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雪の日の夕食

夕方…雪の勢いは少し収まったものの…それでも間断なく降り続いていた。

研修所の表玄関から一歩踏み出すと、20cmではきかないほどの積雪。


…いや、もう泊まりをお願いして正解だなぁ


俺は施設管理人のもとを尋ねて「助かりました、ありがとう」と礼を言う。

管理人は「いやもう、これは危ないですよ。遠慮なく泊まってくださいね…ただ…」と、声を落としながら「…所外はいいけど、所内の飲酒は控えてくださいね」と言われる。

そんな折に、管理人のスマホが鳴り響く。


「はい、はい、ええ…いや、それ困りますけど…いやでもね…ええ、はい…わかりました。」と、小さくうなづき、電話を切った。

管理人は、俺のほうを向き直り「研修生さんを今から集めます。先生も同席をお願いいたします。」と頼まれる。


管理人による館内放送は「研修生の皆さん、食堂にお集まりください。至急の連絡があります。」と告げた。


今夜宿泊の研修生は全部で9名、そのすべてが俺の研修を受けに来ている。

研修生は「ナニゴト?」「…んだよ、めんどくせぇなぁ」とぼやきながら集まってくる。

管理人は全員がそろったところで、やおら口を開く。


「みなさん、今夜の食堂は臨時休業です。隣県の食堂管理会社から、この雪で車両運行ができない、と連絡が来ました。」


…おいマジか


俺は研修生の顔を見回す。

全員、あっけに取られている。

少し気が強い研修生は「じゃ、飯、どーすんすか?」と管理人に詰め寄る。

俺はそこに割って入り「ちょっと待ってな…考えるからさ」と制止する。


とはいえ、知恵などあろうはずもない。

いくら何でも「非常食を二回」はさすがに無理がある。

うすら寒い食堂で話をしてもらちが明かないと考え、俺は研修生全員を宿舎の3階ロビーに移動させた。


「先生、マジでどーします?」と、チームリーダー役が俺に問いかける。

三階の窓から外を眺めながら「なんかいい手はないか」と考えたとき…徒歩で300mほど離れたところのチェーン店の焼き鳥屋の明かりが目に入った。

俺はスマホを取り出し、藁をもつかむ思いで電話をかけてみる。


「もしもし…はい、今日営業してます? あ、ホント? 予約ないんですけど…10名くらい…」とおずおずと切り出す。

焼き鳥屋は…雪で予約客が流れたこと、席はみんな空いていること、こんな日に10人来てくれたらサービスする、と返事をした。

「じゃ、今から準備するんで…30分くらいしたら伺います」と電話を切った。

そして研修生のほうに向きなおり「焼き鳥屋でよければ、座席は確保できたよ。どうする?」というと「いや、マジっすか!」「すぐ着替えてきます!」と喜びだした。


俺は管理人に念のため、外食すること、すぐ近所の焼き鳥屋に行くことを伝え、了解を得る。


足元がスニーカーや革靴だとすぐに埋もれてしまうくらいの積雪…俺は全員に「最低でも、半長靴安全靴を履いて、転倒防止に努めること」を約束させた。

準備が整った研修生を引き連れ、俺は焼き鳥屋に向かう。

焼き鳥屋に向かうさなか、研修生が「先生!飲んでいいすか!」と尋ねてくる。


…ダメって言うわけないじゃん。


「俺も飲むつもりだよ」といいつつ「飲み過ぎて帰路に転ぶ、明日に差し障る、これがないようにすれば構わないよ」と、伝える。

雪はだんだん弱くはなっているものの、それでも車が全く動かないほどの積雪。

おぼつかない足取りで…全員を連れて焼き鳥屋へ向かった。


焼き鳥屋に入った途端、耳がふわっと熱くなるほどの暖房と、店員たち総出で俺たち一行を出迎えた。

相次ぐキャンセルのせいか、最初にでてきたお通しも、普段見たことがない量だった。


「先生!おごりですか?」と尋ねられ「財布に余力がある分くらいは出させてもらうよ、みんなと飲めるのは、俺も楽しいし」と、変な余裕を見せる。

ガッツポーズをする研修生、やった、と喜ぶ研修生、聞いてみるもんだ、とうっきうきな研修生…俺にすれば、みんなかわいい研修生。

それほど財布にゆとりはないが、たまにはいいか、と目を細める。


「先生、こういうのも悪くないっすね」とぽつり生徒がつぶやいた。

「そうだなぁ」と、俺はうなづきながら「ほれ、食いたいもの、ほかにもあれば頼みなよ」と、メニューを渡す。

少し気が強い研修生が「先生、これもう一本頼んでいいっすか?」と無邪気に言うたびに、財布の中の「残量」が頭をよぎる。


…研修生の笑顔と、俺の財布の寒暖差が本当にすごいなぁ


そんなことを思いつつ、ウーロン杯のメガジョッキを重ねていく。

そして、数時間が経過した。


時計を見ると夜9時を少し回っている。

外を見ると、雪はやんでいた。


焼き鳥屋に会計を頼んだ俺は…凍り付いた。


10名で…チェーン店で…「なっ、ななまん?はっせん?サービスは?ねぇ、サービスは?」…レシートの長さは、人生最長不倒記録だった。

慌てて財布を広げると…5万ほどしか入っていない。

俺は慌ててカードを取り出し、会計を済ませる。


店にも心から感謝され…研修生にも心から感謝をされたが…俺の心は猛吹雪だった。

過去数度「出勤したはいいものの」という目に合っています。

北関東平地ですと、頑張っちゃうとバイク通勤できます(おすすめしません)

でも、ほぼほぼ帰れませんで…顔見知りの研修生とかいると…こんな目に合うこともあります

ちなみに、この時の支払い…居酒屋でこんなに使ったのは…後にも先にもありませんでした…


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