新米がやってきた
北関東の秋は短い。
スクーターの水冷エンジンも、始動直後は少し高めに回りたがる季節になった。
ハンドルカバーのおかげで手は守られているが、今度は下半身が切ない。
…そろそろキャメルのスパッツの出番か
そんなことを考えながら食堂へ向かった。
朝の冷え込みのせいか、研修生たちの動きも鈍い。
開店直後に姿を見せる人数もめっきり減り、ホットケースのおかずの減り方がそのまま証拠になっている。
…確かに寒いもんなぁ、布団に捕まっちゃったら、逃げたくなくなるよなぁ
俺はそう考えながら、朝415円の「一汁三菜」、今日の献立を現物で確認する。
『今日の献立』
主菜:5cm四方程度の大きさに切られた、サバと思しき塩焼き
副菜①:切り干し大根の煮物
副菜②:中華風春雨サラダ
…ホント魚が小さいな
俺の視界が、いつものようにじわっと狭まる…が…今日はちょっと違った。
ペラペラのコピー裏紙に「今日から新米!(茨城県産)」と、へったくそな字で書かれ、張り出されている。
「新米」…この一言で、何か救われたような気がする。
魚の小ささがなんだ、おかずのショボさがなんだ、新米と納豆で2杯は食えるぞ、新米、どんとこい!
そう思いながら、俺は配膳担当のオッサン(推定年齢70歳)に「今日は普通の大盛り2つ!…あ、おはようございます」と声をかける。
オッサンは瞬時動きを止め考えながら…「おはようございます! センセ、これっくらいで2つ?」と確認してくる。
…きちんと指示しないと、仏壇あたりのお供えごはんライクなコッテコテの山盛りを平気で作るじゃん?
俺は余計なことを言いそうになるが、今日は新米、文句も言うまい、と思いつつ、にこやかに受けとる。
汁椀担当の東南アジア女性スタッフは「キョウハートンジルネー」言いながら、普段よりも大きい椀で「具の大盛り」を渡してくれる。
俺よりも後から来た研修生も「あ、新米だって!」と喜んでいる。
早速席に着き「新米」を食べる。
うん、おいしい…電気釜ではない、炊き立て熱々のごはん…しかも、新米…外す要素はない。
早速「対納豆ヒミツ兵器参號」である「ゆかり」を鞄から取り出し、ご飯に混ぜ込む。
その様子を見ていた研修生が「それ、絶対にいいですね」と声をかけてくるので、よければ使いなよ、と手渡す。
その研修生も、ゆかりごはんに白米を変身させる。
「香り高くていい!」と大喜びだ。
だが「ヒミツ兵器…真価はそこではないよ」とばかりに、俺は納豆のパックを開けて、そこへサラッとひとふりする。
よく混ぜ込み、ご飯にどーーーーーーんとぶちまける。
これが「昨日教えた、品質向上提案」だ、と言わんばかりにぶちまける。
「俺も試したいです!」と訴えかけてくるその視線…まるで柴犬…どっかで見たことあるな…と思いつつ、どうぞ、と「ゆかり」を渡す。
研修生は「品質向上提案を受けた納豆ご飯」を一口食べ「これ、この近所で売ってますか?」と尋ねてきたので、簡単に場所を教える。
そんな動きを察してか、研修生たちが続々と集まってくる。
…ゆかり、なくなっちゃうな…でも100円(特価)だし
俺は、研修生に「ゆかり」を任せて食堂を後にした。
翌日の朝…食堂のテーブルは「なめたけ」「ゆかり」「ひろし」「海苔の佃煮の小瓶」「レトルトカレー」であふれかえっていた。
オッサンは「センセ、ちょっといい? あれさ、かたつかないし…持ち込みはちょっと遠慮を…いや、センセはいいんだけどさ…」と、苦情を言ってくる。
俺は平身低頭しながらも「生活指導って、俺の仕事の範疇ではないんだけどなぁ」とぼんやり聞きながしていると「ちょっと、センセ!ちゃんと聞いて!」と叱られる。
東南アジア女性スタッフは「ソウジ、デキナイネー、オネガイー」と手を合わせ、かわいさを強調しながら頼んでくるが…その目は、どちらも笑っていない。
「わかりました、今朝の研修の冒頭で注意をしときます」と伝えた。
北関東の冬はもうすぐそこだ。
俺の心を、冷たい木枯らしが吹き抜けた。
初冬になると、学食でも新米を使ってくれます。1年目の冬は、ホントにこれがうれしくて、おかずがショボければ2杯もらう、を繰り返していました。
いろいろな「ごはんのとも」を持ち込んで楽しんでいました
この「あと片付けの始末の悪さ」をうけ、中古の100リットル冷蔵庫を自腹で飼って食堂内に設置をしました。未だに現役で動いています(中身は、毎週金曜日午後に全廃棄って製薬つけて使ってもらってます)




