先を見通すマカロニの穴
三寒四温…三日寒さが続き、四日暖かい日が続く、という古来の言葉。
このところ、北関東だけではなく世界中が異常な気象に見舞われているわけで、こういった言葉が成立するかはわからない・
…それでも、今日は暖かい
水冷エンジンのスクーターをを始動するが、今日はノーストレス。
昨日までの回転高止まりが嘘のようだ。
俺は「ちょっとは楽でいいな」と思いながら出勤した。
敷地の芝生は相変わらず冬枯れのままだが、真っ白に凍っている、ということは減ってきている。
食堂に向かう屋外通路も…ゆっくりではあるが…春の兆しを、ほんの少し見せてくれている。
食堂に着くが、今朝は研修生が一人もいない。
年度末に近づいているせいか、研修そのものの数もほとんどない。
よって、今朝も俺一人が食堂を利用する…そんな、ちょっと贅沢な朝の「一汁三菜」…今日の献立を現物で確認する。
『今日の献立』
主菜:見ただけで豆腐が思いっきり練り込んであるのが分かる、豆腐ハンバーグ(直径10cm×高さ1㎝くらい)
副菜①:マカロニサラダ
副菜②:おそらく水菜と思われるものと、人参の油いため
…あのさ、これさ…
数日前に出た「豆腐が明らかに練りこんであるつくね」と形状がちょっと違う『だけ』じゃね?
だが、あまりに血圧を高めても、寿命にかかわる。
俺にだって、老後を楽しむ権利もあれば、住宅ローン残債の返済だってある。
そう考えると…そうそう血圧は高めてもいられない。
俺は冷静さを取り戻し、配膳担当のオッサン(推定年齢70歳+α)の待つ、白米配膳列に回り込む。
とはいえ、今朝は一人貸し切り利用…オッサンは「ざまっす!今朝はちょっと緩いねぇ!(北関東風味)」と言いつつ、白米を盛り付け、俺に手渡す。
東南アジア女性スタッフは、やっぱりいつもの通り「汁椀の大盛り」を準備して俺に手渡す・
ありがとう、と受け取るが…今朝はよりによって長ネギが大盛り。
しかも刻みが荒く、ねぎの香りもやたら強い。
…まぁ、厚意なんだろうし。
俺は汁椀を受け取り、席に向かって移動をしようとした。
そこへ、オッサンが声をかけてくる。
「センセ、あのさ、ホットケース、明かりつかないんだよ。なぜか今日は保温も悪いんだよ。センセは電気のセンセって聞いたから、いかったら、ちょっと見てもらっていい?」
基本的に「こういう困りごとは解決してこそ」と思っている俺は、厨房に入り込みホットケースを確認する。
コンセントは抜けていない、スイッチは入っている…はて、と思い…俺は分電盤に回り込む。
…あら、これは。
ホットケース専用のブレーカーには「漏電表示」が出ていた。
ブレーカーノッチは三位…三位で止まっているのを見た瞬間「ああこれは…」と腹の底で理解た。
取り合えずは危険性が残っている以上、当面は「ホットケース類にはやたら触らないように」と、二人に注意を促した。
「飯食ったら、詳細な点検をしに来るね。まぁ、半々なんだけど、機械が壊れてるかもしれんし」と話をする。
オッサンは「いやぁ、専門家だと見ただけでわかっちゃうの?」と目を丸くしているが…別にそういうわけでもない…ただの状況証拠の積み重ねってだけだ。
そんな話をしていると、東南アジア女性スタッフが「センセ、カコイイ、デンキノヒトミタイ」
…「みたい」じゃねぇ!
とは思ったが、それも「文化の違い、多様性の時代」と思い、女性スタッフにも「むやみにスイッチ入れたら危ないからね」と念押しをする。
女性スタッフは屈託のない明るい笑顔で「ワカタ―」といい、ホットケースからそっと離れる。
「センセー、カコイイネー、キョウハサビーススルネ」
彼女は、冷蔵庫から袋詰めのマカロニサラダを取り出す。
何をするのか、と問いかける前に、彼女は俺がカウンターに放置した「まだ手を付けていないおかず」に、マカロニサラダを増量しだした。
…いや、それ、そんなにいらないから
と声をかけようとしたが、時すでに遅し…冷蔵庫の中で冷やされ続けていた袋詰めのマカロニサラダ…青唐辛子なめたけ同様…カチカチだった。
それを「エイヤ」とばかりに袋を絞り「フヌヌヌヌ」と奇妙な掛け声をかけつつ…盛り付けた…ので…結果…
「マカロニサラダの八甲田山」がそこに降臨した。
俺はマカロニサラダ、結構好きだ。
居酒屋とかでも「自家製」とかあると、喜んで頼む。
でも、それは「小鉢程度」だからであって、丼を伏せたような形…八甲田山級でも好きか、と言われると…それは違う。
俺はオッサンのほうに向きなおるが…オッサンは「あっはっは、センセ、よかったね」で済ませてしまう。
女性スタッフは、本当にキラッキラとした笑顔を俺に見せ…サムズアップ…この屈託のなさ、もう何も言えない。
席に着き、マカロニサラダを箸でいじくりだす。
どこまで行ってもマカロニ…レンコンの穴は先を見通せる縁起物、と聞いたことはあるが…マカロニだって…この物量ならきっと先は見通せる。
一生懸命マカロニサラダを食べ続けるが、なにせ八甲田山…とにかく量は減らない…食べても食べても全く標高が下がらない。
…「サビース」なんだよな
…悪気なんて、ないんだよな
俺は俺にそう言い聞かせながら、八甲田山に挑み続ける。
厚労省の14次防…多様性…俺は、心底思い知らされた。
もうすぐ春…その空っ風は少しやわらかな気もするのだが…マカロニを通る風だけは「ちがう、そうじゃない」と呼び掛けているようだった。
マカロニサラダ、大好きです
居酒屋あたりで見かけると、ホントまずはこれで、と頼んでしまいます
個人経営店なんかだと、ホントに個性あふれるので…楽しみです…が…小さめのどんぶり伏せたくらいは、ちょっと…
でも、ホント悪気ないんだろな、といつも思います




