表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/44

誰もいない日の朝食~資本主義かくありき~

今週は、宿泊しながらの研修がひとつもない。

よって、食堂は「俺専用貸し切り」になることが決まっている。


…こういう時って、わりかしサービスあったりするよな、学食あそこ


別にそれは楽しみではないが…やたらと広い学食設備、それを俺一人が使う…しかも、俺のために給仕をするスタッフが二名つく。

そう考えると、かなりの贅沢、ともいえる。

しかも、それが朝食なら415円なのだから、破格、ともいえる。


宿泊しながらの研修がない週は、儀式のような空調設定も特に行う必要はない。

そのうえで「並ぶ」ということもなくなるので、ゆとりを持った朝食が楽しめる。


俺はゆっくりと…食堂のドアを開けようとしたが、中が薄暗いことに気が付く。

厨房の明かりはついているが、食堂全体の明かりは落とされている。

恐る恐る中に入ると、配膳担当のオッサン(推定年齢70歳)と、東南アジア女性スタッフが暇そうに座っていた。


「お、センセ、来たね、おはようございます!(北関東風)」

「センセ―オハヨー(にっこにこしながら手をブンブンと振る)」


…いやもう、大歓迎だなぁ


俺は「おはようございます」としっかり頭を下げて、ホットケースからおかず皿を取り出し、中身を確認する。


『今日の献立』


主菜:目玉(蒸し)焼き

副菜①:もう少し大きさが欲しいシーセージ 2本

副菜②:キャベツミックス


…ああ「黄色い牛めし屋」のダウングレード版か


以前にも思ったが、牛めし屋だとこれに牛小鉢付けてワンコイン。

蒸し焼きで目玉焼き作っちゃうから、たまごのへりに香ばしさがない…見方を変えれば「平らなゆでたなご」

やはり少し高いよ、これは…と思っていると…オッサンは、白米を盛りつけながら「はい、これ、もしよかったら!」と、出してきたものが「豚バラ大根風の小鉢」だった。

俺は「お、今日は4品目?」とすこしおどけて聞くと「サービス、よかったら」と実直そうにオッサンは進めてくる。

東南アジア女性も「サビース、イーネ!」と、サムズアップする。


…豚バラ大根「風」でサムズアップされてもなぁ


そうは思ったものの、好意は好意。

俺はありがたく好意を受け取った。


席に着くと、広い食堂の静けさが一気に押し寄せてくる。

研修生がいないだけで、こんなにも音が消えるものか。

椅子を引く音すら、やたらと響く。


トレイの上には、4品目のおかず。

朝からちょっとした「福袋感」も感じる。オッサンはやることがないのか…遠くから腕を組んでこちらを見ている。

俺はオッサンに頭を下げ、食事を開始した。


すると「センセ、どう? 味、大丈夫?」…オッサンが、東南アジア女性スタッフを引き連れ、こちらに近づいてくる。

「センセー、オイシーク、タベテー!」と、にっこにこの笑顔で俺を応援してくれる、東南アジア女性スタッフ。


…いや、そんなに応援される朝食も珍しい、というか、かえって食いにくい。


目玉焼き(蒸し)に箸を入れる…白身はぷるんとして美しいくらい…不自然ともいえるほどの白色を見せているが、香ばしさはゼロ。

感想なんか「平らなゆでたまごの称号は揺るがない」くらいだ。


次にソーセージ…細い…小さい…黒っぽさが目立つ…ソーセージ、こんな攻めた焼き方普通するか?

感想なんか「焼きすぎだよ、これは」くらいしかない。


キャベツミックスに至っては、どこまで行ってもひたすらキャベツミックスだ。

キャベツミックス界の平均点をひたすら守り続ける、安定の存在、ということもできなくはない。

感想なんか「スーパーの1袋100円のと、全く同じ味ですね!」くらいしかない。


そして、サービス枠の豚バラ大根風…箸でつまむと、オッサンがニヤリとした。


「それ、昨日の残りだけど、味しみてるよ」


…どこの残りもんなんだよ、これ。

…てかさ、残り物を誇らしげに出すなよ。


でも確かに、味はしみている。

「風」とはいえ、なかなかの仕事ぶりだ。

確かに味しみ度は満点。大根などはすでに暗褐色。

「味しみ」どころか、もう大根なのか蕪なのか区別がつかないほどだ。


食べ進めるうちに、食堂の空気が少しずつ温まっていく。

広い空間に、俺の箸の音と、厨房から聞こえる換気扇の低い唸りだけが響く。

ふと顔を上げると、オッサンと東南アジア女性が、まるで「センセの食事実況」でもしているかのように、向かいの席に座っている。


…いや、そんなに見られると食べづらいんだが。


それでも、どこか悪い気はしない。

415円で、広い食堂を独り占めして、二人のスタッフに全力で応援され、じぃっと見つめられながら食べる朝食。

視線がこわい、と言えばこわいが、贅沢といえば贅沢だ。


最後に味噌汁をすすり、トレイを片付けようとすると、オッサンが「センセ、置いといて、こっちでやるから!」と手を振る。

東南アジア女性は「アシタモ、サビース、アルカモ!」と謎の宣言をしながら、そそくさとテーブルを拭き出す。


…サビース、いやその、サービスは無理しなくていいから。


食堂を出ようとするその刹那、照明が落とされる。

振り返ると、食堂内の清掃がもう始まっている。

よく見れば、給茶機の電源なんか、切られている。


時計を見ると、7時17分…彼らにしたら普段は8時をかるく回ってからの作業…これが7時17分には開始される。


…あ、時給換算すっと、1時間お得なのね


「センセ、生徒さんいないし、一人の時は開店前でもすぐ準備すっから!」…もう、時短モード全開なのを隠すこともしない。

「センセ、アサガンバル!」…何をだよ、と、突っ込む気すら起きない。


…時短のために早く来る、まではさすがにな


なにか、世知辛い空気を俺は感じながら、食堂を後にした。

それでも胃の中は…サービス分だけは、妙に温かかった。


…あー、今週はずっとこんな感じなのか


俺はちょっと、げんなりした。

運営会社には、運営費として月額固定を支払っている(んだそうです)

ということは「100人来た時の労力」「1人来た時の労力」…労力にかかるコストは一致するってことにはなります。

まぁ、早く帰れるならね、とは思いますが…

ちなみに自分は「このいきさつあたりから、黙って開店10分前に押しかける」ようにしました。

たくさんいても、困るんだろうし…

ちなみに、うちの学食の女性スタッフさん、とてもかわいらしくてとても明るいから、研修生にも人気があります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ