豚バラエキス!2000mg配合!
遠くにあるはずの山が、くっりきと見える朝。
晩秋の北関東…もはや初冬と言えるほどの冷え込みの厳しさ。
俺は今朝から「キャメルのスパッツ(和名 らくだのももひき)」を着用している。
…これでしのげるうちはいいけどな
まだ冬本番でもないのに、この冷え込み…聞いてはいたが、北関東の冬は、やはり南関東のそれとは違う。
俺は背を丸め気味にスクーターを走らせ、研修所へ向かった。
研修施設のあちこちの空調を、22℃自動設定にして回る。
52歳初老の俺が、この研修所では若手に入るほどの「高齢者の職場」、研修所とは、そういう場所でもある
中間管理職の初老の俺でさえ「小僧扱い」…年は取りたくねぇなぁ…と思いながら、空調を入れて回り、そのまま食堂へ向かった。
今朝も冷え込みが厳しいせいか、研修生の出足は鈍い。
俺はホットケースからおかず皿を取り出し、今日の献立を現物で確認する。
『今日の献立』
主菜:豚バラ大根「風」
副菜①:相も変わらずニンジンが目立つ筑前煮「風」
副菜②:秋以降わりと定番な、レンコンのきんぴら
ぱっと見は悪くない。
悪くないのだが…豚バラ大根「風」…白っぽいのは、おそらく「バラ肉の脂身もしくはその周辺」
大根は、ちょっと刻み過ぎじゃないか、という「ギリ煮物大根サイズ」
筑前煮は、ほとんど鶏の姿はなく、ニンジンが目立ち、最近じゃレンコンまで幅を利かせる。
そのうえで「北関東推し!」のレンコンのきんぴら。
…415円だもんな、朝から寒いキッチンに立って朝食準備するって考えたら…ありがたいよな
俺はそう考え、白米配膳列に回る。
すでに白米配膳列にいる研修生は、相も変わらず「ざまっす!」「ざっす!」「っす!」という、どこまで崩せば気が済むのか、という挨拶をしてくる。
でも「挨拶もろくにできない」わけではなく「その気はある」という評価はできるし、かわいげだって十分に感じられる。
俺は「おはようございます。今朝は結構冷えるよね」と、丁寧に応じる。
配膳担当のオッサン(推定年齢70歳)にも、俺は「おはようございます」としっかり声をかける。
オッサンは「今日は普通の大盛りいくつ?」と、尋ねてくる。
…今朝は、一つでいいよ。
と思い「一つで」というと…そこそこの大盛りを一つ手渡してくる。
東南アジア女性スタッフは、相も変わらず「汁椀の大盛り(ぐだくさん)」を渡してくる…もう最近の俺は、直してもらうのも面倒なので、そのまま受け入れている。
俺は席に着き、早速朝食を取り始める。
豚バラ大根…白っぽいのは…これ、バラの脂かな…あ、これ、油揚げが裏返ったやつだ。
あまり行儀はよくないが、豚バラ大根「風」の具を、箸で種類別に分けていく。
だいこん、だいこん、あぶらあげ、だいこん、あげあげ、だいこんあげ…あれ?
肉が…ないな…ん? この筋状の…糸くずっぽいのは…肉だ。
あげあげだいこんあげだいこん、すじ…あげ…だいこん…すじ…肉はどこ?
…なっ…なんだ、この配分……
俺の視界が本格的に狭まる。
久しぶりのことだが、別に急性の病気などでは、ない。
あまりにも、な、具材配分量への怒りが、俺の血圧を押し上げているだけだ。
俺はとっさにほかの研修生に視線を送る。
ほかの研修生も…テンションは全く上がっていない。
向かいの席の皿も「あげあげだいこん、あげだいこん」の様相だ。
目が合った研修生は「先生…あの…肉、ありました?」と小声で聞いてくる。
俺は、首をブンブンと音がするほど横に振る。
…だったらさ、もうさ「豚バラエキス大根」て名前で売ればいいじゃん!
…味わいはホント悪くないし、むしろ大根柔らかくてうまいくらいなんだから!
…正直に「豚バラエキス配合!2000ミリグラム!」とか記載すればいいじゃん!
俺はそっと鞄から、対納豆ヒミツ兵器の一つ…柚子胡椒なめたけを取り出し、納豆と混ぜ合わせて食事を勧める。
ぼんやりと「2000ミリグラム配合って、すごそうだけど…1円玉2枚くらいの重さだよな」と考えながら、食事する。
窓の外に目をやると…いつの間にか…芝生が、冬枯れが忍び寄っているかのような色合いになっていたことに気が付く。
空はとても青い…が…どことなくやるせない。
豚バラエキス大根…うまいけどなぁ…とつぶやく俺の心の中を、空っ風が吹き抜けていった。
ホントに偏りがすごいとき…こんな豚バラ大根に当たります。
たぶん、なのですが…早く来ている研修生さんが…みたいなことも(聞いた話では、過去に)あったようです。
自分は二度ほど「ハムエッグのはむなし」「ハムエッグのエッグなし」なんかにもあたっています。
オッサンに聞いたら「忘れるはずがない、だれか食べたんだ!」…いや、どんだけ原すかせてんだ?
マジで、こわいです…




