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KY(きけんよち)とKY(からあげよこどり)

「危険予知は、いうなれば『想像力』のたまものなんですよ」

今日の研修内容は「危険予知訓練」…建設業ではおなじみの内容である。

小さな集団で意見交換し、危険ポイントを提起しながら対策をしていく…労働災害防止の手段の一つでもある


…うちの会社の偉い人、設備こわすだの、施主に迷惑かけるだのが「危険予知」って平気で言うからな。


本来の姿は「現場で働く労働者が、労働災害に巻き込まれないようにする」である。

だが、うちの会社…特に「施主に迷惑かける行為」に対策を立てさせ「これをいかに防ぐか」で行動目標を立てさせる傾向がやたら強い。

ただ、もう一つの姿である「出た意見に対し、否定をしない」が、手法としてあるので「それは目的から外れます」とも言い難い。


…ホント、このあたりがめんどくせぇよなぁ。


「設備や装置を壊してしまい、自動停止ができなくて、作業中にけがをする、という形であれば許容可能だよ。」

「設備や装置を壊してしまい、施主に迷惑をかける、で切っちゃうと、労働災害防止にはならないよ」


俺は真意を淡々と伝えていく。

時計を見ると11時45分を超えていた。。


…この人数がいっぺんに食堂に行けば、また大混乱

…15分かけて、ゆっくり食堂に向かわせるか


集団が10もあれば、出来高は当然変わってくる。

俺は、各作業班を回り、出来高を確認する。


「よし、したらちょっと早いけど、この班は昼休みに入っていいよ。戻りは13時10分ね」と伝え退席させる。


こんな感じで1分程度時間を置き、別の班にも同様のことを伝える。

一つ一つの班に、ちょっとした時間差を設けて、順繰りに退席を促していく。


…少しくらいは、混雑緩和出来るかな


時計はちょうど12時を指す。

俺は一番最後の班と一緒に、食堂に向かった。


食堂に向かう通路を見ると、普段よりも行列は短い。

普段なら「食堂に収まらず、ロビーをぐるっと取り囲み、尻尾は屋外通路に伸びる」くらいだが、今日は明らかに行列は短い。

俺は「混雑回避、成功!」とほくそ笑みながら「危険予知活動って、なんにでも効くなぁ」と、全く見当違いのことを考えた。


…オッサンあたりも、今日は忙しさが紛れていいだろう。


そんなことを考えながら、研修生に道を譲りつつ…今日のお昼のアンカーとして…ホットケースに手を伸ばし「今日のお昼の献立」を現物で確認する。


おそらく主菜:鶏の皮と、元唐揚げと名乗るべき小さなかけらが数個

副菜①:だし巻きたまごっぽい姿のたまご焼き

副菜②:いんげんの胡麻和え

副菜③:サニーレタスを刻んだもの


俺の視界…ミリ程に狭くなる。

毎度毎度のことだが…病気というわけではない。


北関東では、これを「鶏の皮1枚と、元唐揚げと名乗るべき小さなかけら」を、主菜として仰ぎ見るのか!

なんでこう盛り方が極端に偏るんだ、という怒りが、俺の血圧をどすこーいと、上げているだけだ。


…これは、オッサンにちょっと聞いてみよう


さすがにこれでは、と思い、配膳担当のオッサン(推定年齢70歳+α)に皿を見せて「これで正解なのかどうか」を確認してもらった。

オッサンは「あれ!いや、今日はわりと大きなもの、3個づつ載せたよ!(北関東風)」と、声をあげながら皿を凝視する。

でもさ、乗ってないんだよ…皮だけなんだよ…あとはかけらなんだよ…と窮状を訴える。

オッサンは、ホットケースの中もあちこち見て「落ちてる様子もないな」とつぶやく


…いや、落ちてるモン拾って出そうとするなよ


オッサンは「ちょっと理由、わからないなぁ…でもちゃんと乗せたんだよ」とかなり大きな声を出す。

東南アジア女性スタッフたちは「どうしていいかわからない」という表情を浮かべながら、俺の皿とオッサンの顔を見比べる。

オッサンは冷蔵庫に戻り、何かのパックを取り出し「センセ、理由はわかんないけど、ホント済まない。これで勘弁して!」と、皿に乗せた。


主菜:笹蒲鉾2枚


「いやもうさ、そんな代打とかとんでもなく考えにくいじゃない!」とは思ったが、オッサンにしても東南アジア女性スタッフにしても「不明」であれば、代替品に頼るしかない。

仕方ないなぁ、と心底がっかりしながら白米をもらっているときに…「今日のあまりのお皿、唐揚げでラッキーだったな」という声が、食堂のほうから聞こえてきた。


…まさか


「うんうん、うちらの班、早く終わったから、ご飯お代わりの時余ってて、ついもらっちゃった!」


…えーと


「ここの食堂って、ショボって思うこともあるけど、自己負担なしだし、普通にうまいよな!」


…きさまらか


俺は、こそっとオッサンに「お替りご飯の提供って、まだホットケース陳列?」と尋ねると、そうだ、とうなづく。

ホットケースには「一人一皿」という記載もなければ「つまみ食い禁止」もない…他の皿のおかずを取るのは泥棒です、という記載も当然ない。

俺はオッサンに「何か、張り紙したほうがいいよ…勘違いした研修生が…余った皿だと思い、つまみ食い的に持って行っちゃうっぽいよ」と力なく伝えた。


…混雑回避策自体は当たったんだけどなぁ

…まさかの「つまみ食い」発生か

…そんなもん、予測もできないよなぁ


そんなことを思いながら席に着いたその瞬間

俺は…「危険予知は、いうなれば『想像力』のたまものなんですよ」と、自分で研修生に語り掛けたことを思い出す。


…つまみ食いされるって、労働災害かなぁ

…KYって、危険予知の頭文字だよなぁ

…でも、今日のKYは「唐揚げ横取り」だもんなぁ


俺はどこかでずれたことを考えながら…笹かまに醤油をドバドバかけて、白米にバウンドさせて食べ進めた。

「今日も研修所は波乱万丈だけど、ケガしたわけじゃないし…」とつぶやきながら、俺は「つまみ食い主犯グループの顔」をしっかりと記憶した。


…明日は、一番最後に昼に送り出してやろう


これが、俺の取りうる最大の「つまみ食いに対する危険予知活動」だった。

みると白米の色は、もう完全に琥珀色に染まっていた・

実は、朝方のほうが「横取り、つまみ食い」は発生確率高い、とのこと。出しておいた乳製品が数足らない、とかはあるんだそうです。

でもほんと…おなかすくんだろうなぁ…唐揚げ持ってっちゃう、とか

まぁ、それで今後ケガもなくずっと頑張ってくれるんなら安いもんだ、と「建前」で言っておこう

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