学食における資本主義
俺が勤める研修所は、北関東の地方都市にある。
そこそこの人口数を誇り、有名どころの企業の工場などもたくさん進出している。
食品メーカーを始め、自動車メーカー、重電機メーカー、建設重機メーカー…枚挙にいとまがないほどだ。
今日、俺は「昔、親分さんを名乗っていた芸人の名」を冠した、世界的な建設重機メーカーが持つ「研修所」に、研修を受けに来ている。
様々な免許や資格を持つ俺は、数年に一度程度は「自動車運転免許で言うところの更新作業」のようなことをしに、研修を受けることがある。
現場にいたころは「開始数分で居眠り(怒られて起きる)」をする、質が悪く、出来の悪い研修生だった。
…それがまさか、自分も講師やってるとは思わなかった。
俺は、企業内研修所の講師として、よその会社が主催する研修って、どんな工夫をしているのか…それを見学する目的を隠し持ちつつ、参加した。
受付を済ませ指定された教室に入ると、すでに数名の研修生が席に着いていた。
…みんな真面目そうだ。
開始前からテキストを開いている者もいる。
…俺が研修生だった頃とは、えらい違いだな。
講師役の社員が入ってきて、オリエンテーションが始まる。
様々な注意事項…指定箇所以外禁煙、無関係な箇所への立ち入り禁止…さまざまな説明を受けた。
一番最後に「昼食あっせんがありますので、必要な方は申込用紙に記入して、現金でお支払いください。種類はいくつかあります」と説明された。
…目の前にコンビニはあるけどな。
いちいちで歩かないでいい、という単純な理由から、俺は「日替わり定食(540円)」を申し込み、引換券を貰った。
普段、給与天引きで食べているものよりも100円は安い。
昼食の申し込みを済ませると、すぐに研修は始まる。
内容は安全管理、最新の法改正など、どれも俺が普段教えている内容と大差ない。
だが、講師の話し方や資料の見せ方は、やはり会社ごとに個性がある。
「ふむふむ」とテキストのすみにメモを残しながら、真面目に受講した。
そして昼になった。
研修所の案内に従って、昼食会場へと向かう。
盆を持ち、配膳待ちをしていると「なんか、普段と変わらんなぁ…立場こそ違うけど」と思えてしまい、俺は一人苦笑する。
引換券を準備し、配膳を受けようとすると…そこには「見慣れた厨房用白衣を身に着けた、60歳代と思われる女性」がいた。
胸元に書いてある企業名をしっかりとみると…なんと学食と同じ会社。
…えらい偶然があったもんだな
そう思い、昼食の献立を確認する。
今日の日替わり定食の札には、こう書かれていた。
「白身魚フライ・ミニコロッケ・ミニハンバーク・ひじき煮・キャベツ千切り・マカロニサラダ・漬物(ごはん味噌汁のお替りは1回まで。大盛り無料。)」
…なかなかのもんだな。
と思った俺の視界は…その途端…とことん狭くなる。
うちの会社に来てるの、これより一品少なくて600円を超えるんだぞ?
違う会社ならそれは理解できるが、同じ会社だろ?
しかも、たまにわけがわからん、変なもんが主菜に出るんだぞ?
ひどいときは「は○れメタルみたいに盛られたなめたけおろしとか、向こうが透けて見えるハム」とかだぞ?
どうしてこんなに差がつくんだよ!
…よく考えなくても、理由はある。
世界的な企業、工場に併設されている研修所…地図を見る限りでも…滑走路とか作れそうなほどの敷地にわんさかと人が勤めていて、朝夕は周辺の道路が大渋滞するくらい。
利用総数はおそらく日量1000では効かないだろう。
ところが、うちときたら…研修所のみ、研修生が来ないときは俺一人しか利用しない日もある。
いくら月額の運営固定費用を支払っているとはいえ…一人しかいない日は…厳しいはず。
席につき、540円の日替わり定食を食べてみる。
味わいは当然一緒…おかずの品が多い分、満足度はこちらのほうが、はるかに高い。
お替りは一回無料、につられ、ごはんと味噌汁を貰い、完食し…昼食を終えた。
外に出て伸びをする。
今日も天気はいい。
…わかっちゃいるけどさ
…資本主義ってこんなもんだけどさ
毎日毎日「こんなに差がつく、同じ会社が出している昼定食」「しかも、自分のところは間違いなく割高」…わかっちゃいるけど…さ
時間は容赦なく経過し、昼休みが終わる。
今日の天気とは裏腹に、俺の心は曇天模様…そのまま、教室に戻った。
偶然の産物でした これ、ホントにびっくりしました。作中に果たさなかったですが、辛さのあるカレーとか、麺類までありました。仕事にもかかわるので、年に一~二度、世界的な建機メーカーの研修施設に行きますが、こちらの「学食」も楽しみにしています。
まぁ、普通に「ここの工場の関係者だけでも、自分が勤める会社よりも規模が大きい」ってだけで、食堂の手厚さなんかも変わってくるのは当たり前ですが…でも、なんか、釈然とはしませんでした(笑)




