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逆襲のささかま

単身赴任先の独り住まい。

当然ながら同居する人間もいなければ、友人と呼べる人もいない。冷蔵庫の音がやけに響く、そんな虚ろな部屋。

唯一の話し相手、ともいえる「世界最大手と思える通信販売会社が出している、便利そうで不便さがちゃんとある端末」に、今朝の気温を尋ねてみる。


…今朝午前6時の気温はマイナス1℃です


「とんでもなく芸達者で、演技も上手な女性声優さん」を真似ているのか「彼女が芸として昇華させている」のかは不明だが、あっさりと氷点下を下回る、と返答をする。

もう、並みの防寒着ではスクーターは無理だ、と悟った俺は、フリーザーバック(小)に使い捨てカイロを仕込み、さらに一枚余計に着込んで研修所に向かった。


研修所内のあちこちを回って、空調を22℃自動設定にして回り、俺が学食へと向かう。

学食へ向かう通路は、一部が屋外を経由するため…とにかく冷える。

俺は身を縮めながら、学食へと急いだ。


ここまで冷えると、開店と同時の利用者はほとんどいない。


…建物内は空調で温まってるとはいえ、通路や共有部はそこまでではない以上出足は鈍るんだろな。


俺はそう考えながら、朝415円の「一汁三菜」、今日の献立を現物で確認する。


『今日の献立』


主菜:笹蒲鉾(2枚)

副菜①:かぼちゃの煮物(2個)

副菜②:レンコンが結構目立つひじき五目煮


…前に言ったよね?

…笹かまはさ、おかずじゃないって、言ったよね?

…北関東ではそうかもしれんが、おそらく産地の仙台あたりでも、朝ごはんのおかずにはしてないよね? しらんけどさ…

…今度、仙台支社所属の研修生にきちんと「笹かま、朝から食べるの?」って聞くからな!


いくら二枚ある、とは言え…と、思い、白米配膳列に回る。

配膳担当のオッサン(推定年齢70歳)の前に立ち、低調気味に「…おはようございます」とあいさつをする。

オッサンは「いいっすよね、笹かま!今日は大サービスで二枚!(北関東風)」とにっこにこで声をかけてくる。


…枚数、というよりさ


もういいや、自分で準備するより本当に楽だし、この寒い地で朝から冷え込む氷点下のキッチンとかホントごめんだし、と気を取り直す。

オッサンは「いけね、わすれてた」と、瓶入りのわさびを取り出して、おかず皿にチョイッと塗ったくる。

汁椀担当の東南アジア女性スタッフは「キョーモー、オオモリ―」と、あふれんばかりの具を詰め込んだ汁椀を渡してくる。


あまり本気ではないていで「ありがとうね」とつぶやきながら…白米と汁物を受け取り、俺は着席した。


かぼちゃの煮物に手を付ける。普通に、うまい。

レンコンが結構目立つ五目ひじき煮に手を付ける。うん、白米に合うよ…レンコンの主張が気になるけど…でもうまい。

俺はあえて笹かまを外す。

かぼちゃの煮物、五目ひじき煮、納豆をかけた白米…これを延々繰り返していく。


間にはさんだ汁椀は、かぼちゃと油揚げの味噌汁。

かぼちゃが少し溶け出していて、かすかにとろみすら感じる。

これもうまい。


そして、すべてを食べつくした…笹かま以外は。

大サービスの笹蒲鉾…俺は、上着の内ポケットに仕込んであるフリーザーバック(小)を取り出し、笹蒲鉾2枚と、使い捨てカイロを入れ替えた。


…いくら何でも…笹かまでごはん、食べにくいよ


そう思った俺は、笹かまをそっと鞄に入れ「完食した」ていで、席を立った。

学食を出て通路を歩く。そこに、北関東特有の空っ風が俺を追い越すように駆け抜けていく。


…今夜は笹かまで一杯やるか…寒いけどなぁ…


笹かまに合う料理方法、俺は全く思いつかない。

だいたい…笹かまは、それ単体で完成している。


…せいぜいチーズでも乗せてトースターで焼く程度かな


冬至が迫った北関東…かぼちゃ推しは、確かにうまかったが…笹かまの入った内ポケットは、かさ高い重さを主張していた。

笹かま…嫌いじゃないです。

食べ方の問題かな、って思っています。

朝の定食で、よく冷えた笹かまが出てくると、ちょっとだけ、へこみます。

そういえば、このところ出てこないな…

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