながら勧める。
「あざっす!」「ちーす」「さーせん」「っす」…おい、日本語…というか、何でもかんでも「っす」で済ませるな…
朝から「っす」の集中砲火を浴びる初老52歳の気持ちも、少しは考えてくれ。
ニンニクなめたけ、どんどん屠られる。
新しく買ったものを机の上に置いたのもまずかった…あっさりと封を切られる。
TKG用だし入り高級醤油…どばどばとかけていく
…いいな、若いって…塩分とか気にしないもんな
的外れなことを思いながら、なすすべもなく「ヒミツ兵器」が接収されていく様子を眺めている。
3日連続でなめたけ利用している、柴犬視線の研修生が「これ、ホントうまいよね!」と、10人近くの研修生に声をかける。
10名近い研修生も異口同音に「うまい」「いいすね」「っす」を連発していく。
見れば、なめたけは2つとも瓶の底にこびりつく程度、TKG用だし入り高級醤油に至っては「ほぼ瓶を洗って捨てるだけ」となっていた。
「先生、ありがとうございました!」と喜んでくれたのはいいが…ヒミツ兵器が接収された俺は…なめたけを瓶から必死にこそげ落として、納豆に混ぜ込む
窓の外に視線をやると…相変わらずの曇天…俺の心の中を映し出すような「今にも泣きだしそうな」曇天
「今日、また、買って帰るか」とつぶやきながら、食堂を後にした。
………金曜日でホントに良かった
と、心底思った。




