雪の日の昼食
「へーほへほへほほほほーん」としか聞こえない、気の抜けたチャイムが昼を告げる研修所。
今朝からの降雪を受けて、急遽研修内容を変更して屋内での作業を行った。
窓の外はもう完全に雪国の様相…おれは研修生に午後の集合を午後1時10分と告げた。
…いやぁ、読みを外したなぁ。
積雪量は優に10cmを超えている。
どう考えても、スクーターでの走行は無理だ。
「仕方ない」と腹を括り、研修生が使用している宿泊設備の空きを確認した。
台帳を確認しながら「いや、センセ、たくさんありますよ」と、施設管理人は言う。
「これじゃ、帰れないですよね…会社に使用の申告だけしてください。ええと、カギはこれ」と手渡される。
俺は深く頭を下げ、鍵をポケットに押し込み食堂へ向かった。
食堂に着くと、ずらっと研修生が並んでいる。
…ん?なんだ?
今日はさほど研修生はいない。
だから並ぶはずもない…ましてや、空室への宿泊手配の都合で、そこそこ時間はかかっている…なのに、並んでいる。
「あ、先生! いいとこに!」と、研修生から声をかけられる。
「どうした?」と問いかけると…明かりはついてない、扉にかぎがかかっている…という申告。
研修所なんて、面白くとも何ともない場所…同期とゆっくり話ができる、という利点くらいはあるが…楽しみと言えば、食事くらいしかない。
その食事提供をしてくれる食堂が、昼を超えてなお、扉を閉ざしている。
…なんだろか?
俺は不審に思い、施設管理人のもとに舞い戻り「食堂がやっていない」と告げる。
施設管理人は「そんなはずは…」と言いながら、食堂運営会社に電話をかけて確認する。
「…ええ、はい、ええ、わかりました。」
管理人は俺に向き直り「わりと近くまでは来ているけど、それでもこの雪で、道路が混雑している。なので何時に着くかわからない、らしいです。」と、途方にくれている。
…仕方ねぇなぁ、今日はコンビニでも行くか
と思って外を見ると、さらに積雪がひどくなっていて、普通の靴ではもう歩けないほど。
そんな時、施設管理人は「センセ、これ、入れ替えタイミングなんですが」と出してきたのが「非常食のアルファ化米の混ぜご飯セット(若干期限切れ)」「缶入りのチョコ味パン」「乾パン」だった。
熱湯で戻せば15分で食べられるうえ、カレーピラフ、五目ごはん、松茸ごはんなど、種類もそこそこ豊富。
それらを、人数分よりも若干多めに抱え、研修生のもとに舞い戻り、説明をする。
「昼飯遅延」の報を聞き、少し不安げな顔をした研修生もいたが、手にした非常食を見て安心したのか「あ、これがあるか!」と手を打った。
他の研修生は「あ、これ、訓練的に食べたことありますよ。見た目よりおいしいですよ」と、言い出し、非常食セットに群がりだす。
「カレーがいい」「俺も」「ボクもこれがいい」でジャンケン大会が始まるおまけはついたが、全員にいきわたる。
施設管理人に食堂の扉を開けてもらい、厨房内のボイラーから湯をどんどんパックに注いでいく。
やがて、カウンターの上は非常食だらけになる。
…なんか、職長等教育あたりの「異常時における対応」や、雇入研修の「退避に関すること」のネタになりそうだな。
俺は見当違いのことを考えながら、どんどんと非常食に湯を注いでいく。
腹っぺらしの大食漢は、味を変えて二つ食べ比べている。
俺の手元には、缶入りチョコパンが二つと、乾パン1缶が残るだけ。
…まぁ、仕方ねぇか
俺は、自販機でコーヒーを買い、チョコパンで腹を満たした。
雪は、こちらの事情など一切お構いなしで降り続けていた。
周囲を見ると、みんな「ちょっとしたアクシデント」を喜んでいた。
本当に研修生は妙に楽しそうだが…俺にとっては「現場の異常」…あんまり素直に喜べない。
なにかの突発イベントか、のように感じている研修生。
そんな彼らの笑い声を聞きながら、俺は…ちょっとだけ…現実に引き戻される。
…夜飯、大丈夫なのかな?
雪は、まだ降り止む気配がない。
俺は…ちょっとだけ…不安になった。
南関東に住んでいるときは「北関東って、雪がすごく降る」とか勝手に思っていました。
でも、赴任地として住んでみると…年に1回とか2回…あんまり南関東と変わらない。
大きく違うのは「溶けるまでやたら時間がかかる」から、スクーターだと路面凍結が怖かったです
お昼が来ない、という雪は5年で3回でした。
会社は、いい避難訓練、非常食が無駄にならない、とか言いますが…人の身になれやごるぁ!と思います




