対納豆ヒミツ兵器の憂鬱
翌日…あいにくの雨…今日の研修は屋外実習作業…初夏のころの雨ゆえ、寒さを感じることはほとんどない
だが、作業用レインコートの中は非常に蒸れ、汗をかきやすい。
それゆえに「あとから体を冷やしてしまい、結局風邪をひく」なんてこともある。
「北関東の地方都市にある、企業内研修所」では、この先にやってくるであろう梅雨時…心配事の一つでもある。
食堂で配膳を待つ研修生たちも「いやな雨だな」「うへぇ、結構強いな」とこぼしている。
そんな声に「現場では雨も降るからね、こういうことは普通にある。でも、できる配慮はするからね」と語り掛けながら、朝食のおかず列に並ぶ。
昨日からご飯は普通盛り…「対納豆ヒミツ兵器」が功を奏し、納豆ご飯が本当にうまい。
…もずく酢でも笹蒲鉾でも、どんとこい
俺は、朝400円の「一汁三菜」、今日の献立を現物で確認する。
『今日の献立』
主菜:えらく細切りにされた野菜炒め(トングで一掴み・タマネギとキャベツとハム。ハムはやたら少ない)
副菜①:ミックスベジタブルの炒め物(トングで一掴み・グリーンピースとコーンとニンジンの角切りのあれ。)
副菜②:キャベツとニンジンの千切りサラダ(トングで一掴み)
……なっ…こっ、これ、やさいばっかり
俺の視界がまたじわっと狭まる。
日常過ぎて最近慣れてきてはいるが、もちろん病気によるものではない。
野菜三銃士が唐突なタイミングでジェットストリーム的なアタックを仕掛けてきたことに対する怒りが、俺の血圧を「これでもか」と押し上げているだけだ。
北関東では”ここまで朝から野菜だけ食う”のが一般的なのか?
野菜炒めにせよミックスベジタブル炒めにせよ、それ単品でもは確かにうまい。
だが「一汁三菜」枠で考えたら、これはいくら何でも偏りが過ぎるだろう。
野菜炒め二種で「一汁三菜」語るとはナニゴト…
ウサギでもあるまいに…俺は“orz”となりそうだったが「俺には最終決戦兵器化した、対納豆ヒミツ兵器がある」と心を奮い立たせ、白米配膳列に並んだ。
俺は、配膳担当のオッサン(推定70歳)に「おはようございます。今日も白米、普通盛りで…」を声をかける。
オッサンは「生徒さん、みんな大盛だけど、先生はいいの?」と声をかけてくる。
「普通でいいよ、ありがとうね」と、警戒心を緩めずに…俺は白米を受け取った。
・ニンニクなめたけ(1瓶128円)
・TKG用だし入り高級醤油(1瓶598円)
・乾燥ネギ(1袋98円)
「圧倒的ではないか、わが軍は」と、どこかの中将的なことを考えながら、俺は着席する。
すると…昨日ニンニクなめたけを分けてあげた研修生が…俺の前の席に座り…雨に濡れた子犬(しかも赤柴)のような目で…「なにか」を訴えかけてくる。
「先生、おはようございます、ここ座っていいですか?」…もう座ってるだろよ
「今日も納豆…薬味がないんです」…いやこの研修所、ずっと前から薬味なんか出してないだろ
「もしよかったら、今日もちょっと分けでもらっていいですか」…やめろ、柴犬視線ビームやめろ
128円でダメ、とも言いにくい…まぁ、また買えばいいだけだし…
俺は「どうぞ」とにこやかに勧める
と、そこへ、あらたに別の研修生がやってくる。
「それ、なんですか?」
柴犬視線を持つ研修生が、昨日からの話をする。
その研修生も「ニンニクなめたけ」に興味を持ったようで「俺もいいですか?」と声をかけてくる。
ホントはダメって言いたい…だって、キミ、僕の受け持ち研修生じゃないじゃん…けどなぁ…
俺はやはり「どうぞ」と勧めるほかはなかった。
柴犬視線の研修生が「これ、すっごくいいでしょ」と、自分の手柄のように声をかける。
別の研修生も「これ、もっと早く気が付けばよかった。おかずショボいことが大半だから」と喜んでいる。
二人ともどんどんとなめたけを使っていく。
見れば、なめたけは半分ほどに減り、TKG用だし入り高級醤油も順調に消費されている。
二人は「先生、ありがとうございました。これ、すごくいいです」と喜んでくれた。
「そか、喜んでくれて何よりだ」と心にもないことを口走りながら、窓の外に視線をやる。
外は、俺の心の中を映し出すような雨天。
「今日、また、買って帰るか」とつぶやきながら、食堂を後にした。
………これが「さらなる騒動」につながるとか思いもよらない、初夏雨天の学食だった。




