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副菜×副菜×副菜

あの「憎たらしい入道雲カリフラワーの呪縛」から、ようやく解放されつつある季節。

最高気温予測は30℃を下回り出したが、ここは北関東。気温が爆上がりするのに、前触れなどない。


…まだ、油断はできない。


今日の研修は入社4年目対象の「模擬工事実習」。大がかりな屋外作業があるため、気温の動向には気を配らなければならない。

研修内容が大掛かりになればなるほど、入念な準備が必要となる。

工具、機材、材料…そんなものの数量チェックや、破損などがないかの確認はもちろんだ。

研修生が休憩室代わりに使う実習室の環境の調整なども、特に気温が高い日は重要だ。


俺は朝のうちに、実習室の空調を24℃自動にセットした。


…6時30分か…食堂が開く時間には間があるが…行ってみるか


通路ですれ違う研修生たちに「おはようございます」と声をかける。

コミュニケーションの導入口として、そして健康状態の把握として、これは欠かせない。


…特に体調に異変のある者はいないようだ。


俺は、安心しながら「開店前の学食」へと進む。


今日の献立


主菜?①: ゴルフボール大のがんもどき ×2個

主菜?②: にらと細切り人参が大量に混ざり込んだ炒りたまご

主菜?③: いんげんと細切り人参のショウガ風味煮


俺の視界は、ここぞとばかりにじわっと狭まる。

当然ながら熱中症などではない。

どれが主菜なのか皆目見当がつかない「虚無」が胸に押し寄せ、その悲しみと怒りが血圧を押し上げ、視界を狭めるのだ。


北関東では、この三品のうちどれかが「主菜」になるのか?

ゴルフボールがんもどきが「主菜」なのか?

大量のにらと人参に埋もれた卵を「主菜」と呼ぶ文化があるのか?

それとも、あっさり仕立てのいんげんと細切り人参のショウガ風味煮が「主菜」を名乗るのか?


副菜?①: ゴルフボール大のがんもどき ×2個

副菜?②: にらと細切り人参が大量に混ざり込んだ炒りたまご

副菜?③: いんげんと細切り人参のショウガ風味煮


……こっちのほうがしっくりこないか?


415円という低価格、そして白米と汁椀が暖かいという利点はある。

あるのだが…今日のラインナップは、少しだけ…かなり…切ない。


俺はしょげながら白米列へ移った。

開店前のためか、配膳担当のオッサン(推定70歳)は俺を見て目を丸くする。


「あら、センセ、早いねぇ…あ、そか…大掛かりな研修あるって言ってたもんね(北関東風味)」と、声をかけてくる。

「すぐ用意するからね」と言いながら白米の普通盛りを準備して、俺に手渡す。

茶碗を手にしながら、やや低調な声で「おはようございます」と挨拶すると、オッサンが、「でも、センセ、なんか元気ないねぇ」と声をかけてくる。


…そら、そうでしょ…全部副菜っぽいし、肉も魚もないんだもん。


その言葉が口をつきそうになるが、オッサンが献立を決めたわけでもないし、開店前なのにいやな顔せずに準備もすぐにしてくれる。

それに水を差すようなことを言うのは違う…俺は当たり障りのない返事で受け流した。


汁椀を担当している東南アジア女性は、そんなやり取りをさして気にもとめず「ドゾー、オオモリヨー」と汁物を「盛って」渡してくる。


…なんだよ、汁物の大盛りって。


笑いを堪えながら受け取ると、汁椀はずっしりと重い。


汁椀の具材①:わかめ

汁椀の具合②:たまねぎ

汁椀の風味:澄んだスープだが、汁っ気がかなり少ない


とにかく具材がぎっしり。汁はどこだ、というほど具材だらけ

配慮はありがたい…ありがたいのだが、ここにもたんぱく源はない。

どことなく、というか、かなりアンバランスなイメージがある朝食を済ませ、俺は研修生を迎えるべく実習室へと移動した。


午前9時。研修生が出揃ったところで「おはようございます!」と声をかける。

意識合わせもかねて、軽い雑談から入る…そこで、俺は今朝の朝食の話を振ってみた。


「なんか…副菜だらけだったよね?」しかし、研修生たちは一様に不思議そうな顔をする。

「あれ? なんか違った?」と聞くと、「いや、大きめの肉シュウマイ、2個ついてましたよ?」


…え?


そう…俺が入ったのは 開店30分前。

肉シュウマイは「まだ、皿に乗る前の時間帯」だった。

全てを悟った俺は、心の中で静かに言った…オッサン…ごめんな。


9時30分、屋外研修が始まった。

空には秋の気配を告げる、かわいらしいうろこ雲。


その空を見上げながら、俺はつぶやいた。


「……腹減った」

ホント、オッサンごめんなさい。研修開催都合で早出になった時、開店前に押しかけても、いつも「はいよ」と受け入れてくれるのに。でも、ホントお願いがあるとすれば…「一言でいい」から「もうちょいでできるおかずあるから取りに来て」って言ってくれたら・・・あ、贅沢は言いません。でも、ホント、オッサン、いつもありがとう。

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